インタビュー

「問い」を生み出すエンジニアになる。しろくまさんに聞く、生成AI時代のエンジニア像

AIは様々な業界、場面で活用されるようになり、私たちの生活も豊かさを増している。その中でエンジニアはどのようにAIを活用したり、日々更新されるAI技術にどのように向き合っているのだろうか。今回は、株式会社ファースト・オートメーションでCTO(最高技術責任)を務めるしろくまさんにお話を伺った。

しろくまさん
https://twitter.com/neka_nat

AIによって革命的に変わったコーディング

フリーのエンジニアとして、Web関係から生成AIや機械学習まで幅広い案件をこなすしろくまさん。生成AIを製造業に特化して活用するプロダクトを制作している会社でCTO(最高技術責任)も務めており、技術者として日々AIに触れているしろくまさんは、どんなところにAIの魅力を感じているのだろうか。

一番の魅力は開発に生かせることですね。AIの台頭によって、プログラミングの分野では特にコーディングが革命的に変わったと思います。GitHub Copilot(ギットハブ・コパイロット)なんかは特に有名ですが、コードを書く量がかなり減ってきているんですよ。プルリクエストは全部AIがしてくれますし、簡単なテストコードであれば自動生成も可能です。

先日、GitHub Copilotが落ちて使えなかった時があったのですが、全然書けなかったんです。AIにかなり依存していることを実感しましたね」

まさに、私たちがしなくてもAIが代わりにできるようになってきており、人間の仕事がなくなるのではないかとも言われている。

それについてしろくまさんは、「最終的には人間がいらなくなるのかもしれませんが、そもそも人間って、問いを生み出し、それを解決するようなことを仕事の中でしているじゃないですか。逆に言えば、それが仕事だと思います。

つまり、人間がいらない状態とは、AIが問いを作ってくれて、さらにその解決もAIがやってくれるようなものだと思うんです。例えば、「今日、お金がないので食べるものがありません」という人に対して、何が必要かを考えるところから、食べ物を出すところまでをAIがやってくれるような状態です。

今はそうではないので、ある程度の問いは人間が作らなければなりません。その問いを解決したり、自動化したりしてするツールとしてAIを使うような側面が大きいので、人間がいらない状態になるまでは、まだ時間がかかるのではないでしょうか」

ちょっとした使いづらさも問いに変わる。価値を生み出すエンジニアとは

まだAIは一つのツールではあるものの、使いこなしたり活用したりする人と、そうではない人との間には徐々に差が開き始めている。『生成AI時代』と言われる今、求められるエンジニアとはどのような人なのだろうか。

「これは多くの方が言っていることでもありますが、やはり問いを作ることができる人が求められるエンジニアだと思います。また、そのスピード感も大事です。言われたことだけをするのではなく自ら問いを作り、次々に生み出せる人が、今後どんどん価値を生み出していくのだと思います」

しかし、エンジニアという仕事の中での問いとはどのようなものなのだろうか。しろくまさん自身のこれまでの経験を踏まえて、具体例を伺った。

「問いといっても、『世界を救う』みたいな大層なものでなくていいと思います。エンジニアであれば、『普段使っているツールの中での使いづらさ』のようなちょっとしたことでもいいのです。

例えば、『Windowsで動くけどLinuxで動かない』『このアルゴリズムでは処理が遅い』というのも一つの問いだと思うんですよね。もう少し大きな話で言えば、『ロボットを使った自動化』も問いでしょう。

ですから、問いは本当にさまざまです。でも、そういう『使いづらいな』『こう変えたいな』といった思いが問いの起点になるのではないかと思います」

 

エンジニアが使いやすいAIツールと情報収集のポイント

日頃、業務でも会社の事業としてもAIに携わるしろくまさん。ChatGPTよりも前、2021年に登場したGitHub Copilotを初期から使い始め、ChatGPTもリリース直後から使ってきたといいます。そんなしろくまさんがAI初心者におすすめするツールを伺った。

「エンジニアなら、まずはGitHub Copilotを入れることをおすすめします。これのいいところは、プロンプトなしにコードを勝手に補完してくれるところです。

使い慣れていないと、『プロンプトには何を書けばいいんだろう』と思う方もたくさんいると思います。でも、これは自動的に補完してくれるので、そういったハードルがないんです。

そこから他のツールも目的に合わせて使い、例えば、作りたいものの開発に必要な技術はChatGPTに聞いて、GitHub Copilotでコードを書いていく。そういう使い分けと活用もできます」

AIを使いこなし、目的別で組み合わせることができればどんどん活用の幅が広がりそうだ。一方で、AIを利用する際に注意するべきこともあるという。

「これもよく言われることですが、やはりハルシネーションとセキュリティは注意する必要があります

ハルシネーションとは、AIが事実と異なる情報をもとに回答を生成することです。少しでも怪しいと思ったら、しっかり調べることが重要です。

セキュリティに関して、デフォルトの設定では内容を学習されてしまうので、それをオフにしておいたり、機密情報は扱わないようにしたり。また、案件でGitHub Copilotを使用しても良いか確認するといったことも重要だと思います」

しかし、AIを使ったことがなかったり、まだ慣れていなかったりするような段階では、学習機能の切り替えや、どんなツールがあるかといった情報を持っていない場合もあるのではないだろうか。しろくまさんはどのようにそうした情報を得てインプットしてきたのだろうか。

「AI界隈って、情報量が多いうえにすごく流れが速いじゃないですか。大変ではあるのですが、最新情報をキャッチアップすることはやはり重要だと思いますし、私自身も日頃意識して行っています。

その方法として、個人的にはXが有効だと思いますね。良く見るのは元木大介さん(@ai_syacho)、田中義弘さん(@taziku_co)、海外系ならAKさん(@_akhaliq)です。特に田中さんは、一般的な生成AIツールに加えて、3D関係やロボットについても幅広く発信されているので、特に日頃追っています。

その中で気になった情報は論文を見に行ったり、すぐにできる簡単なものであればアップされているコードを動かしてみたりもします。

そして、情報収集の後に重要なのが、アウトプットに変換すること。私の場合は、気になったことを自分なりに説明するポストをXで投稿しています。情報の多さと速さで追いつかなくなってきてしまうので、なかなか難しいのですが、何かしら残る形にしておくだけで、記憶に残りやすくなると感じています。Xは一番簡単なアウトプット方法なのでおすすめです」