MCP(Model Context Protocol)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?最近AI界隈で注目を集めている新しい「標準規格」です。簡単に言えば、MCPはAI(人工知能)アシスタントと様々なデータやツールをつなぐための共通ルールです。

専門用語を避けて説明すると、MCPは「AIアプリのためのUSB-Cポート」のようなものです。USB-Cが様々な機器をつなぐ共通規格であるように、MCPもAIモデルと外部のデータソースやアプリを接続する共通インターフェースを提供します。
なぜMCPが必要なのか?
従来、ChatGPTやClaudeのような大規模言語モデル(LLM)はそれ単体で非常に賢い反面、自分自身でインターネットやユーザーの手元のファイルに直接アクセスすることはできません。AIに何かさせようとすると、人間が情報をコピー&ペーストしたり、専用のプラグインを作ったりといった手間がかかりました。各サービスごとにバラバラな方法でAIと連携する必要があったためです。
そこで登場したのがMCPです。MCPによって、AIが様々なデータ源と統一されたやり方でやり取りできるようになります。言い換えれば、今まではAIごと・サービスごとに必要だったカスタム連携を、MCPという一つのやり方にまとめてしまおうという発想です。
MCPの基本情報

MCPはAnthropic社(ClaudeというAIアシスタントを開発している会社)が中心となって2024年末に公開したオープン標準です。オープン標準ということは、特定の企業に縛られず誰でも利用・参加できるコミュニティ主導の取り組みです。そのため、MCPはClaudeなど特定のAIだけのものではなく、将来的には他のAI(例えばChatGPTやオープンソースのAIモデルなど)でも採用が可能な柔軟性があります。
要するに、MCPという共通規格に対応してさえいれば、どんなAIでもどんなデータソースでも相互に簡単に接続できるわけです。
MCPで実現する日常業務の自動化と効率化
では、MCP対応のAIアシスタントを使うと具体的に何ができるのでしょうか?一言でいえば、「AIにこれまでできなかった様々な雑用や情報収集をお願いできるようになる」のです。MCPがない従来のAIは、与えられたテキストから答えを考えることしかできませんでした。しかしMCP対応AIは、自分でインターネット検索をしたり、あなたのファイルを読んだり、他のアプリに命令を送ったりできます。まさにAIが「手足」を得たようなもので、できることの幅が大きく広がります。
MCPの主な機能
- 必要な情報に直接アクセスできる
- MCP対応AIは外部データソースに直接アクセスできます
- ウェブの記事データベースから最新情報を探索
- クラウド上のドキュメントから該当箇所を読み取り
- より最新で具体的な回答を返せるようになります
- ツールを実行できる
- MCPではAIが外部アプリやサービスの機能を呼び出せます
- カレンダーアプリに予定を追加
- 地図サービスで経路を検索
- AIがあなたの代わりに他のソフトを操作してくれます
- 複数のサービスを横断できる
- 一つのAIアシスタントが複数のデータ源・ツールに同時に繋がる
- メール、スケジュール、ニュースサイトのデータを同時に活用
- 「今日の予定に関連する最新ニュース」のような横断的な質問に対応
- セキュアかつ統一的な管理
- アクセス権限(読み取り専用か書き込みも許可するか等)を細かく設定可能
- 接続方法が統一されているため、設定変更も一元的に管理
- 「AIにどこまで許可するか」をまとめてコントロールできる
総じて言えば、MCP対応AIは**「自分専用の万能アシスタント」**に一歩近づくということです。従来は人が手作業で行っていたファイル検索やツール操作を任せられ、AIがもっと現実世界の文脈に沿った振る舞いをしてくれるようになります。
個人での活用事例

MCPと聞くと企業向けの大仰な仕組みに感じるかもしれませんが、個人の日常でも十分に活用できます。ここでは身近な例をいくつか紹介します。
ファイル整理・検索の自動化
「パソコン内の書類を整理しておいて」とAIにお願いできたら便利だと思いませんか?MCP対応AIならそれが可能です。
- 具体的にできること:
- 散らかったデスクトップの整理
- 重要ファイルのバックアップ
- ファイル名の一括リネーム
- フォルダ分類の自動化
- 文書内検索
例えば、Claude(MCP対応のAIアシスタント)にローカルファイル用のコネクタを通じてアクセス権を与えれば、“指一本動かさず”AIに任せることができます。実際に公開されている「ファイルシステム用MCPサーバー」を使えば、これらの作業が自動化できます。デジタル書類に埋もれている人には救世主のような機能です。
