インタビュー

移動をアップデートする」国内外で自動運転の実証実験を展開・WILLER株式会社が目指す移動の未来

さまざまな業種業態のDX推進に注目が集まる昨今。その中でも「まちづくり」などインフラ分野のDXに関心を寄せている人も多いのではないだろうか。

まちづくりのDXに関連して、街の在り方に変革をもたらすMaaS(マース:Mobility as a Service)の取り組みも見逃せない。

高速バス事業、鉄道事業、MaaS(Mobility as a service)事業、移動ポータルサイト「WILLER TRAVEL」の運営や、自動運転など人の移動のソリューションをトータルに提供しているWILLER株式会社は、直近5年は日本・ASEANにおいてMaaS、自動運転、AIオンデマンド交通といった次世代モビリティサービスの創造に挑戦している。

今回は、国内外における自動運転の実証実験事例と今後に向けた課題について、WILLER株式会社 広報担当の清水氏に話を聞いた。

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移動で世の中を変え、街を元気にしていきたい

WILLER株式会社は、いち早く自動運転の実証実験を展開してきた実績を持つ。まずは、その取り組みの始まりについて聞いた。

清水氏:
「WILLER株式会社はもともと、国内でバス事業・鉄道事業にITマーケティングシステムを導入し『移動で世の中を変えていきたい』という思いの下、様々な事業を進めてきました。

自動運転の取り組み開始以前から、台湾やASEAN地域で移動サービスの展開を拡大し、シンガポールにも現地法人を立ち上げました。

そして2019年、シンガポールの『Gardens by the Bay』『Jurong Lake Gardens』、において自動運転の実証実験及び商用化のスタートに至りました。

初めての地としてシンガポールを選んだ理由は、法律面もありますが、人々の自動運転に対する受容性が高く自動運転の運行にチャレンジしやすい土壌があったためです。また、世界から先進的な企業が集まっている点も着目のポイントでした。

2019年末〜2020年には、日本でも徐々に実証実験等を通してノウハウを広げていきました。2020年〜2021年には、京都府のけいはんな学研都市東京都豊島区愛知県名古屋市でそれぞれ自動運転車両を使った実証実験に挑戦してきました」

そもそも、同社で積極的に自動運転の実証実験やサービス提供を進めている理由とは、「新しいテクノロジーを率先して導入する」といった経営判断によるのだろうか。

清水氏:
「そうですね、テクノロジーを活用してモビリティを革新し、すべての人が自由に移動でき、環境にも配慮した持続可能な社会を実現したいという考えです。

我々は、MaaSは持続可能な社会をつくること、カーボンニュートラルを実現すること、マイカー所有者との移動格差をなくすことであると考えています。

そして、シームレスに繋がる交通システムを創造する上で、ワンマイルを移動する交通サービスがないことに着目しています。つまり、飛行機や鉄道やバスで行った先の移動サービスを作ることで移動総量を増やし、街を元気にしていきたい。それを叶える一つの手段として自動運転に大きな可能性を見出したことが、そもそもの導入のきっかけです。」

シンガポール、けいはんな学研都市、東京都豊島区、愛知県名古屋市、それぞれのプロジェクトで解決したい課題や、生み出したい付加価値は異なる。まずは、シンガポールの事例について詳しく聞いた。

清水氏:
「ジュロンレイクガーデンでは、園内の駐車場と最寄り駅を結ぶ2.5kmを   実証運行しています。

そしてもう一箇所、Gardens by the Bayでは、公園内1.7kmを商用運行しています。Gardens by the Bayは夜間のイルミネーションが綺麗な施設で、年間を通して写真映えするスポットとして日本人観光客にも人気です。そこで車両を大きく改造、側面の窓に映像が映る仕掛けを導入しました。夜は音楽と映像を楽しみながら、アトラクション車両のような感覚で園内を巡回できます。単に移動手段というだけではなく、乗ることが楽しくなるような仕掛けを取り入れています。

[出典]WILLERがシンガポールの大型植物園「Gardens by the Bay」にて自動運転の有償サービスを開始(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000027749.html)

シンガポールの2事例ともに、自動走行していますが、車内にはセーフティオペレーターが常駐し、人の介入が必要なコントローラーを使って人が操作できる仕組みになっています。

日本での事例と大きく違う点は、商用化し、サービス提供が既に始まっていることです」

続いて、日本国内での事例についても詳しく聞いた。

清水氏:
「京都府のけいはんな学研都市では、地域で暮らす人々の目的に合わせたサービスとしての実証を行い、2つのプランを提供しました。

一つは、シニアフィットネスプランです。自宅最寄りのバス停でピックアップし、自動運転車両でフィットネスクラブへ送迎します。コロナ禍でステイホームが長くなり運動不足に陥りやすくなるため、しっかりと体を動かして元気になってもらいたい、というプランです。

