インタビュー

【後編】雪と闘うテクノロジー:北海道科学大学・細川准教授に聞く、建設・防災DXの最前線

最新技術と教育で建設・土木分野を変革する取り組み。ドローンの活用、デジタルとアナログを融合した実践的教育、そして「挑戦する勇気」を育む指導法について、細川准教授に聞きました。
参考:前編はこちら

話を聞いた人

細川 和彦さん
北海道科学大学工学部都市環境学科
准教授

災害現場で活躍するドローン技術—若者の強みを活かす

「北海道開発局のテックフォースがドローンで災害現場調査を行う研究を共同で進めています」と細川准教授は説明します。

テックフォースとは国土交通省が災害時に派遣する専門チームで、被災地の自治体に代わって道路や河川の被害状況を調査します。「人が入れない被災地の状況をドローンで確認する技術が重要です」

教育面では、細川准教授が旭川工業高校定時制のドローン部と交流し、「高校生が地域防災に役立つ情報を集める活動」を支援しています。「実際にドローン技術を武器に北海道開発局へ就職した卒業生もいます」と語ります。

学内にドローンスクールも開校。昨年は17名の学生がライセンスを取得しました。「若い人の方が習得が早くて、みんな楽しそうにやっています。大学生だともう勘がいいというか、さすが若いなと思ってすぐ使いこなしていますね」と細川准教授は評価します。

 

デジタルとアナログを融合した実践教育

細川准教授は3D-CADなどデジタル技術の教育と同時に「現場感覚」も重視しています。「テクノロジーそれ自体を扱うのは単なるアプリケーションを使いこなしているだけです。機械任せに打ち込んだら結果が出てくるということですが、それが本当に正しいのか肌感覚でちゃんと見極められるかというところがポイントです」

特徴的なのは「油粘土」を使った実習です。「CADで描いたら簡単ですが、実際にどう掘削するかイメージできるか確かめるために、油粘土を渡して設計通りに掘らせます。単純な四角い穴を掘る設計なのに、周りを見渡すとみんなバラバラになるんです」

このような実習を通じて、学生たちは図面の読み取り方や空間認識能力を養います。卒業生を招いた授業も行い、「実際の建設現場ではこうなんだよ」という生きた知識を学生に伝えてもらっています。「OBの力は非常に頼りになります」と細川准教授は言います。

また民間企業からの協力で、3D-CADを集中的に学ぶ合宿型講習「DX-Camp」も実施しています。「大学の講義だけでは経験できない、現場レベルの技術や考え方を学ぶことができます」と細川准教授は企業連携の意義を語ります。

 

細川准教授が学生に身につけさせたい二つの力

 

「先を見据えた挑戦をビビらずに行っていける力」と「前向きにコケることを恐れないココロ」

これは細川准教授が学生に身につけさせたい二つの力です。コロナ禍での経験から、「変わることを恐れていたら何もできない」と感じたと語ります。

卒業時に学生へ必ず送る言葉があります。「まず素直になりなさい。今時の子たちは何か言われたら『いや、それは』と理由を言いたがるけど、まずは『わかりました』と言ってやってみる。違ったら自分で工夫すればいい。そのほうが誰も傷つかないし、自分も評価されるかもしれない」

「何もしないでとか怠けてとか後ろ向きに失敗するよりかは、良くしよう良くしようと思って前向きに前のめりになっていって失敗した時の方が価値があります。前のめりにこけた時は笑われても怒られません。その努力や過程は先輩や上司が見ています」と細川准教授は学生に伝えています。

建設業界で若い世代が活躍できる時代に

「建設業はこれまで5〜10年の下積みがあってやっと一人前というイメージがありました」と細川准教授は言います。「でもDXに関しては若い方が有利なので、すぐ活躍できる場があるのが最近の業界の特徴です」

「高校生にもよく言うんですけど、君らの方がおじさん方よりずっと飲み込み早くて活躍できる場が今はあるよ、という話をしています」と細川准教授は語ります。

土木分野は人材不足という課題もあります。「土木自体が人材不足だったり、工業高校の進学希望者も少ない。そこでドローンを武器にして進学者を増やし、その先に大学があり、北海道開発局や民間企業がある。学校も行政も民間もみんな連携していければ」と細川准教授は未来像を描きます。

 

「真面目に遊んで、楽しく学べ」—研究室のモットー

細川准教授の研究室では「真面目に遊んで、楽しく学べ」というモットーがあります。

「真面目に勉強するのは誰でもできる。でも遊びもちゃんと追求しなさい。どうやったら面白くなるか」と細川准教授は学生に伝えています。

研究室では毎晩のように学生たちと一緒に夕食を作って食べるなど、活気ある雰囲気があるようです。細川准教授は遊びの大切さを示す実際のエピソードを紹介してくれました。

「学生に『今日BBQやるぞ』と言ったところ、『雨が降ってきました』と心配する声が。それに対して『だから何?』と返したんです。天候が悪くても楽しめる方法を考えればいい。そういう創意工夫の精神が大事なんです」

このように創造性と柔軟な考え方を育む教育を通じて、細川准教授は次世代の建設・土木分野を担う人材の育成に取り組んでいます。