本記事は前回に続き、令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報Ⅰ』を社会人向けに解説します。今回は設問2-Bです。
この設問では、データの活用や分析をする能力が求められます。一般的な言葉で言うと、統計学の基礎知識が必要です。文章を読み、正しく理解できれば解答できる問題ではあるものの、「相対度数」や「累積相対度数」、「階級値」といった単語の理解がないと理解しづらい問題でもあります。
しかし、「情報Ⅰ」として統計の知識を高校生たちが学ぶようになった今よりも前から、統計学の知識はビジネスや社会において重要な知識であると言われてきました。実際、平成17年(2005年)に内閣府が出している「政府統計の構造改革に向けて」でも既に統計の重要性がまとめられています。(参考:厚生労働省「統計の重要性」)
また、統計学を必修としている大学の学部も少なくなく、統計の基礎に触れたことのある人たちがもう既に増えてきているのです。
データを正しく適切に扱う、活用する能力が人と差をつける現代。統計学における、数値をもとにしたデータ分析や活用の考え方は欠かせません。
設問2ーB:データを分析し、整理する力が求められる問題
問題文
次の文章を読み,後の問い(問1~3)に答えよ。
Mさんのクラスでは,文化祭の期間中2日間の日程でクレープを販売することにした。1日目は,慣れないこともあり,客を待たせることが多かった。そこで,1日目が終わったところで,調理の手順を見直すなど改善した場合に,どのように待ち状況が変化するかシミュレーションすることにした。なお,このお店では同時に一人の客しか対応できないとし,客が注文できるクレープは一枚のみと考える。また,注文は前の客に商品を渡してから次の注文を聞くとして考える。
問1
次の文章および表中の空欄(ケ)~(シ)に当てはまる数字をマークせよ。
まず,Mさんは,1日目の記録を分析したところ,注文から商品を渡すまでの一人の客への対応時間に約4分を要していることが分かった。 次に,クラスの記録係が1日目の来客時刻を記録していたので,最初の50人の客の到着間隔を調べたところ,表1の人数のようになった。この人数から相対度数を求め,その累積相対度数を確率とみなして考えてみた。また,到着間隔は一定の範囲をもとに集計しているため,各範囲に対して階級値で考えることにした。
そして,表計算ソフトウェアで生成させた乱数(0以上1未満の数値が同じ確率で出現する一様乱数)を用いて試しに最初の10人の到着間隔を,この表1をもとに導き出したところ,次の表2のようになった。ここでの到着間隔は表1の階級値をもとにしている。なお,1人目は到着間隔0分とした。
表2の結果から10人の客の待ち状況が分かるように,次の図1のように表してみることにした(図1は6人目まで記入)。ここで,待ち時間とは,並び始めてから直前の人の対応時間が終わるまでの時間であり,対応時間中の客は待っている人数に入れないとする。このとき,最も待ち人数が多いときは(コ)人であり(これを最大待ち人数という),客の中で最も待ち時間が長いのは(サ)(シ)分であった。
こたえと解説
こたえ:(ケ)8(コ)4(サ)1(シ)3
【ケ】「人数から相対度数を求め,その累積相対度数を確率とみなして考えてみた。また,到着間隔は一定の範囲をもとに集計しているため,各範囲に対して階級値で考えることにした」とあるように、表1をもとにシミュレーションが行なわれます。
また、統計学では対象全体の中での量や位置が重要であり、相対的な量や位置に焦点を当てています。つまり、ここで生成された乱数は相対的な位置を表しているのです。
これをもとに表1と2とを照らし合わせて考えます。例えば、2人目の「0.31」の場合の待ち時間は2分です。表1を見ると、この「0.31」は累積総態度数が「0.26(1分)」と「0.42(2分)」の間に位置しており、高い方の2分とみなされることになっているのです。
ここで、(ケ)の0.95を見てみると、「0.94(7分)」と「0.96(8分)」の間に位置します。つまり、答えは「8分」です。
【コ・サ・シ】
作成途中の図の続きを自分で埋めてから考える問題です。まず、表2の到着間隔をもとにそれぞれの人の到着時間が分かります。そして、クレープの提供時間の「4分」と前の人の待ち時間と対応時間を照らし合わせれば、図を埋めることができます。
あとは図を見れば答えが分かります。最も待ち人数が多いのは19分の「4」人待ち。
そして、一番待ち時間が長いのは9人目の「13」分待ちです。
問2
図1の結果は,客が10人のときであったので,Mさんは,もっと多くの客が来た場合の待ち状況がどのようになるか知りたいと考えた。そこでMさんは,客が10人,20人,30人,40人来客した場合のシミュレーションをそれぞれ100回ずつ行ってみた。次の図2は,それぞれ100回のシミュレーションでの最大待ち人数の頻度を表したものである。
この例の場合において,シミュレーション結果から読み取れないことを次の0~3のうちから一つ選べ。
0:来客人数が多くなるほど,最大待ち人数が多くなる傾向がある。
1:最大待ち人数の分布は,来客人数の半数以下に収まっている。
2:最大待ち人数は,来客人数の1/4前後の人数の頻度が高くなっている。
3:来客人数が多くなるほど,最大待ち人数の散らばりが大きくなっている。
こたえと解説
こたえ:1
読み取り問題です。図と照らし合わせながらそれぞれ整理しましょう。
0:読み取れます。来客人数が10人の場合は最大待ち人数が6人、20人の場合は10人、30人の場合は13人、40人の場合は18人と多くなっていることが分かります。
1:読み取れません。10人の場合に5人待ちと6人待ち、20人の場合に10人待ちが発生しており、収まらないケースがあります。
2:読み取れます。来客人数が10人の場合は2.5人、20人の場合は5人、30人の場合は7.5人、40人の場合は10人の周辺の値が特に高くなっています。
3:読み取れます。「散らばりがある」ということはグラフが横に広がることを意味します。来客人数が多くなるほどグラフが横に広がっていることが分かります。
問3
1日目の午前中の来客人数は39人で,記録によれば一番長く列ができたときで10人の待ちがあったことから,Mさんは,図2の「来客人数40人」の結果が1日目の午前中の状況をおおよそ再現していると考えた。そこで,調理の手順を見直すことで一人の客への対応時間を4分から3分に短縮できたら,図2の「来客人数40人」の結果がどのように変化するか同じ乱数列を用いて試してみた。その結果を表すグラフとして最も適当なものを,次の0~3のうちから一つ選べ。
こたえと解説
こたえ:0
図2の「来客人数40人」と照らし合わせながら考えます。まず、対応時間を短縮したら、最大待ち人数が減る(=グラフの山が左に動く)ことが予想されます。そのため、図2のものよりも待ち人数が増えている、または同程度の1と2は誤りです。
そして、残る0と3で異なるのは、最大待ち人数の頻度が高い部分です。0は4人前後、3は10人前後が高くなっています。ここで図2を見てみると、10人前後が高くなっています。対応時間を短縮したにもかかわらず頻度が高い待ち人数も一緒であるとは予想されないため、3は誤りとなります。
まとめ
データの分析や活用は正しくできたでしょうか。こうした統計の考え方は仕事でも、この社会で生活していくうえでも生きるものです。それは、必修科目として学んできた世代だけでなく、既に社会に出ている世代も同じです。
次回の設問3はプログラミングの知識を問われる内容です。必修科目となり、プログラムの成り立ちや仕組みを知っていることがこれからは大前提となってくるでしょう。
リスキリングが叫ばれるいま、情報のリテラシーについては避けては通れません。今一度、自身や自社のことをふりかえるきっかけになれば幸いです。次回も是非ご覧ください。