二つ目は、快適テレワーク&フィットネスプランです。テレワーク対応ホテルと連携し、自宅からは自動運転車両で移動。途中で降車し、シェアサイクルに乗り換えます。サイクリングで適度に運動してリフレッシュしてから、ホテルのテレワーク部屋へ向かっていただくプランです。

『毎日の生活に自動運転車両を導入すると、どうなるか?』『地域の人の健康増進につながるか?』という目的での実証実験でした。地域の受容性や、コロナ禍でも安心して外出できることを確認したい、という側面もありました」

清水氏:
「そして、東京都豊島区および愛知県名古屋市では、交通量の多い都市部における展開です。

東京都豊島区では、当社にシンガポールでの実績があったことで、東京都の公募プロジェクトに採択され、東京都の委託を受け、街なかでの走行実験を行うに至りました。けいはんな学研都市同様、移動に付加価値をプラスする検証にも取り組みました。『フードデリバリーサービスに自動運転車両を投入するとどうなるか?』という検証です。ユーザーがアプリで呼び出すと、飲食店と連携。車両内に商品を貨客混載し、ユーザーの元へ届ける取り組みです。そして、自動運転車両にとって難易度の高い右折アクションを、交通量の多い公道でも安全に実行できることも確認できました。

愛知県名古屋市では、同市の2021年自動運転実証事業に採択され、愛知県の委託を受け2021年8月〜10月末までの約2ヶ月半、片道最大五車線の幹線道路で実験を展開しました。『交通量の多い幹線道路で一般車両との混在交通の環境下での、安全性ならびに運行計画の妥当性の検証』『定時定路線運行における自動運転化の実用性の検証』『長期間多くの方が利用する場所を走行することによる受容性醸成とコミュニティ醸成の検証』を行いました」

実証実験を通して明らかになった課題とは?

自動運転車両が公道を走行する中で、周囲の車両が「これは自動運転車だ」と必ずしも認識・注視しているわけではないという。つまり、外観を見ただけでは一般車両と区別が付かないケースもあり得る。しかし、その内部構造は通常のバス・タクシーなどとは大きく異なっている。

清水氏:
「例えば、ハンドルやブレーキはありません。そして、燃料も電気です。ライセンスも別途必要です。自動運転車両とは全く新たな乗り物であり、車両を再定義して、付加価値を提供できるよう検討していかなければなりません。

また、現時点では人の手を介入する必要がありますが、将来的には車両と基地局を連携させ、テクノロジーによる無人化を目指しています。

当社で今まさに議論している最中ですが、早急な完全無人化を目指す必要はなく、それよりも人が介入すべきポイントを探ることが重要だと考えています。つまり、人が入ることで安全・安心を担保できるサービス性を重視すべきだ、という考えです」

自動運転の理解・受容につながる取り組み方

[出典]名古屋市鶴舞エリアの幹線道路で自動運転の実証実験を開始(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000102.000027749.html)

さらに、今後の正式運用に向けた課題を聞いた。

清水氏:
「現段階で、当社が運用する自動運転車両の制限速度は時速19キロと、かなり低速です。それに対し一般車両は通常時速60キロ前後で、幹線道路では速度差が大きい点が一番の課題です。発進や、右折・左折のタイミングが周囲の車両と大きく異なり、どんどん周囲の車両に追い越されることになります。今後、自動運転が発展し制限速度が見直せる状況になれば、よりスムーズに都市部に入っていける時が到来すると考えています。

また都市部には数多くの信号機があり、1エリアを走行する中で数多くの信号機を正確に認識する必要があります。全国各地の都市データが整備され、API連携により信号機のデータを一括取得、など可能になれば安全性も高まり、さらに実装へ近づくことができます。

完全無人化に向けた課題は、まだまだ山積しています。テクノロジーの進歩など、我々の力だけでは解決できない領域もあります。

当社としては単に『車両を走らせる』ではなく『自動運転車両を活用してどんな移動サービスを提供できるか』を重視しています。実証実験事例のようにシニア向けプランや、異業種と自動運転を組み合わせるといったサービス設計を実装時にも大事にしていきたいです」

移動と何か別のサービスを紐付けることでキャッシュポイントを生み出し、採算性の課題クリアも目指しているという。

清水氏:
「もともと当社は、高速バスや鉄道事業など様々な移動事業に取り組んできました。公共交通と自動運転が連携される未来を目指しています。移動に付加価値をプラスできれば、お客様への新たなベネフット提供につながり、新たなサービス創出の可能性が見えてきます。快適な移動体験を叶え、より積極的に外に出るきっかけを提供できれば、人々の移動総量も増えていくはずです。すると、我々の既存事業とのリンクも視野に入ってきます」

