インタビュー

テキストのコミュニケーションの情報量は対面の100分の一に過ぎない -リモートワークの社内体制はどうあるべきか?匿名座談会-

コロナ禍の到来を機に、我が国においてリモートワークの取り組みが急速に拡大し、早1年半ほどが経過した。その間、実際にリモートワークに取り組んでみて、コミュニケーションの取り方など、さまざまな課題を感じている人も多いのではないだろうか。
今回は、国内企業3社でそれぞれリモートワークに取り組む3名の方を招き、「リモートワークの社内体制はどうあるべきか?」をテーマに匿名座談会を開催。そのディスカッションから、「指揮命令系統を明確に」「トップの意思決定力・発信力強化」「ビジネスモデルを変えられていないことにこそ課題が隠れている」といった示唆が得られた。
この記事では、その模様をお伝えする。

座談会メンバー
ファシリテーター 山口 豪志 さん:
株式会社54代表取締役。ベンチャー企業の育成・支援を行なっているベンチャー企業の育成・支援を行なっている。

A田さん:国内大手電機メーカーでマーケター・事業開発を経て、不動産業界に転職。現在は新規事業開発を手掛けている。

B本さん:国内大手電機メーカーでのマーケターを経て、人材業界に転職。現在は化学メーカーの人事部門で勤務し、リモートワークを積極活用。採用・研修のオンライン化に取り組んでいる。キャリアカウンセラーの国家資格を持つ。

中川 祥太さん:株式会社キャスター代表取締役として、リモートワークを推進している

リモートだけで仕事をする難しさ

山口:
まず、A田さんから「リモートだけで仕事をする難しさ」について問題提起があります。具体的にお聞きして、解決法についてディスカッションしていきましょう。

A田:
フルリモート採用になった人たちが、会社にうまくフィットしてない事例を複数見て、リモート勤務に懐疑的になっているんです。コミュニケーションの大きな食い違いが起きているのを目の当たりにしたんですね。

私はいま、新規の社内向けソリューションの実証実験に取り組んでいるのですが、フルリモート勤務で現場を見たことがない人との間で、施策投入段階でコミュニケーションや認識合わせに大きな食い違いが生じているんです。

キャリア採用の方なので、前職で培ったスキル・知見を新しく入った会社で活かすのは良いと思うのですが、入った会社のカルチャーを学ぼう、フィットしようとしないで、無理やり施策を投入しようとすることに大きな疑問を感じました。

リモート採用をしたならば、それに即した新しいフォロー制度、つまり、属している組織の文化にフィットさせるための制度が必要なのでは?と感じているところです。

B本:
普段からキャリアカウンセラーとして、キャリア相談に乗ることもあるのですが、それはリモート固有の課題ではなく、キャリア入社者自身の課題では?

A田:
そうともいえますが、リモート採用で顕在化したと考えています。オフィスに出社してコミュニケーションがあれば、新しい環境を自然と学んでカルチャーフィットするプロセスがあります。しかしフルリモート勤務だと、完全に断絶されてしまって、カルチャーフィットが進みません。今それを、実証実験の結果から如実に感じています。

中川:
あくまで推測ですが、キャリア保持者を断絶した環境から採用・勤務させて、敢えて既存文化を覆そう、という経営判断もあるのかもしれません。もしそうであれば、今の動きが正解ということになります。現場と接触させず、文化に馴染ませないようにして、組織文化をひっくり返していく。そのような変革には、リモートは凄く向いているんです。

山口:
でもA田さんから見た場合、アンフィットな状態であり、会社になじませる仕組みが必要では?と思われたんですよね。

A田:
そうですね。会社に馴染ませる、それは例えば、営業とお客さんとの接点をもっと生々しく知ることなどが考えられます。どんどん積極的に営業アプローチをかけていく文化の会社なのか、もう少し受け身の営業スタイルの会社なのかといった、組織文化や風土のようなものを学んでもらう、ということです。今、そこを何も考えずに、他企業でキャリアを培ってきた人を無理やり移植しようとしているから良くないな、と思ってしまいます。対面で働いていれば、互いの思考の「線」と「線」が交わる余地がまだあると思います。でも、リモートだからずっと平行線のままです。軌道修正も難しいと感じています。

中川:
経営視点で言うと、カルチャーフィットを重視する文化があると、人を入れ替えたい時に変えられない、という課題も生じます。「現場のカルチャーを無視した動き」にはメリットもあるんですよ。

A田:
トップダウンの強い会社では、それもありだと思います。

B本:
「前職で培ったキャリア・知見を新しい会社に馴染ませるか、馴染ませないか」というポイントについて、ハレーションを起こしたままだと異物のまま終わってしまうんじゃないかと思うんです。新しい価値を生み出せないのでは?と感じました。経営判断として、あえて波風を立てるやり方もありだと思いますが。

中川:
今、A田さんが挙げられた事例に関しては、経営判断で敢えて波風を立たせているのか、それとも単にハレーションが起きているだけなのか何とも言えませんが、リモートワークの最大の特徴は、皆が集まる「本社」が無いことです。「皆が集まるオフィスがあったなら、組織文化にフィットできる、軌道修正できるのになぁ…」という想定は、そもそもできません。その前提で組織体制を構築しないと、全部ずれてしまうんですよ。今の日本の経営者の99%は、リモートワークに適する組織体制の構築方法を理解していないと思います。経営者が理解していない前提で、現場が受け止めていく必要があります。意思疎通、認識合わせ、すり合わせのやり方も、今までの働き方とはまったく違う、ということです。

リモートでスムーズに意思疎通をするナレッジは?

