近年、AI技術の発展により「コードを書かずにサービスを作る」ことも夢ではなくなってきました。中でも注目を集めているのが**Vibecoding(バイブコーディング)**という新しい開発手法です。これは、大規模言語モデル(LLM)を搭載したAIエージェントに対し、自然言語で要望を伝えるだけでアプリやサイトを作ってもらうというもの。プログラミング初心者でも、自分のアイデアや“こんな雰囲気にしたい”という感覚を伝えるだけで形にできる可能性を秘めています。
この記事でわかること:
- Vibecodingとは何か? ─ 手法の概要や仕組み、その背景にある技術動向
- Vibecodingに使える主なAIツール ─ 話題のサービス例やそれぞれの特徴
- Vibecodingの始め方 ─ 初心者が実際に試すための手順と具体的なプロンプト例
- Vibecodingのメリット ─ 開発速度や学習面で得られる効果・利点
- 利用時の注意点 ─ 押さえておきたい課題やセキュリティ・ライセンス上の配慮
Vibecoding(バイブコーディング)とは?
Vibecodingとは、「こういうものを作りたい」「この部分をこんな感じにして」といった要望をそのままAIに伝えるだけで、AIがコードを書き、アプリケーションを構築してくれる新しいプログラミング手法です。従来は人間の開発者が一行一行コードを書く必要がありましたが、Vibecodingでは開発者は自然言語で指示を出すだけ。AIがその指示を理解し、必要なプログラムを自動生成してくれます。まさに“コーディングをAIにお任せする”**イメージです。
例えば「Stripeで支払い機能を追加したシンプルなECサイトを作って」と頼むと、AIエージェントが自動でStripeによる決済機能を持つWebサイトのコードを生成し、実行可能な状態まで準備してくれます。さらに「サイト全体の色合いをもっとポップに変えて」と伝えれば、デザインの配色を明るくポップな雰囲気に一括変更してくれる、といった具合です。“こんな感じにしたい”というニュアンス(=Vibe)を伝えるだけでAIがいい感じに実装してくれるため、この手法に「Vibe(雰囲気)Coding」と名付けられました。
この概念は2025年にOpenAIの創設メンバーであるAndre Karpathy氏が提唱したことで広まりました。背景には、AIモデル(LLM)の急速な進化とWeb開発環境の成熟があります。大規模言語モデルがプログラミング知識を学習し、高精度なコード生成やバグ修正までできるようになったこと、さらにReactやNext.jsに代表されるWebフレームワークやクラウド実行環境が整い、ブラウザ上でAIがコードを書いてすぐプレビューまでできる土壌ができたことが大きいです。その結果、高度なプログラミング経験がなくてもアイデア次第で動くアプリを作れる時代が現実味を帯びてきたのです。
Vibecodingで何ができる?実際の活用事例
「本当にそんなことができるの?」と半信半疑の方もいるかもしれません。実際にVibecodingを使って、個人でも様々なアプリやサイトが作られ始めています。いくつか例を紹介しましょう。
- 個人向けのちょっとしたアプリ: たとえば観葉植物の水やり記録アプリや、ペットの餌やり管理ツールなど、「自分専用」の小さなアプリを作るケースが増えています。今まではプログラミング知識がないと難しかったですが、Vibecodingなら思いついたアイデアをすぐ形にできます。
- おもしろ実験的なプロジェクト: プログラミング未経験の人が社内でVibecodingを試したところ、ピザの注文に応じて具材をドラッグ&ドロップで載せるゲームを数時間で作り上げてしまった例もあります。通常、ドラッグ&ドロップの実装は初心者には難しいですが、AIエージェントが裏でコードを書いてくれるため「作ってみたい」という発想だけで本当に動くゲームが完成してしまいました。出来上がったものに周囲も驚き、Vibecodingの可能性を実感しています。
- ビジネス用途のサイト: マーケティング担当者がランディングページをAIに生成してもらい、必要に応じて「ここにお問い合わせフォームを追加して」などと指示して素早く調整するといった使い方も始まっています。実際、専門のエンジニアに外注せずとも自社イベントの告知サイトを即日で作成できた、という報告もあります。
