用語解説

建設現場を大幅に改善・生産性向上!「i-Construction」とは?

「i-Construction」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、国土交通省が推進しているもので、建設現場の大幅な環境改善・生産性向上を目指す取り組みです。

かつては「3K」などと言われた建設現場は、先端技術をフル活用することで、一歩先の未来を行く仕事の現場へと大きく変わりつつあります。

この記事では「i-Construction」の概要、メリット、導入に際しての課題や、成功事例をお伝えします。

i-Constructionとは?

「i-Construction」とは、建設現場の生産性向上を目指す新たな取り組みのことです。

ICT技術を活用し、現場における一人ひとりの生産性を向上させ、企業の経営環境を改善。建設現場に携わる人の賃金水準の向上を図るとともに、安全性の確保を推進する取り組みとして、国土交通省が平成28年から提唱しています。

ここで言う「ICTの活用」とは、「情報通信技術を活用する」という意味です。具体的には、3次元データの活用、ドローンやレーザースキャナなどによる新たな測量手法、ICT建機などの導入で工期を短縮し、かつ安全に測量・設計・施工を進める、といった取り組みを指しています。

かつて建設業界は「3K(=きつい、危険、きたない)」などというイメージを社会から持たれている側面もありました。それを、先端ICT技術の活用により生産性を飛躍的に向上させ、「給与、休暇、希望」という「新たな3K」にイメージを変えていく、と国土交通省では目標に掲げているのです。

[参考]
i-Construction~「ICT技術の全面的な活用」の取り組みについて~|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001118343.pdf

i-Construction~建設現場の生産性向上の取り組みについて~|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001118342.pdf

i-Constructionが推進される理由

それでは、「i-Construction」が推進される理由をもう少し詳しく見ていきましょう。

今後、我が国においては少子高齢化の急速な進行により、生産年齢人口が減少することが予想されています。建設分野においても現場で人手不足に陥ることが予想されており、一人あたりがより効率的に働き、生産性を向上させることは避けられない課題です。

労働力は減ってしまうとしても、一人ひとりの生産性を向上させることで引き続き経済成長は望めます。つまり、「生産性向上」こそが今後の経済成長のキーワードだと政府では位置づけているのです。

労働力不足は、ピンチのように見えますが、危機的状況を解決するためのイノベーションを喚起し、建設現場を抜本的に変えるチャンスでもあります。

調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて生産性を飛躍的に向上させるものとして、「i-Construction」は重要な施策として推進されているのです。

[参考]
i-Construction~建設現場の生産性革命~|i-Construction 委員会https://www.mlit.go.jp/common/001127288.pdf

i-Constructionで何が変わる?どんなテクノロジーを活用するのか?

では、「i-Construction」で具体的に現場の何が、どう変わるのでしょうか?ここで、国道交通省が公開している「ICT土木の活用効果(平成30年度)」のデータを見てみましょう。

[図1]ICT土木の活用効果(平成30年度)

[出典]ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001275855.pdf

図1のグラフで示している要点は、土木の現場にICTを導入することで、起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、平均して約3割の削減効果が見られた、ということです。

また、現場で働く人へのアンケート調査の結果では、

・建設機械に接近して作業する機会が減少し安全性が向上した。
・傾斜地での測量・施工管理作業が減少し安全性が向上した。
・現場管理効率化により帰宅時間が早くなった。

といった回答も集まっているそうです。

続いて、小規模な土木現場でのICT活用効果をデータで見てみましょう。小規模現場では、ICT活用がより高い効果を発揮することも明らかになっています。

[図2]ICT土木(小規模)の活用効果(平成30年度)[図2]ICT土木(小規模)の活用効果(平成30年度)

[出典]ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001275855.pdf

起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、平均約4割の削減効果が見られました。小規模(5,000m3未満)においては、施工以外の作業区分が占める割合が大きいですが、ICT活用によって「施工」と「施工以外の作業区分」で同程度の生産性向上ができました。

このような生産性向上、安全性向上を実現させるために、具体的には次のようなテクノロジーが活用されています。

<一例>

  • ドローンの活用
    …例えば、測量・地質調査プロセスで用いる。高密度な3次元測量を短時間で実施可能。
  • 3次元設計(BIM/CIM)
    …調査設計、施工、維持管理の各段階で発生する必要な情報について、データモデルを介し連携させることで、建設生産システム全体の効率化を図る。従来の2次元の図面に対し、可視化された3次元モデルに形状・材質など属性情報を追加することで、設計での手戻りを減らしたり、関係者間の合意形成を早めるなど高い効果を発揮。企画、調査、計画、設計、積算、施工、監督、検査、維持管理の各フェーズ間でデータ共有ができ、相互運用(マネジメント)が可能となる。
  • ロボットの導入
    …例えば溶接プロセスなど、プログラム通りに動いてくれる最先端のロボットの導入で、現場作業を自動化・工場化。危険な作業や定型作業に人手を掛ける必要がなくなり、生産性向上・安全性向上につながる。
  • レーザースキャナ等を用いた3次元測量
    …現場施工後の検査プロセスにレーザースキャナを用いた3次元測量を導入し、検査を省力化。