ウェブ検索・情報収集の効率化
MCPを使えば、AIがインターネット上の最新情報を自ら検索して取得できます。
- 具体的なユースケース:
- 「今朝のニュースを要約して」
- 「〇〇製品の最新レビューを教えて」
- 「△△病気の最新治療法は?」
従来のAIは学習データにない新しい情報は苦手でしたが、MCP対応AIならブラウザ操作用のコネクタ(例: PuppeteerやBrave SearchのMCPサーバー)を通じてリアルタイム情報を取りに行けます。もう自分でブラウザを開いてコピペする必要はありません。
他アプリとの連携による業務効率化
MCPのすごいところは、個人が使う様々なアプリケーションとAIをつなげられることです。
- 連携可能なアプリ例:
- Slack:メッセージ履歴の検索、代理投稿
- Todoist:タスクの取得・追加・整理
- Spotify:音楽再生の制御
- Google Drive:ファイル検索・編集
- GitHub:コード管理の補助
例えばチャットサービスのSlackと連携すれば、AIがSlack上のメッセージ履歴を検索して教えてくれたり、代わりにメッセージを投稿してくれたりします。タスク管理アプリのTodoistと繋げれば、「今日の予定をリストアップして」と頼むとAIがTodoistからタスクを読み取って答える、なんてこともできます。このように、MCPを介せばAIがあなたの「デジタル執事」として様々なサービスを横断的に扱えるのです。
これらはほんの一例ですが、ポイントはMCPのおかげでAIの活躍の場が私たちの日常の細かな部分にまで広がっていることです。今はまだ対応アプリの数は限定的ですが、オープン規格ゆえに日々コミュニティで新しいコネクタ(MCPサーバー)が生み出されています。自分の「こういうことができたらいいのに」というニーズに合ったコネクタがきっと見つかるか、あるいは誰かが作って公開してくれるでしょう。
MCPを使い始める方法
「面白そうだけど、難しい設定やプログラミングが必要なのでは?」と思った方、現実的に言えばMCPの導入には一定の技術的知識が必要です。MCPの目標としては「専門的なコードを書かなくても、AIに自然な言葉で指示するだけでコンピュータに様々なことをさせられるようにする」ことを目指していますが、現時点ではその実装はまだ発展途上にあります。
現時点で個人がMCPを試すには、Anthropic社の提供する「Claude for Desktop」アプリを利用する方法が挙げられます。Claude for Desktop(クロード・デスクトップ)は、PC上で動くAIアシスタントアプリで、この中に最初からMCPクライアント機能が組み込まれています。しかし、具体的な手順としては、Claude Desktopアプリをインストールしただけでは使えず、その後にMCPサーバーの準備と設定が必要です。多くの場合、ローカルでMCPサーバーを起動し、アプリ内の設定ファイルに「使いたいMCPサーバー」の情報を追記する形で有効化します。
この過程はプログラミングやサーバー構築の経験がない方にとっては複雑に感じられるかもしれません。公式ドキュメントの『Claude Desktopユーザー向けガイド』(英語)や有志による解説記事を参照することができますが、技術的な壁にぶつかる可能性は高いです。日本語でもブログやQiita記事などで「Claude MCP 設定」といったキーワードで情報が共有され始めていますが、多くはまだ技術者向けです。
現時点では既に用意されている「コネクタ」を組み込む作業が必要ですが、この「組み込む」プロセスには、サーバーの起動、ポート設定、場合によってはAPI認証情報の取得なども含まれます。公式・非公式含め多数のコネクタ(MCPサーバー)が公開されており、Google Drive、Slack、GitHub、Postgresデータベース、Webブラウザ操作、Googleマップ連携などがありますが、それぞれに異なる設定方法があります。
MCP関連の実装は活発に開発が進んでいるため、将来的にはより簡単に導入できるようになる可能性があります。本格的に導入したい方は、MCPの技術的な面についての詳細を別の記事で解説する予定ですので、そちらもご参照ください。技術的な知識をお持ちの方は、ぜひMCPの公式フォーラムやGitHubリポジトリのディスカッションを覗いてみることをおすすめします。
MCPが拓く今後の可能性
MCPはまだ登場したばかりですが、今後のAI活用の鍵となる技術として大いに期待されています。将来考えられる展開をいくつか見てみましょう。
対応サービスの爆発的な増加
MCPはオープンな標準規格のため、今後さまざまな企業や開発者が自社サービス向けのMCPコネクタを提供する可能性があります。例えば、クラウドストレージやSNS、スマートホーム機器まで、公式にMCP対応を謳うサービスが増えていくでしょう。「MCP対応」のマークが付いたサービスであれば、設定一つであなたのAIアシスタントに新機能を覚えさせられるイメージです。まさにAI版アプリストアのようなエコシステムが構築されるかもしれません。