- 外部API連携を含む高度な例: 海外の事例ですが、Lovableというサービスでは「子供のころに読んだ本のタイトルを入力すると、それに似たおすすめ本を返してくれるアプリ」をAIに作らせ、ユーザーのログイン認証や外部の書籍APIとの連携機能まで自動実装できたという報告があります。複雑に思える認証機能やAPI連携も、適切に指示すればAIが組み込んでくれるのです。
このようにVibecodingによって、個人の趣味アプリからビジネス用途のサイトまで幅広いプロジェクトが実現されています。まさに**「思いついたら自分で作れる」**世界が近づいていると言えるでしょう。
Vibecodingを実現する主なツール紹介
現在、Vibecodingを支えるためのAI搭載ツールやサービスが続々と登場しています。ここでは代表的なものをいくつか紹介します。大きく分けると、非エンジニア向けの簡単作成ツールとエンジニア向けのコーディング支援ツールがあります。
- Replit(レプリット) – オンライン上でコード作成と実行ができる開発プラットフォームです。AIアシスタント「Replit AI(Ghostwriter)」を使えば、チャットで「○○を作りたい」と伝えるだけでプロジェクトの雛形を生成し、その場で実行・プレビューまでできます。ブラウザさえあれば動くので初心者にも手軽です。
- Lovable(ラバブル) – テキストで要件を伝えると、画面デザインまで含めたWebアプリを自動構築してくれるサービスです。思いついたアイデアを入力するだけで、ログインページからデータベース連携までセットアップされるため、コーディング不要の開発体験が得られます。
- Bolt(ボルト) – こちらもプロンプトベースでウェブサイトを生成してくれるツールです。シンプルなランディングページやポートフォリオサイトなら、テキストで「スタイリッシュなカフェのホームページを作って」と依頼するだけで、数分でそれらしいサイトが出来上がります。
- Cursor(カーソル) – 開発者向けのAI統合開発環境(IDE)です。エディタ内でAIと対話しながらコードを補完・修正できるのが特徴で、「既存コードのここを改善して」といった細かな指示にも対応します。経験者が手元の開発効率を飛躍的に上げるためのツールと言えます。
- Windsurf(ウィンドサーフ) – Codeium社が提供するAIコードエディタで、Cursorと似たIDEタイプのツールです。オープンソースかつ無料で使え、複数ファイルにまたがる編集や高度な補完が可能と評判です。初心者が学習用途で使うIDEとしても注目されています。
※この他にも、各種エディタ向けのAIプラグイン(VS Code拡張やVim用ツールなど)や、Vercel社が開発中のWebサイト自動生成ツールなど様々なプロダクトが乱立しています。多くのツールは英語での指示に最適化されていますが、日本語をサポートするものも徐々に増えてきています。
Vibecodingの始め方:初心者でもできる手順
「面白そうだけど、具体的にどうやればいいの?」という方のために、Vibecodingを始める基本的なステップを説明します。難しい設定は必要ありません。インターネット環境とブラウザがあればOKです。
- ツールを選んで準備: まずは上で紹介したようなサービスの中から一つ選びましょう。初心者にはReplitのようにブラウザで完結する環境がおすすめです。選んだら公式サイトでアカウント登録し、AI機能(チャットボットやAIアシスタント)を使える状態にします。
- 作りたいものを伝える(プロンプト入力): 次に、AIエージェントに対して何を作りたいかを文章で伝えます。ポイントは具体的に要望を書くことです。「〇〇なアプリを作って」「△△機能を追加してほしい」など、イメージや必要な機能をできるだけ詳しく伝えます。
例:
ユーザー:「シンプルなToDoリストアプリを作って。タスクの追加・削除と、締切日で色分けする機能を入れて」
