雪国特有の課題に最新技術で挑戦する北海道科学大学工学部都市環境学科の細川准教授。雪害対策から太陽光発電まで、建設・土木分野における研究と教育の最前線を取材しました。
話を聞いた人

細川 和彦さん
北海道科学大学工学部都市環境学科
准教授
「雪で人が亡くなるなんておかしい」—雪国の課題解決への挑戦
「科学技術がこれほど発達した世の中で、雪国では単なる雪で人が亡くなるという不条理を感じます」
北海道科学大学の細川准教授は、毎年予測できるはずの雪害が今も多くの犠牲者を出している現状に疑問を投げかけます。「雪解けると忘れちゃうのかというくらい、毎年同じような事故が起きている」と細川准教授は指摘します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、最新のデジタル技術を活用して仕事のやり方や価値を変えていく取り組みのこと。細川准教授はこれを雪国の課題解決に応用しています。
研究者への道—就職先を辞退して大学院へ
細川准教授は建築工学科の出身です。学部4年生の時には既にゼネコン(大手建設会社)への就職が決まっていました。
「卒論研究で雪氷防災という分野に携わって、工学が広く社会の役に立つ学問だと知りました」と細川准教授は当時を振り返ります。「成績は中間くらいでしたが、『やる気になればいける』と先生に背中を押されて大学院に進学しました」
就職を辞退して研究の道を選んだ細川准教授。現在は土木系の学科で教鞭を執っています。「建築だ土木だという学問分野の仕切りはあまり意識していません。雪や寒さが問題になるのであれば、それは自分の研究領域です」と語ります。
雪害指数で事故を予測する—人間行動の分析が鍵
細川准教授が開発中の「雪害指数」は、天気予報の「花粉指数」のように雪による事故の危険度を予測するものです。
「雪は毎年決まった時期に降るのに、なぜ事故が減らないのか。それは雪の研究者の怠慢だと思います」と細川准教授は率直に語ります。
彼の研究では、気象データだけでなく人間の行動パターンも重要な要素です。「大雪が降っている時に雪かきする人はいません。雪が止んでからやるんです。そこには人が雪かきをしたくなる理由があります」
情報伝達の方法も課題です。「被害者のほとんどが高齢者なので、スマホやネットだけでは不十分。誰からの情報なら受け入れるか、例えば孫から『危ないからやめて』と言われた方が効果的かもしれません」と細川准教授は説明します。
太陽光発電に向いている北海道—意外な事実

「北海道は太陽光発電に向いていないという先入観がありますが、実は違います」と細川准教授は言います。
雪が積もれば発電できないのは事実ですが、他の点では北海道は有利な条件が揃っています。「日射量は東京より多いんです。さらに太陽電池は温度が低いほど効率が良くなります。気温が2度下がると発電効率が1%上がる。同じ光が当たっているなら涼しい北海道の方が有利なんです」
また、本州が梅雨の6〜7月も北海道は晴天率が高いという利点もあります。
課題は積雪対策です。「メーカーは雪が自然に落ちると想定していますが、実際にはパネルの縁に水が溜まって凍り、雪が落ちません。この問題を解決する雪国仕様のモジュール開発が必要です」と細川准教授は強調します。
「雪は邪魔者じゃない」—冷熱エネルギー源としての可能性
「雪は冷熱という立派なエネルギー源です」と細川准教授は新たな視点を提案します。
札幌市だけでも雪対策費に年間278億円を投じているといいます。これを冷熱エネルギーとして活用できれば、コスト削減と価値創造が可能になります。
「雪冷房は一般家庭には向いていませんが、データセンターや農産物の保管施設などで実用化されています」と細川准教授。温暖化で北海道も夏の気温が上昇し、エアコン需要が増える中、雪の冷熱エネルギーとしての活用に大きな可能性を見ています。
雪国の挑戦:課題をチャンスに変える視点
「雪で人が亡くなるなんておかしい」—この強い信念を原動力に、細川准教授は雪国特有の課題に対して従来の枠を超えた解決策を模索しています。雪害対策における人間行動の分析、北海道の低温環境を活かした太陽光発電の可能性、そして「邪魔者」とされてきた雪を貴重な「冷熱エネルギー源」として再定義する発想は、地域の弱点を強みに転換する画期的なアプローチといえるでしょう。
建築と土木の垣根を越え、デジタル技術と科学的分析を融合させた細川准教授の研究は、北海道の持続可能な発展に新たな道筋を示しています。では、こうした革新的思考はどのように次世代へと受け継がれていくのでしょうか。
後編では、ドローン技術の防災活用、デジタルとアナログを融合させた実践的教育法、そして「挑戦する勇気」を育む人材育成について、細川准教授の取り組みを詳しく紹介していきます。