 

[参考]
ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001275855.pdf

BIM/CIMの概要|JACIC研究開発部(一般財団法人日本建設情報総合センター研究開発部)
http://www.cals.jacic.or.jp/CIM/cim/summary.html

i-Constructionを推進するメリット

「i-Construction」を推進するメリットして、「現場の生産性向上」というポイントについて繰り返し述べてきました。

しかし、メリットはそれだけではなく、具体的に次のような6つのポイントが挙げられます。

(1)よりクリエイティブな業務への転換

ICTのフル活用により、これまで人が行っていた危険を伴う作業や厳しい環境での作業などの負担が軽減されます。これらの作業に費やしていた時間を、よりクリエイティブな業務に活用することが可能になります。

インフラに対する国民のニーズ、建設現場のニーズも多様化していく社会の中、人でなければできない創造的な仕事を行う、というやりがいのある現場へ変容していくことが期待されています。

(2)賃金水準の向上

ICT活用により一人ひとりの生産性が大幅に向上し、なおかつ施工時期の平準化が進むことで、年間を通じて仕事量が安定し、企業の経営環境が改善されます。その結果、建設現場で働く人の賃金水準の向上と、安定した仕事量の確保が期待できます。

(3)十分な休暇の取得

施工時期の平準化が進むことで、年間を通じて計画的に仕事を進めることが可能となるため、安定した休暇取得が可能な現場環境づくりが期待できます。

(4)安全性の向上

建設業での労働災害は、墜落と、重機等の転倒・接触で約4割を占めています。しかしICT建機の活用により、重機周りでの危険な作業が減少するため、安全性向上につながります。

(5)多様な人材の活躍

建設現場に必要な技術の習得に要する時間が短縮され、危険な作業や厳しい環境での作業も減少するため、若者、女性や高齢者など、多様な人材の活躍につながります。

(6)地方創生への貢献

建設産業は、地域インフラを支える重要な役割を担うとともに、地域経済を支える産業の一つでもあります。その生産性を向上させ、多様な人材が働きやすい現場づくりを進めることは、地域に活力を呼び戻すことにも貢献すると考えられます。

[参考]i-Construction~建設現場の生産性革命~|i-Construction 委員会https://www.mlit.go.jp/common/001127288.pdf

i-Constructionを推進するうえでの課題

ICT技術をフル活用することで、建設現場において数多くのメリットを期待できる、と述べてきました。しかし現状では、課題もいくつかあることを理解しておきましょう。

(1)ICTに対応した基準類が未整備である

測量・設計・施工・検査において、ICTを活用するための3次元データを前提とした基準(例:施工が設計図どおりか確認する方法等を定めた基準など)が現状、未整備のままです。

国土交通省ではICT活用が現場でより進むよう、このような基準の整備を進めており、民間業者から提案受付などに取り組んでいます。将来的には、新基準が標準化されることが期待されています。

 

(2)ICT建機の普及が不十分である

ICT建機の台数は近年増加しているものの、レンタル料が通常建機より割高であったり、企業側がその扱いに不慣れなため、活用が進んでいないという課題もあります。

(3)その他の課題

ICTに習熟していない技能労働者などに対しては、ICTに関する訓練・教育とともに、ICTに関するサポート機関などが必要です。

各種基準類の整備に際しては、従来の基準の設計ストックも多いことなどから、円滑な導入を図ることが求められます。

さらに、受発注者において、そもそもICT導入のメリットが十分共有されていないという課題もあります。

ICT導入で実際にどれだけ成果が上がるかについては、詳しくは次項で掲げる事例の部分で改めて詳しくご紹介します。

[参考]i-Construction~建設現場の生産性革命~|i-Construction 委員会https://www.mlit.go.jp/common/001127288.pdf

i-Construction~建設現場の生産性向上の取り組みについて~|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001118342.pdf