エージェント:「(AIがコードを生成しています…) 完了しました!リアルタイムプレビューを表示しますね。」 - 生成されたコード/アプリを確認: AIが返してきた結果を見てみましょう。多くのツールでは、AIが実際に生成したコードをエディタ上に表示したり、プレビュー画面で動作中のアプリを見せてくれたりします。まずは**「動くものが手に入る」**ことを体験してみてください。
- 必要に応じてフィードバック: 初回の出力が理想どおりとは限りません。「ボタンの色を青から緑に変えて」「もう少しポップなデザインにして」など、修正点や追加要望があればAIに伝えましょう。対話形式で指示を出せば、AIはコードを編集し直してくれます。エラーが出た場合も慌てず「このエラーを直して」と頼めばOKです。
- 完成したら保存・活用: ある程度満足いく形になったら、そのコードを保存したりデプロイ(Web上に公開)してみましょう。Replitなどではそのままホスティングできる場合もあります。自分のPCにダウンロードして手元で動かすことも可能です。できあがった成果物はあなたのものなので、自由に活用してください。
初めは小さなものから始めるのがおすすめです。簡単なWebページやシンプルな計算アプリなどを作りながら、AIへの指示のコツを掴んでいくと良いでしょう。日本語で指示できるツールもありますが、もしうまく通じない場合はシンプルな英語で試してみると通りやすくなることもあります(例:「Make the background color pink.」=背景色をピンクにして、など)。AIとのやりとりに慣れてくれば、どんどん複雑なアプリにも挑戦できるようになります。
Vibecodingのメリット・魅力
Vibecodingが注目されるのは、それだけ**多くのメリット(利点)**があるからです。初心者にとっても経験者にとっても、次のような魅力があります。
- 圧倒的な開発スピード向上: AIがコードを書く大部分を担ってくれるため、プロジェクトの初期構築や繰り返しの修正にかかる時間が大幅に短縮されます。これまで数日〜数週間かかったプロトタイプ作成が、数時間〜1日で完了することも珍しくありません。
- プログラミングの敷居を下げる: コードの文法や細かな書き方を知らなくても、とりあえず動くものが作れるのは大きな魅力です。初心者でも「まず作ってみて、動かしながら学ぶ」ことが可能になり、学習意欲を高めてくれます。
- アイデア実現のハードルが低い: 「自分だけの便利ツールが欲しい」「こんなゲームがあったら面白いのに」と思いついた時、すぐ形にできるのはクリエイティビティを刺激します。従来は諦めていたアイデアも、Vibecodingなら人手や予算をかけず試せるため、個人発のユニークなサービスが増える期待があります。
- エンジニアの生産性向上: 経験者にとっても、AIが面倒なボイラープレートコード(毎回似たように書く部分)や単純作業を肩代わりしてくれるのは大助かりです。開発者はより創造的な部分や難しいロジックの検討に集中できるため、チーム全体の生産性も上がります。「AI+人間」でお互いの長所を活かした開発スタイルが実現します。
- 楽しく学べる・試行錯誤しやすい: AIとの対話はゲーム感覚で、「次はこんな機能も入れてみよう」と気軽に試行錯誤できます。失敗してもすぐ直せるので精神的なハードルも低く、楽しみながらプログラミングやデザインの勉強ができるでしょう。
Vibecoding利用時の注意点・課題
便利なVibecodingですが、使うにあたって注意すべきポイントや現在の課題も存在します。事前に知っておくことで、トラブルを防ぎより賢く活用できます。
- AIの出力を鵜呑みにしない: AIはときに間違ったコードを書いたり、不完全な実装をしたりします。エラーが出るコードや非効率な書き方になる場合もあるため、必ず動作確認やテストを行いましょう。特に複雑なアプリでは、AI任せにしすぎず人間の目で検証することが重要です。
- 望んだ通りの結果が得られない場合がある: 自然言語での指示は便利ですが、一度で思い通りのものが出来上がるとは限りません。AIが解釈を誤り、意図と違うデザインや挙動になることもあります。その際は根気強く追加のフィードバックを与えて修正を重ねましょう。逆に言えば、対話次第で仕上がりが良くも悪くも変わるので、コミュニケーション能力も試されます。