より賢い自律エージェントの実現
MCPによってAIが複数のツールを組み合わせて使えるようになると、人間の指示を待たずに適切なツールを選んで動く自律型のAIエージェントも現れてくるでしょう。たとえば、明日のスケジュール調整をAIに任せたら、AI自らカレンダーを参照し、メールを送り、必要に応じてチャットアプリで確認メッセージを送信する…といった一連の行動を自動でやってくれる未来です。MCPにより各ステップで使うツールとの連携がスムーズになるため、こうしたマルチステップのタスク自動化が現実味を帯びます。
AI活用の民主化
MCPが広く普及すれば、「特定企業の特定AIプラットフォームだけが他サービスと連携できる」という状況ではなくなります。オープン標準のおかげで、ユーザーは好きなAIアシスタントを選び、好きなサービスと繋げて使えるようになるでしょう。AI間の乗り換えも容易になるため、新しい優秀なAIが登場してもすぐ自分の環境に組み込めます。これはユーザーにとって選択肢が増えると同時に、サービス提供側にとっても自社のデータや機能をAIに活用してもらいやすくなるメリットがあります。
よりシームレスなユーザー体験
最終的には、MCPを意識しないほど当たり前に使う未来が考えられます。たとえば数年後には、PCやスマホに標準搭載のAIアシスタントがMCPであなたのアプリやクラウドと繋がっていて、「今日はこの資料をまとめておいて」と口頭で頼めば、AIが関係するファイルや情報をすべて集めてレポートを作成してくれる…といった具合に、AIと各種サービスが一体化したシームレスな体験が実現しているかもしれません。
MCPはAIを取り巻く環境を根底から変えるポテンシャルを秘めた技術です。まだ発展途上ではありますが、そのコンセプトは非常にシンプルで強力です。技術に詳しくない方でも「AIがいろんなものと繋がって手伝ってくれる仕組みなんだな」と押さえておけば十分でしょう。ぜひこの機会にMCPの存在を覚えていただき、興味があれば実際に触れてみてください。身近なAI活用がさらに便利になる第一歩として、MCPはこれからますます注目されていくはずです。
よくある質問(FAQ)
MCPとプラグインの違いは何ですか?
MCPはオープン標準の通信規約で、様々なAIモデルや様々なサービスで共通して使える仕組みです。一方、特定のAIサービスのプラグイン(例:ChatGPTプラグイン)は、そのサービス専用に設計されています。MCPの強みは一度実装すれば複数のAIモデルで使えることと、共通のセキュリティ・管理機能が備わっていることです。
MCPを利用するのにコストはかかりますか?
MCP自体はオープン標準なので、利用料はかかりません。ただし、接続するAIサービス(ClaudeやChatGPTなど)やデータサービス(有料APIなど)には、それぞれの料金体系に基づいた費用が発生する場合があります。多くのMCPコネクタはオープンソースで無料ですが、一部の特殊なコネクタは有料の可能性もあります。
MCPを使う上でのプライバシーやセキュリティは大丈夫ですか?
MCPはセキュリティを考慮して設計されており、アクセス許可の管理システムが組み込まれています。ただし、プライバシーについては、接続するサービスやAIモデルのプライバシーポリシーに依存します。機密性の高い情報を扱う場合は、各サービスのプライバシーポリシーをご確認ください。自分でセットアップする場合は、権限を必要最小限に設定することをお勧めします。
どのAIモデルがMCPに対応していますか?
現在はAnthropic社のClaudeが先行してMCPをサポートしています。他の大手AIモデル(ChatGPTなど)はまだ公式サポートを発表していませんが、MCPはオープン標準であるため、今後より多くのAIモデルがサポートを表明することが期待されています。
プログラミングができなくてもMCPを使えますか?
基本的には使えます。Claude for Desktopなどのアプリケーションでは、用意されたコネクタを設定ファイルに追加するだけでMCPを利用開始できます。ただし、現時点ではまだ技術的な部分に触れる必要もあり、完全に初心者向けとは言えないかもしれません。今後ユーザーインターフェースが改善されれば、より簡単に利用できるようになるでしょう。
MCPの日本語サポートはどうなっていますか?
MCPの仕様自体は言語に依存しませんが、現時点では英語の情報が中心です。日本語での解説やコミュニティはまだ発展途上ですが、技術ブログやQiitaなどで徐々に日本語の情報も増えてきています。AIモデル自体は日本語対応していれば、MCPを通じて日本語で指示することも問題ありません。