2022年からは高等学校で「情報Ⅰ」が共通必修科目となり、2025年度の大学入学共通テストからは受験における必須科目にもなりました。現代の情報社会において必要な知識やスキル、リテラシーを習得するため、あらゆる人にとって重要な科目であると位置づけられているのです。
近年は小学校や中学校でもプログラミングが必修となっており、ITに関する知識やスキルはもはや「持っていて当たり前」になってきているともいえます。それに伴い、企業や働く人の情報リテラシーの底上げが求められます。
では、実際にどのような内容やレベルでの学習をしているのでしょうか。それを体感すべく、本記事から4回に分けて2025年度の大学入学共通テストで実際に実施された「情報Ⅰ」の試験内容を紹介・解説します。実際に解いたり解説を見たりすることで、内容や難易度が体感できると思いますので、ぜひ実際に解きながら読み進めてみてください。
今回は全4問のうち第1問の内容と解説です。第1問は最初の大問ということもあり、基本的な知識や思考力を問う内容になっています。学問的な知識が必要ないという点では、この問題は必須レベルともいえるでしょう。
なお、回答は以下に公開されていますので、こちらも合わせてご覧ください。
令和7年度 本試験の正解https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7/r7_honsiken_seikai.html
参考:
あなたは解ける?これから求められる情報リテラシーhttps://techtrends.jp/tips/joho1_1/
第1問
次の問い (問1~4) に答えよ。 (配点 20)
問1
問題文
次の問い(a・b) に答えよ。
a 次の文章中の空欄(ア)に入れるのに最も適当なものを,後の0~4のうちから一つ選べ。
インターネットで情報をやり取りする際, 発信者が本人であることを確認するためにデジタル署名が利用できる。また, デジタル署名を用いると,その情報が(ア)を確認できる。
0 複製されていないか
1 暗号化されているか 2 改ざんされていないか 3 どのような経路で届いたか 4 盗聴されていないか |
b 近年, 128ビットで構成されるIPアドレスが利用されるようになった理由の一つとして最も適当なものを、次の0~4のうちから一つ選べ。
0 有線LANだけでなく無線LANにも対応するため。
1 大容量データの送受信に対応するため。 2 インターネットに直接接続する機器の増加に対応するため。 3 漢字など英数字以外の文字で表されるドメイン名に対応するため。 4 HTMLの仕様変更に対応するため。 |
解説
【a】(ア) 2
デジタル署名に関する基本的な知識が求められる問題です。「デジタル署名」とは、公開鍵暗号やハッシュ関数を用いた特殊な電子データを付与することで、作成されてから改ざんされていないことを証明できる技術です。
0 主に著作権保護の目的で利用されている「電子すかし(デジタルウォーターマーク)」についての記述。
1 デジタル署名は情報が暗号化されているかどうかを確認するためのものではない。
2 正しい
3 仮想通貨の基礎技術である「ブロックチェーン」の特徴についての記述。
【b】(イ) 2
「128ビットで構成されるIPアドレス」とはIPv6のことで、インターネットプロトコル(IP)についての知識が問われています。IPアドレスとは、PCやスマホといった端末を識別する番号のことで、私たちの生活の中でいう住所のようなものです。もともとは「IPv4」が主流でしたが、インターネットが急速に普及する中でIPアドレスの枯渇への対策として「IPv6」が誕生しました。従来のIPv4は32ビットで約43億通りのIPアドレスを作ることができる 一方で、IPv6は128ビットで約43億の4乗通りのIPアドレスを作ることができます。
0 IPアドレスとは無関係。優先でも無線でも端末ごとにIPアドレスが割り振られ、両社で通信プロトコルが異なることもない。
1 大容量データの送受信に際して問題になるのはデータの圧縮技術。
2 正しい
3 IPアドレスの規格移行とドメイン名の多文字種化は無関係。
4 IPアドレスの規格移行はHTMLの仕様変更と無関係。
問2
問題文
