業界動向

【2024年版】Gartnerハイプ・サイクルから見る!注目すべき新技術

ガートナージャパン株式会社(以下Gartner)は2024年8月、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」を発表しました。このハイプ・サイクルは、今後2~10年のうちに変革をもたらす可能性があり、全ての企業にとって避けて通ることのできない未来志向型のテクノロジーを示しています。

本記事では、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」について、2023年からの変化や、注目すべき新技術について紹介します。

Gartnerのハイプ・サイクルとは

「Gartnerのハイプ・サイクル」とは、新しい技術が登場してから、それが社会へ広がっていくまでの流れを図で表したものです。

参考:ガートナー ハイプ・サイクル

その流れは、次の5つのステージに分けられています。

(1)黎明期

新しい技術が登場し、注目され始める時期。初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディアによって大きな注目が集まります。この段階では、まだ実用化の可能性が証明されていないケースがほとんどです。

(2)「過度な期待」のピーク期


技術に大きな期待が寄せられ、最も注目を浴びる時期です。

(3)幻滅期

「過度な期待」に応えられず、実験や実装で成果が出ないために関心が薄れる時期。ここで消えていく技術や再編を余儀なくされるケースも多く、生き残ったプロバイダーが自社製品を改善した場合に限り、投資が継続します。

(4)啓蒙期

技術が進化し、どのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まる時期。プロバイダーは第2世代や第3世代の製品を出し始め、資金提供する企業が増えます。ただし、保守的な企業は慎重なままです。

(5)生産性の安定期

技術が十分に成熟して、一般的に使われるようになる時期です。テクノロジーの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資が回収されてきます。

Gartnerはこのハイプ・サイクルについて「今後全ての企業にとって重要となる、未来志向型と捉えられるテクノロジーやトレンドとなっている40のキーワードを取り上げている。日本における高齢化社会の到来と世代交代、さらに加速すると想定される人材難を背景に、新たなテクノロジーがビジネスに与えるインパクトは今後さらに大きなものになる」と述べています。

そして、このハイプ・サイクルに示された先進テクノロジーは今後2年から10年の間に変革をもたらす可能性があるとしており、今後の進化・変化に注目すべき技術なのです。

2023年から2024年への変化

2024年版のハイプ・サイクルでは更新・除外・追加されたテクノロジーがあります。ここでは、何がどう変化したかを紹介します。どの変化も重要な指標となるため、ぜひ一つ一つチェックしてみてください。

また、ステップが変化しなかったテクノロジーもあり、その中でも生成AIは「過度な期待」のピークを進行しているという大きな特徴があります。Gartnerのバイス プレジデント アナリストの鈴木氏によれば、「AIに関連する技術は今後さまざまな用途と業種に広がり、利用者視点で価値を生み出す人中心 (People-Centric) の考え方の下で複数の技術を複合化させていくトレンドが継続する」といいます。

ステップが変化した技術、しなかった技術。また、どれだけの変化があったか。細かい水位まで見てみると色々な発見があるでしょう。

 

日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年出典:ガートナー『Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」を発表』

 

 

日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年出典:ガートナー『Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」を発表』

 

更新されたテクノロジー

2024年版ハイプ・サイクルでは、次のテクノロジーのステージが変化しました。

■黎明期→「過度な期待」のピーク期

・サステナビリティ管理ソリューション
・自律分散型組織

■「過度な期待」のピーク期→幻減期

・分散型アイデンティティ
・スマート・ワークスペース

■幻減期(10年以上)→啓発期

・次世代型リアル店舗
・モノのインターネット
・ブロックチェーン

除外されたテクノロジー

2024年版ハイプ・サイクルでは、2023年度版の項目のうち次の5つが除外されました。

・6G(黎明期)
・デジタル・メッシュ(黎明期)
・ファンデーション・モデル(「過度な期待」のピーク期)
・エッジAI(幻減期)
・スマート・ロボット(幻減期)

2024年に新たに追加された5項目

2024年版では、新たに注目すべき技術として下記の5つが追加されました。

・検索拡張生成(RAG:Retrieval Augmented Generation)(「過度な期待」のピーク期)
・ヒューマノイド(黎明期)
・エンボディドAI(Embodied AI)(黎明期)
・マシン・カスタマー(黎明期)
・LBM(Large Behavior Model:大規模振る舞いモデル)(黎明期)

注目!追加された5つの新技術

検索拡張生成(RAG)

RAGとは、生成AIが質問を受けた際、外部のデータベースやドキュメントから必要な情報を検索して回答を生成する技術です。

ChatGPTなどの一般的な生成AIは、事前に学習した情報をもとに回答を生成します。しかしRAGは、質問を受けた際に関連する情報を外部からリアルタイムで検索します。それにより、質問者の意図に沿った情報を的確に引き出し、精度の高い応答を生み出すことができるのです。

