インタビュー

地域課題を解決するエッジAIの活用 〜株式会社エイシング(AISing)〜

日本デジタルトランスフォーメーション推進協会では、「Tokyo Contents Business Award 2021」(※)を受賞された方々の中から、企業連携や地域課題解決に積極的な企業5社をお招きして、サービスの内容をプレゼンしていただくオンラインピッチイベント「JDXピッチ『Web3時代を牽引するベンチャーとの共創』」を2022年3月に開催しました。

最初にご登壇いただいたのは、株式会社エイシング(AISing)です。開発した機械組み込み型AIアルゴリズム「MST(Memory Saving Tree)」は、エイシングが開発した「エッジAI」のAIアルゴリズム「AiiR(AI in Real-time)」シリーズの一種で、Tokyo Contents Business Award 2021で奨励賞を受賞しました。

エイシングの要素技術であるエッジAIについて、COOの江澤 道広さんにご紹介いただきました。

(※)Tokyo Contents Business Award 2021:社会課題を解決可能な先端技術を保有する中小企業の発掘を目的とした、東京都主催のアワード。第1回目となる2021年度には56件の応募があり、9件の優れたコンテンツを表彰するに至る。

登壇いただいた方:江澤 道広さん(株式会社エイシングCOO)
モデレーター:森戸裕一(一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会)アシスタント:大久保誠子さん(九州DX研究会、富士通ジャパンの福岡支社)

株式会社エイシング(AISing)
所在地:東京都港区赤坂6-19-45 赤坂メルクビル1F
設立:2016年12月
事業内容:「MST」(Memory Saving Tree)をはじめとした機械組み込み型AIアルゴリズム「AiiR(AI in Real-time)」シリーズの開発

通信の量が増えても動作性が担保される「エッジAI」

江澤さん:一般的な装置機械には、何か動作した後の情報をもう1回制御装置に戻して、
過去のデータをもとにさらに次の制御をかける、「フィードバック制御」が搭載されていますが、フィードバック制御だと、過去の情報をもとに次のステップを予測すること、予測による制御を適切に行うための時間がかかってしまいます。機械制御の世界では、最適化に必要な時間が結構致命的になることもあるんです。

弊社が開発した「エッジAI」は、通常のAI(人工知能)と異なり、小さい装置や機械に実装可能な、超軽量で小型のAIです。AIの特徴である予測と、予測値を制御に使うことによってそのプロセスや機械の動作をより早く収束しコントロールする、機械制御に特化しています。また機械を操作する自動制御装置に組み込むことで、5G、6G……と通信の量が増えても、通信の遅れにも左右されずネットを介さずに動作できます。高精度で、追加学習を機械を操作する端末で行えることも特徴です。

工場の自動化を進める製造機器以外にも、小さいところでは例えばドローンに組み込まれているモーターをAIで制御するところから、大きいところだと自動車のようなモビリティ、
エネルギーを削減あるいは節約するための装置、巨大なトンネルを掘るためのシールドマシンの制御などに使われております。

生産中に発生する不良品の削減に成功した、オムロンの事例

江澤さん:弊社ではエッジAIを使って、他企業さんと共創しています。その中から、フィードバック制御にフィードフォワード(将来予測)を組み込むことで不良品を削減できた、
オムロンさんの事例をご紹介します。

フィルムの貼り合わせ機を動かし始めたとき、機械の振動で貼り合わせのズレが必ずと言っていいほど起きてしまい、ズレの部分がロスになっておりました。これまでのフィードバック制御ではブレの収束までに10秒間ほどかかっていたのを、AIによる予測制御を装置に組み込むことでブレを1秒で収束させ、1工場あたり年間5~6,000万円分の不良品を削減できたというデータが出ています。


弊社には独自のAIを開発している点、製造機械・装置の知見を有していること、機械プロセスにAIを組み込むための知見という3つの強みがあり、世界に冠たる日本の製造業様に、
エッジAIと匠の技をAIに置き換えるソリューションをご提供しているところです。