次の文章を読み,空欄(ウ)~(カ)に当てはまる数字をマークせよ。
図1に示した部品は、棒状の7個のLEDa~gを使って数字や一部のアルファベットを表示するものである。この部品を7セグメントLEDと呼び, 例えば数字の0~9は図2のようにLEDを点灯させて表示することができる。
7セグメントLEDにおける,a~gを点灯させる組合せは すべてのLEDが消灯している状態を含めて全部で(ウ)(エ)(オ)通りである。
図1に示した部品は,アルファベットとして図3に示す13種類を表示できる。
これらの大文字8種類, 小文字5種類のアルファベットに加え, 数字10種類を用いて,ある製品のエラーコードを表示する。 図4のように,1桁目を大文字のアルファベット, 2桁目を小文字のアルファベット, 3桁目以降の桁については数字のみを用いる場合、図1の7セグメントLEDの部品が全部で少なくとも(カ)個あれば 5,000種類のエラーコードを表示することができる。
解説
デジタル時計など身近なデジタル機器に用いられている電子部品「7セグメント」に関する問題です。ここではその知識がなくても解くことは可能ですが、基本情報処理技術者試験にも出題されたことがあるため、基本的な知識ともいえるでしょう。
(ウ) 1(エ) 2(オ) 8
7セグメントLED一個あたりが表示できるパターン数を計算する問題です。棒状のLEDは、1つあたり「つける」「つけない」の2パターン。それが7つあるので、2の7乗で128通りとなります。
(カ) 5
7セグメントLEDが表示できる文字の情報から必要な部品数を計算する問題です。7セグメントLEDが1つ増えた場合にどのくらいコードを表示できるか知るため、LEDの個数に対するコードの最大数を計算します。
1桁目は大文字アルファベット8種類、2桁目は小文字アルファベット5種類、3桁目は数字10種類。4桁目以降は問わないが、最大数を求めるために10で計算します。
1つ:8
2つ:8×5=40
3つ:8×5×10=400
4つ:8×5×10×10=4000
5つ:8×5×10×10=40000
ここで求めたいのは、5,000種類のエラーコードを表示できるLEDの部品数なので、答えは5になります。
問3
問題文
次の文章を読み, 空欄(キ)に当てはまる数字をマークせよ。 また, 空欄(ク)に入れるのに最も適当なものを,後の解答群のうちから一つ選べ。
チェックディジットは, 書籍の ISBNコードなどで数字の入力ミスを検出するためなどに利用されている。 ここでは5桁の数字 (N5N4N3N2N1)の利用者IDに,チェックディジット1桁 (C) を加えた6桁の識別番号(N5N4N3N2N1C) を考える。 チェックディジットの生成方法として,次の2種類を考える。
【生成方法A】 利用者IDの各桁の値を足し合わせ,10で割った余りRを求め,10からRを引いた値をチェックディジットとする。
【生成方法B】 利用者IDの各奇数桁(N5,N3,N1) の値をそれぞれ3倍にした値と,各偶数桁 (N4,N2) の値を足し合わせ, 10で割った余りRを求め, 10からRを引いた値をチェックディジットとする。
なお、いずれの生成方法も, Rが0の場合は,チェックディジットを0とする。
例えば、ある利用者ID が 「22609」 の場合にチェックディジットを計算すると, 生成方法Aでは「1」になり, 生成方法Bでは 「(キ)」となる。
これらのチェックディジットでは,1桁の入力ミスは検出できても、2桁の入力ミスは、検出できないことがある。 生成方法Bはこの点について多少検出できるように工夫されている。 例えば,(ク)入力ミスをした場合は,生成方法Aでは検出できることはないが, 生成方法Bでは検出できることがある。
ク の解答群
0 奇数桁の数字を二つ間違える
1 連続する二つの桁の数字をそれぞれ間違える 2 奇数桁のうちの二つの桁の数字の順序を逆にする 3 連続する二つの桁の数字の順序を逆にする |
解説
ネットワークと情報セキュリティの分野から出題された問題です。チェックディジットは、バーコードやマイナンバーなど身近なところで使われている技術ですが、それを知っていなくても解くことが可能で、思考力が問われています。
(キ) 7
生成方法Bに則って計算をします。
{(2*3)+(6*3)+(9*3)+2+0}/10=5あまり3