ICT施工に関する基準類の提案を募集します。|国土交通省プレスリリースhttp://www.nilim.go.jp/lab/bcg/kisya/journal/kisya20210427.pdf

i-Construction導入による成功事例

ここからは、事例を挙げてICT導入で具体的にどれだけ成果が上がったかを見ていきましょう。

(1)三重県木曽岬町 木曽川源緑防災ステーション基盤整備工事

発注者:中部地方整備局木曽川下流河川事務所
受注者:信藤建設(株)
土工量:約40,000m3

施工者(元請け)が主体となり、システム会社・建設機械メーカーと連携し、3次元起工測量(UAV)、3次元設計データ作成、ICT建機による施工、3次元出来形などの施工管理、3次元データ納品の一連の作業を実施しました。

 

  • 工期:
    ・UAV使用により、測量日数が4日から0.5日に短縮できた
    ・2人で1.5日/週 拘束されていた測量・丁張り作業が不要になり、空いた時間を他の業務に割くことができ、元請職員の業務効率・職務環境が向上した
  • 精度:
    盛土工の施工量がリアルタイムで確認できるようになり、出来高把握が容易になった
  • 品質:
    車載モニターの締固め回数分布図の確認により、確実な締固め管理が行えるようになった。オペレーターの技量に左右されることが無くなり、均一で精度の高い仕上がりが可能となった
  • 施工・安全:
    ICT建機での施工により、土材料の過不足を最小限に抑えることができ、効率性が向上した。施工ヤードから丁張りが無くなるため、重機や工事車両との接触や緩衝等の心配が無くなり、ヤードを最大限活用出来るようになった

[出典]ICT土木事例集|i-Construction
https://www.mlit.go.jp/common/001186305.pdf

 

(2)島根県大田市五十猛地内 静間仁摩道路五十猛地区進入路整備第3工事

発注者:中国地方整備局松江国道事務所
受注者:出雲土建(株)
土工量:約163,000m3

 

・起工測量は、LSを用い実施。断崖急斜面の地形測量を効率的、かつ安全に実施できた。
・施工時の丁張り設置がほぼなくなり、重機の待機時間がなくなり効率化。
・3次元設計データとICT建設機械により、若手オペレータでも熟練オペレータ同様の作業が可能となった。

 

  • 測量:
    現地は断崖急斜面であったが、観測時に高所の急斜面への立入がほぼなくなり、作業員の安全性が大幅に向上した。従来型の起工測量では、作業期間が約17日かかっていたが、LS測量では約9日となり、作業日数が5割程減少した。
  • 設計:
    本線内に工事用進入路を設置するため、施工進捗にあわせ、計4回、進入路計画を見直し。自社で修正作業を行ったが手間がかかった。
  • 施工:
    施工途中で、丁張り設置のために重機作業エリアに作業員が立入ることがなくなり、安全性が向上した。
  • 品質:若手オペレータでも熟練オペレータなみの施工でき、品質が向上した。
  • その他:発注者、及び監督支援業務のPC性能を高機能化する必要がある。

[出典]ICT土木事例集|i-Construction
https://www.mlit.go.jp/common/001186305.pdf

(3)大阪府泉南郡岬町 第二阪和国道大谷地区道路整備工事

発注者:近畿地方整備局浪速国道事務所
受注者:中林建設株式会社
土工量:約39,600m3

  • 工期:
    UAV使用により起工測量の日数が1週間から2日に短縮できた
  • 精度:
    法面整形が熟年のオペレーターの経験や力量により変わるが、ICT建機の活用により精度の良い安定した整形ができた
  • 施工:
    ICT建機の活用により設計データの画面(3D)を見ながら施工をする事によりオペレーターの理解度も上がり施工がしやすくなった
  • 品質:
    均一な施工ができ、品質が向上した
  • 安全:
    測量等手元の必要が無くなった事により、重機に近寄る事もなく安全に施工ができた。又、重機オペレーターも作業員が周囲にいない事により、安全に作業ができた

当該工事の施工者(中林建設)は、ICT施工に対応できる技術者の育成に会社をあげて取り組む方針のもと、ICTに関する勉強会を実施し人材を育成するとともに現場をバックアップするとしています。

[出典]ICT土木事例集|i-Construction
https://www.mlit.go.jp/common/001186305.pdf

建設現場を一歩先の未来へと前進させる取り組み

「i-Construction」の取り組み普及に向けて、まだまだ現場には課題も多いのが現状です。

しかし、この記事の中で挙げた導入事例を見ると、ICT重機やドローン測量、レーザースキャナ測量をいち早く導入し、同時に社員教育にも取り組み、働く人の現場環境の大幅な改善・生産性向上につなげていることが伺えます。

「i-Construction」とは、建設現場を一歩先の未来へと前進させる取り組みだとも言えるでしょう。