- 複雑な要件には工夫が必要: アプリの規模が大きくなったり、細かな挙動を指定したりする場合、ただ「〜を作って」と言うだけでは伝わらないこともあります。人間の頭の中でイメージできることにも限界がありますし、複雑すぎる仕様はAIにもうまく伝わりません。そういう場合は、機能ごとに分けて依頼したり、途中で手動でコードを調整したりといった工夫が必要です。最終的な品質を高めるには、やはり開発者自身の設計力や問題分解スキルが求められます。
- コストや利用制限に注意: 多くのVibecoding系サービスは無料プランでも試せますが、本格的に使うには有料プランや従量課金が必要な場合があります(AIの利用回数や生成量に応じた課金など)。「チャットでやりとりしているだけなのに気づいたら上限に達していた」とならないよう、料金プランやAPI使用量は把握しておきましょう。無料枠の範囲で小規模に試してみて、必要に応じて課金するのがおすすめです。
セキュリティ・ライセンス面の配慮も忘れずに
最後に、セキュリティとライセンスに関する注意点です。これはどの記事でもあまり触れられていない部分ですが、実運用する上で非常に重要です。
- 機密情報の取り扱い:
AIエージェントにコードや設定を伝える際、秘密鍵やパスワードなど機密情報は絶対に直接入力しないようにしましょう。たとえばデータベースのパスワードを教える代わりに、ダミーの値に置き換えてAIに伝え、後で自分で本物に差し替えるといった工夫が必要です。AIサービスによっては、入力内容がサーバ側で保存・分析されることもあるため、企業のソースコードなど機密性の高い情報を扱う際は社内ポリシーに従い慎重に判断してください。
- 生成コードのライセンス確認:
AIが出力したコードは基本的に自分で自由に使えるものですが、念のためライセンスや出所を確認する習慣も持ちましょう。まれにAIが学習元のオープンソースコードをそのまま含む場合が指摘されています。そのコードが特殊なライセンス(GPLなど)由来の場合、公開・配布時にライセンス順守が必要になる可能性があります。通常、簡単なコードや汎用的な処理であれば問題ないですが、少しでも見覚えのある大きなコード片が出てきたら出典を調べることをおすすめします。また、AIツール自体の利用規約で「生成物の権利はユーザーに帰属する」ことを確認しておくと安心です。
- セキュリティ上の懸念:
生成されたコードにもバグやセキュリティホールが潜んでいる可能性があります。とくに入力値の検証漏れや既知の脆弱性を含むコードが紛れ込むリスクはゼロではありません。公開する前に、可能であれば脆弱性スキャンツールを使ったり、詳しい人にコードレビューしてもらったりすると安全です。AIが書いたコードだからといって万能ではないことを念頭に置き、最終的な責任は開発者自身が負うつもりでチェックしましょう。
以上のポイントに注意すれば、Vibecodingは非常に強力な武器になります。便利さゆえに油断しがちですが、基本的な安全策や確認作業は従来の開発と同様に大切ということですね。
まとめ:Vibecodingで広がる新たな開発の世界
Vibecoding(バイブコーディング)は、初心者からプロまで誰もがアイデアを素早く形にできる時代を切り開く、新常識とも言える手法です。最初は戸惑うかもしれませんが、AIエージェントとの対話に慣れれば「自分にもこんなものが作れた!」という驚きと喜びをきっと味わえるでしょう。
もちろん、魔法のように全てが完璧にできあがるわけではありません。AIを上手に使いこなすには、人間側の創意工夫や安全意識も不可欠です。しかしそれも含めて、Vibecodingは開発プロセス自体を楽しむことを可能にしてくれます。コードの細部に縛られず、発想のままにプロダクトを生み出せるこの新しいスタイルは、これからますます進化し普及していくでしょう。
プログラミング初心者の方も、ぜひ怖がらずに一度試してみてください。「作りたいものを伝えるだけで形になる」という体験は、きっとあなたの創造力を刺激し、スキルアップの大きな一歩になるはずです。Vibecodingを活用して、あなたのアイデアをどんどん実現していきましょう!