山口:
リモートワークでスムーズに認識合わせ・意思疎通・すり合わせをするナレッジについてはいかがですか?

中川:
リモートワークどうこうというよりは、組織内の指揮命令系統が明確になっていれば大丈夫だと思います。
しかし現状、それが出来ていない組織が多いため、オフィスで何となくの摺合せで行われていたことが、リモートだと断絶されてしまい、論点がよく分からなくなる、という状況に陥りがちです。

山口:
リモート採用・勤務の人に対して、経営者、管理役員から「こんなアクションを取るよ」という通達・周知がおざなりになっているから、食い違いが起きる、ということでしょうか。

中川:
そうだと思います。現場にいる人達に無理やり投げられているから、現場のメンバーが辛い状況に陥ってしまう、ということです。

山口:
昔ながらの日本企業であれば、「社長がこう決めたから!」という話を咀嚼して、社内に伝える伝書鳩的な人が居ましたよね。しかしリモートとなると、そういったトップの意図を汲む人がいないから、行き違いが生じてしまうのかもしれませんね。

中川:
リモートでも、トップの伝書鳩的な人は、居ることはできます。
しかし、全ては先ほどA田さんが仰った「オフィスでなら、すり合せが出来ていたのに…」に尽きると思います。
従来は、例えば「オフィスの一角で、なんだか社長の周りが凄く盛り上がってるぞ…」といったシチュエーションで、「言語化しなくても、社員側に伝わるコミュニケーション」が存在したわけです。
でも今は、それがありません。
しかもトップや役員側は、「非言語コミュニケーション」が消滅していることそのものが、理解できていないんです。

リモート採用のナレッジは?

山口:
B本さんのお勤め先では、採用活動そのものをリモートにしているとのこと。入社後のプロセスで工夫しているなどありますか?

B本:
選考も入社手続きも可能な所はリモートで実施しています。入社してから早期に立ち上 がっていただくには周りとの関係構築が重要です。入社後に関係構築ができるところまでは、極力フェイス・トゥ・フェイスでの対応も取り入れています。リモートの良いところと、リモートが苦手なネットワーキングをどうするかという所は整理して活用するようにしています。

あとは採用だけではありませんが、コミュニケーションについて。
リモートで、例えば4人でのビデオ通話なら、4人だけが画面に映っていて、それしか情報がありません。圧倒的に情報量が少ないですよね。
だから、今まで以上に情報量を伝えて、はじめて伝わる部分があると思います。
日本人は、「慮る文化」「ハイコンテクスト文化」「忖度力」などと言われますが、そのような文化は、リモートワークでは一切発揮できません。
コミュニケーションスタイルの変化を社内の管理職や現場のプレイヤーにも理解させる必要があると感じて、「リモートワークにおけるコミュニケーションのポイント」といった社内研修にも取り組んでいます。

中川:
情報量が少ない、というのは、まさにその通りですね。
オンライン会議は、対面の場合と比較して、情報量は10分の1程度しかありません。
それがテキストコミュニケーションになると、100分の1にまで減少します。
だから、相手に認識させる、問題点をすり合わせるといったことが非常に難しいんですね。とにかく丁寧に説明して組織にフィットさせる努力をしていかないと、新規で採用した方はオンボーディングしづらいと思います。

B本:
中川さんが「指揮命令系統を明確にしておけば大丈夫」と仰いましたが、海外企業や外資ではリモートワークがもっと浸透していますよね。これは日本型企業と、欧米型企業の指揮命令系統の違いや、業務分掌の明確さの違いが出ているんだと思います。組織マネジメントの前提状況がしっかりしていると、リモートワークをしやすい。「●●さん、例のアレ、どうなりました…?」といった曖昧で“阿吽の呼吸”のような旧来の日本人同士のコミュニケーションスタイルでは、伝わらない、ということです。コミュニケーションスタイルを変えていく必要がある、と感じています。

中川:
ジョブディスクリプションとリモートワークの相性は比較的良いですね。

山口:
A田さん、働き手として、今後の会社の理想形についてはいかがですか?会社としてこんな機能の用意があると良い、というような。

A田:
コロナ禍とは言え、やはり現場を見てもらう期間が必要ではないかと思います。
今、私が属している会社では、風土としてトップダウンの発信力があまり無いんです。
何となく人が良くて、和が保てる人であれば定着するという雰囲気で…。
だから現場で、キャリア採用された人の中から新しい施策が突然出てしまうと、懐疑的になってしまうんですよ。
フルリモート採用・勤務ならば、一定期間現場を見て「うちの社風はこうだ」と、見させて体験させて、その人自身に言語化させる期間を設けたほうがいいと思います。
その上で、真に社内の課題に合った施策を投入できるなら、リモートでも通勤でも変わらないのではないでしょうか。

中川:
リモート採用・勤務で現場を見せる機会が無いことと、もともと指揮命令系統が明確になっていない会社特性が相まって生じている課題なのかもしれませんね。

未来の理想の働き方を築き上げるには?課題の見つけ方

山口:
A田さんとB本さんは、かつて国内大手電機メーカーで同僚だったとのこと。その後B本さんは外資やベンチャーでの働き方も経験されて、今後来る未来には、どのような働き方が良いと思いますか?