人間の匠の技をAIに置き換える

森戸:DXの文脈で、何か最近取り組みをされてることはありますか。

江澤さん:切削加工装置は、匠の人が操作すると上手く削り上がる、あるいは上手く型が取れます。そういったものを一般的なAIに適用すると非常に高価になるだけでなく、別途ネット通信が必要になります。

また従来ですと、大量のデータを扱うときにその人の経験値で今までは計算を行いその計算あるいは人の暗黙知でいろいろな操作、プロセスを行っていました。そうなりますと、
データ入力変数が変わっていくあるいはデータが多くなればなるほど複雑なモデルになっていくので、人手であるいは人の頭の中であるいは熟練、匠の技でしかできないようなプロセスになっていたわけです。

エッジAIでは、このプロセスをAI に置き換えることが可能です。人の匠の技をAI自身が予測あるいはモデルを構築することによって、大量で多品種のデータが入ったとしても、人の手を借りることなく自動で制御あるいは予測を行えます。

こちらはまだ検討段階ではありますが、建設機械などの自動運転に対しては、人手ベースですと荷物、つまり荷重が重い時はゆっくり、軽い時ははやく制御ができるんですけれども、そういった熟練巧の技をAIで置き換える事によって、産業建機の自動化、といったものが
実現可能です。

ヘルスケアや農業――活用分野は無限大

森戸:離島の通信環境の課題、離島でどうしても通信環境が悪いところで、例えば農業にドローンやセンサーを使うところも、エッジAIであれば通信環境によらずに使えるんですか?

江澤さん:おっしゃる通り、通信環境が悪いところにもAIを動作させることは可能で、
エッジAIの特徴でもあります。ただ、アルゴリズムにちょっと特殊な形を使っておりますので、一般的なAIディープラーニングが得意とする画像を中心とした分析よりも、機械制御を得意としています。シミュレーターとして使ってみるといったところで、エッジAIの応用、
ルート選定で得られた観測結果もご活用いただくことは十分可能ですし、こういったところを
十分に検討・実証したうえで、産業化できると思っています。

大久保さん:農業分野でも、ドローンに搭載する計測機械の観測機器の制御や観測結果によるルート選定などにも使えると農薬散布の効率がよくなるし、生育状況の観測の高度化にも使えそうですよね。

江澤さん:ドローンですと、ドローンは空を飛ぶので常時通信も不可能ではないんですけれども、やはりドローンのような風に左右される急速な制御が必要なものについては、こういったドローンの制御装置の中にも弊社エッジAIを組み込めるといった強みができてまいります。

例えばセンサーからの情報を、ネットを介して受け取って窓の開け閉めするのを今やってるんですけど、クーラーとか窓の開け閉めする機械を、直接制御できないかっていう話もいただいております。ビニールハウス1個ごとに日当たりや土地の条件も環境も違うわけですけども、そういった個々の環境に合わせて最適制御できることで、ハードウェアを使うことなく比較的安価にAIを適用していけるというのも、セールスポイントになると考えています。

大久保さん:介護施設さん向けにこういったところを入れられると意外と活用分野広がるんじゃないかなと思ってお話を聞いてました。一人ひとり体型も動きも違うので、そういったところを例えば転倒の予測をするのに活用とかも広がるのかなと思いました。

江澤さん:ヘルスケアに関係するところで、徐々にお話をいただきつつありまして、AIで
予測してあげるあるいは個人の個体差に合わせてその装置あるいは診断装置が賢くなっていくといったところが実現し得ます。

製造業の方々はもちろん、ヘルスケアの分野の方々においても、「小さくて軽い」「機械制御に強みがある」という特徴を有するエッジAIで何かできるんじゃないか、ソリューションを必要とされているのかなと考えております。

まとめ

先端技術を用いたくても、地域に利用したいテクノロジーが存在しなければ、地域課題解決は難しいと感じます。エッジAIは、高齢化社会・少子化が急速に進み、第1次産業の従事者が減少傾向にあり、なおかつ離島を多く抱える日本ならではのソリューションであるといえるでしょう。