シンガポールと日本国内の両方で実証実験を行ってみて、双方の社会的背景の違いから発見した課題も聞いた。

清水氏:
「シンガポールでは、日本で言うところの国交省と警察の機能が一元化されています。その一箇所で認可を得られれば新たな施策を進められるため、大変スムーズに実証実験を開始できました。また、地域の人々による受容性も高いと感じました。自動運転車両に対してあまり抵抗感なくファーストライドしてくれる印象です。

一方日本では、さまざまな機関との調整があり、人々にとってまだ自動運転が身近になっていないため、受容性を高めていく必要があります。

我々はシンガポール・日本の両国で取り組みを行ってノウハウや知見を得たので、引き続き人々の認知・理解・受容につなげ、日本の未来に活かしたいと思っています」

国内における自動輸送の公共交通機関と言えば、新橋〜豊洲を結ぶ「ゆりかもめ」は高所の専用軌道を無人走行するシステムであり、乗客も数多く見られる。地域での受容性についてさらに詳しく聞いた。

清水氏:
「日本の社会では『皆が利用しているから安心』『よく見かけるから安心』という心理があるかもしれません。自動運転車両も導入地域が広がり、人々にとって身近な存在になれば、乗るきっかけになるのではと思います。実証実験のお客様アンケートでも『乗るまでは怖いと思っていた』というお声が多かったです」

国内でも都市部と、地方で反応の違いはあるのだろうか?

清水氏」
「それほど大きな反応の乖離はありませんでした。名古屋では約2ヶ月半という長期間運行し(※通常の実証実験は1〜2週間程度)、無料試乗期間を設けたことで何度も応募してくださったり、車両の姿を目にすると手を降ってくれる人も出てきたり、長く取り組むことで地域の受容や理解醸成につながるのだと感じました。アトラクション的に『乗ってみよう』だけではなく、『毎日、身近にあるから乗りに行こう』と、思いが変わっていくんです。そのためには長期間運行も大事だと実感しました。」

実装に向けた要望として、自治体や住民からは具体的にどのような声があったのだろうか。

清水氏:
「愛知県では県主導のプロジェクトにより、当社が実証実験を行う以前からさまざまな構想が進んでいます。2024年に開業する新施設『ステーションAi』と名古屋駅を自動運転車両で結んで路線運行する計画等です。

愛知県の担当者に話を伺ったところ、今後は分散型社会における地方移住という側面で、移住者の移動の課題も同時に解決することができるのではないかと。。

街としては移住者を数多く受け入れたいのですが、その一方で移住検討者にとって地域の交通利便性は大きなハードルとなります。

その課題を解決すれば、移住人口増を期待できる。つまり、地域交通周辺の課題と、自動運転路線バスとの親和性が高いのでは?という考えがあるようです。

ラストワンマイル交通利便性が向上すれば、街の魅力発信にもつながります。

また全国的にも、高齢化や人手不足で公共路線が廃線・減便という地域は数多く存在します。例えば、オンデマンド配車サービスなどを導入すれば、マイカーを持たずとも、マイカー所有と同等の自由な移動の実現が期待できます。それをどうサービス化していくかが、自治体から住民からも、注目度が高いポイントです。

当社は、京都府京丹後市、東京都渋谷区、愛知県名古屋市において『mobi』というエリア定額乗り放題サービスも提供しています。単なる移動手段提供ではなく、その背景には、コミュニティを新たに築いていく考えもあります。地域内の移動を通して、お年寄り同士で話す機会ができたり、新しいママ友ができたり、半径2km圏内の狭いサービスだからこそ利用者同士がお互いに安心感を持てたり、マイカーを地域内でシェアする感覚で、新しい移動サービスになり得ます。

このようなMaaSの一種『コミュニティモビリティ』も、自動運転の取り組みと並行して、これからサービス提供エリアを広げていきたいと考えています。

単なる移動の提供だけではなく、地域のコミュニティづくりなど、社会課題を解決する移動サービスを創っていく。それが現在、当社が注力していることです」

自動運転技術は地域の潜在的社会課題を明らかにし、移動をアップデートするための手段

そして「移動をアップデートする」という考えに関して、清水氏はこのように締めくくった。

清水氏:
「WILLER株式会社は運輸事業者視点のノウハウと利用者視点のマーケティングのノウハウがあり、その強みを存分に活かしつつ今後も取り組みを継続していきます。そして、シンガポールで得られた自動運転についての知見を、自治体などと連携し、率先して国内の現場で活かせる存在になりたいとも考えています。地域の声を傾聴することで、潜在的な社会課題を明らかにし、移動をアップデートしていきたい。その手段として、自動運転に取り組んでいきたい、という思いです。」

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