B本:
現在の勤務先でジョブ型人事制度を導入しようと取り組んでいるところです。私自身もさまざまな企業に身をおいて組織内を見てきましたが、人事制度とは詰まるところ、経営戦略を実現する手段だと言えます。
その時々で、経営側が発したいメッセージがあって、社内の意識を変革するためのツールの1つとして人事制度があるのですが、「制度一流、運用二流」というケースもよく見られます。
「これが正解!」という型が無いのが、難しいところですね。

山口:
これまでディスカッションしてきた中で、「指揮命令系統を明確に」「トップは意思決定力・発信力を持つべき」など、取り組むべき姿についていくつか、意見も出てきましたよね。

B本:
今これだけ、不安定で先行き不透明な時代において、「トップがどれだけ情報発信していくか」は非常に重要な要素だと思います。
例えば、トヨタの社長さんみたいな人をイメージしていただければ。
そんな人ばかりではないと思いますが、強いメッセージを発信して「皆、足並みを揃えて変えていこう、変わっていこう、まずはやってみよう!」と音頭を取って変革の先頭に立つべきです。

中川:
今、多くの企業が、今の時代にあったビジネスモデルを再構築することができていないんですよ。
「そもそもなぜ、お客さんは自社と契約してくれるのか?」など、根本から洗い直さなければならない状況にあります。
しかしそのことが根本的に理解されていないから、ほとんどの経営者が、リモートワークどうこうというより、ビジネス環境の変化に対して何も手を打てていないところが多い。
新しいビジネスモデルを構築した先で、組織側がどう、それを受け入れるか。人事制度をどう、構築するか、という議論がなされるべきです。
それを実現するために、指揮命令系統が非常に大事なのですが…
現状では、トップによる、「これからこの方向で行くぞ!」という号令が無ければ動けない会社が多いと思います。
皆が「とりあえずリモートワークに移行するわ」と散り散りになって、現場の実態が把握できてない会社が多いですね。

B本:
アジャイル型という感じで、小さくトライ&エラーを繰り返しながら、より良い方向に持っていく組織にしていかなければなりませんね。
人事制度でいうと、減点方式ではなく加点方式に変えていく必要があると思います。

山口:
中川さんが経営する人材企業に応募してくる人の属性はリモートワーク浸透後、だいぶ変わりましたか?

中川:
コロナ禍で応募数が3倍程度跳ね上がりました。今年の3〜4月には平常時に戻り、都市部の方が減って、地方在住の応募者が増えてきました。比較的日本の基幹産業に該当する企業などは、リモートワークに取り組んでいらっしゃるイメージがあります。大企業では、想定されているほど、オフィスに人は戻らないと思いますよ。一方、中小企業はまったくリモートワークが浸透していない状況にあります。

A田:
中川さんの知っている中で、社長の一声でリモートワーク導入の成功事例などはありますか?

中川:
多角経営の飲食店で、リモートワークを導入した企業があります。
店舗スタッフはもちろん現場へ行くわけですが、バックオフィス系をリモートにしました。
そこで、何が課題になるかって「リモートワーク」そのものが課題じゃないんです。
それ以前に、ビジネスモデル自体に課題を抱えていて、まずその変更を先に考えて解決しなければならないことが多いと思いますね。

最後に・・・ファシリテータ山口の所感

今回の座談会は、もちろんオンラインで開かれたものだが、やはり4人とも顔を映し、情報量を最大化する努力をした上でディスカッションをした。
それでもやはり、伝わる情報はリアルな対面よりも、1/10の情報しか伝わらないと中川氏はいう。
確かに、議論の途中に発言すると音声の関係もあって、複数の人が同時に喋ると聞き取れなかったり、間が空くことで会話のテンポが落ちる。表情だけでなく、身振り手振りが分からないため、いまいち相手のテンションが伝わりにくいなど。

今回の話のテーマであるリモートワーク下でのコミュニケーションは、全ての人に関わる大きな問題になっていると感じる。
社内の用語、ツーカーな関係、阿吽の呼吸など、本来の日本型企業の強みが発揮し難い状況であるからこそ、手法や仕組み、経営のマインドの変化が求められる。

私がランサーズ時代から感じていた未来像、『時間と場所にとらわれない働き方を創る』ということの試行錯誤で見えてきた課題とそれに対しての手段が、今まさに実戦で多用されている。中川さんのナレッジやサービスが社会に対して与えるポジティブなインパクトは計り知れないだろう。