10-3=7
(ク) 3
生成方法Aと生成方法Bの違いについて問われています。ここでは、AよりもBの方がミス検出の精度が高いとされていることに注目です。AとBで違う点は、Aは各桁を全部足しているが、Bは偶数桁はそのままで、奇数桁を3倍して足している点。これによってどのような現象が起こりうるか考えてみましょう。
0 奇数桁の数字を2つ間違えると結果が変わるケースがあるため、検出方法Aでも検出できることがある
1 連続する2つの桁の数字をそれぞれ間違えると結果が変わるケースがあるため、検出方法Aで検出できる場合がある
2 奇数桁のうちの2つの桁の数字の順序を逆にしても結果が変わらないため、生成方法A、B共に検出できない
3 正しい
問4
問題文
次の文章を読み, 後の問い (a・b) に答えよ。
マウスカーソルをメニューやアイコンなどの対象物に移動する操作をモデル化し, Web サイトやアプリケーションのユーザインタフェースをデザインする際に利用されている法則がある。この法則では,次のことが知られている。
・対象物が大きいほど, 対象物に移動するときの時間が短くなる。
・対象物への距離が短いほど, 対象物に移動するときの時間が短くなる。 |
a 次の文章中の空欄(ケ)に入れるのに最も適当なものを,図5の1~3のうちから一つ選べ。
この法則では,PCなどでマウスを操作する場合, マウスカーソルはディスプレイの端で止まるため, ディスプレイの端にある対象物は実質的に大きさが無限大になると考える。
この法則に基づくと,図5の0~3で示した対象物のうち、現在ディスプレイ上の黒矢印で示されているマウスカーソルの位置から、最も短い時間で指し示すことができるのは(ケ)である。
b 次の文章中の空欄(コ)・(サ)に入れるのに最も適当なものを、後の解答群のうちから一つずつ選べ。
操作時間を短くするためにこの法則を適用した事例として,利用頻度に基づいてメニュー項目を配置する方法がある。
ここでは,マウスを右クリックした際に, マウスカーソルに対して図6に示すような位置で表示されるメニュー項目の配置について考える。 マウスカーソルで選択できる各メニュー項目の大きさは同じであるとし、 この法則のみに沿って設計されたとすると、 「項目5」は,他の項目と比べ利用頻度が(コ)項目なので,意図的に(サ)に配置されていると考えられる。
コ の解答群
0 低い
1 同程度の 2 高い |
サの解答群
0 メニューの中で一番目立つ場所
1 マウスカーソルの位置から遠い場所 2 マウスで素早く選択できる場所 |
解説
情報デザインの分野でもユーザインタフェース(UI)について問われる問題です。デザインに利用される「フィッツの法則」が提示されていますが、その知識がなくても解くことができます。
【a】(ケ) 2
文章に示された次の法則に注目しましょう。
「対象物が大きいほど」「対象物への距離が近いほど」移動時間が短くなる
1と2は距離がほぼ一緒に見えます。法則をもとに、そのどちらがより移動時間が短いかを考えましょう。一見すると1の方が大きいですが、文中には「ディスプレイの端にある対象物は実質的に大きさが無限大となる」とあります。つまり、2は無限大に大きいということなので、大きい、近いを兼ね備えた2が答えです。
【b】(コ) 0 (サ) 1
法則をもとに、項目5がどういう位置にあるといえるかを考える問題です。まず、項目5はほかの項目と比べて最も遠い場所に配置されています。つまり、法則にしたがえば、移動する時間が最も長くなる場所であるといえます。そして、操作時間を短くするためには利用頻度の高いものを、移動時間がより短いマウスカーソルから近い位置にするべきです。逆にいえば、利用頻度の低いものを遠い位置に配置するべきといえます。
まとめ
今回は情報Ⅰの第1問を解説しました。難易度はいかがでしたか?解説を読んでみると「ああ、そういうことか」と思えるかもしれませんが、ぱっと見てどんな印象を受けたでしょうか。情報Ⅰでは知識も必要ですが、それよりも読解力や思考力が求められます。それは情報社会を生きるうえでも同じです。今後どれくらいのリテラシーを持っていなければならないか、少し見えたのではないでしょうか。次回は第2問の解説です。ぜひ合わせてご覧ください!