また、企業が活用する場合は、自社データを生成AIの出力に組み込むことができるため、より業務に特化した生成AIの利用が期待されます。

Gartnerのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀氏によれば、多くの企業やエンジニアがRAGにチャレンジしており、日進月歩で進化しているといいます。

また、「現在市場はテキストベースのLLMの競争から、マルチモーダルにより複雑なタスクをこなすAIエージェントの競争への変革期にあります。すべての人は、現在の生成AIのフェーズは、インターネットの初期と同様であると捉え、これからも主要ベンダーや市場の変化、さらに自社ビジネスに与えるインパクトに注目し、適宜戦略と実行をアップデートしていく必要があります」と、RAGの重要性にも言及しています。

マシンカスタマー

マシンカスタマーとは、人間に代わって商品やサービスを選び、購入するAIや自律型システムのことです。例えば、スマート家電やIoTデバイスがその一例にあたります。スマート冷蔵庫が在庫を管理し、水が少なくなったら注文するような仕組みに、この「マシンカスタマー」が機能しているのです。

現時点で既にそういったシステムは登場してきており、「Amazon Alexa」もその一つです。ユーザーの購買履歴や好みを学習して自動的に製品を再注文する機能を備えており、さらには、製品価格の比較を行い、最もコストパフォーマンスの良い商品の提案もしてくれます。

こうしてAIが人間の代わりに消費者の役割を担うようになった今、企業は新しい市場やサービス、マーケティングを考えなければなりません。これまでは人間向けのみで良かったところを、AIに向けたマーケティング戦略やサプライチェーンの最適化を図らなければならないのです。そのため、マシンカスタマーという概念の理解が、今後あらゆる企業にとって重要となります。

ヒューマノイド

ヒューマノイドとは、人間に似た形状や動作を模倣するロボットです。まさに「人型ロボット」のような、人間に近い体の構造を持ち、二足歩行や物を持つといった基本的な動作を再現することができます。

たとえば、PepperやAtlasなどがヒューマノイドの一例です。今、このヒューマノイドは様々な分野で研究されており、対人サービス、介護、教育、危険な環境での作業など、幅広い用途での活用が期待されているのです。テスラやディズニーといった世界的企業も関連技術への参画を発表しています。

亦賀氏によれば「2024年以降、海外の主要な自動車企業はヒューマノイドを工場に投入することで、製造業に産業革命的インパクトをもたらそうとして」いるといいます。

そして、「ヒューマノイドも含め、現在、世界の自動車業界は『デジタルを前提とした新たなモビリティ産業』への転換が加速しています。自動車業界を先行事例とし、すべての日本企業は、産業革命のトレンドへの対応が急務となっていきます。その際、単なる合理化としてではなく、People Centricの原理原則の下、働く人の労働負荷の軽減や、人間力を高めるためのケイパビリティやマインドセットを獲得すべく、人材投資を行いながら従業員とAIやヒューマノイドとの共生を図っていくことが、企業にとって極めて重要なテーマ」であると、ヒューマノイドという新たな技術への対応を求めています。

エンボディドAI(人工知能)

エンボディドAIとは、物理的な体を持ち、現実世界での相互作用を通じて知的な行動を行う人工知能のことです。従来のAIは、主にデジタル環境(コンピューター内)で動作しますが、エンボディドAIはロボットなどの物理的な体を持ち、現実の環境で自律的に行動します。

たとえば、自律型ドローンや介護ロボット、自動運転車は、物理的な環境での行動が求められるため、エンボディドAIの一例です。

エンボディドAIは、人間と同じ環境で働き、行動する能力を持つAIとして、様々な応用が期待されています。例えば、介護ロボットなどの対人サービスロボットは、人間と物理的に接触することで学習し、より自然な対応ができるよう進化していきます。

今や世界中で研究が進み、中国では半年で100社近いロボット関連企業が誕生したほどだといいます。将来的には、産業、医療、教育、日常生活など多くの分野での自動化と効率化に貢献することが予想されています。

LBM(Large Behavior Model、大規模振る舞いモデル)

LBMとは人間の行動や動作を理解し模倣するために開発された大規模なAIモデルです。

LBMは複雑な行動パターンを高い精度で予測できるのが特徴で、マーケティングや消費者行動の予測にも特化しているので、より効果的なマーケティング戦略の策定に活用することができます。

加えて、RAGと組み合わせたハイブリッドアプローチをすることで、企業が自社データを生成AIの出力に組み込むことを可能とします。これを活用した、業務に特化した生成AIの利用が期待されています。

まとめ

本記事では、Gartnerが発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」に基づき、今後のビジネスに影響を与える新技術とその進化について紹介しました。

これらの技術は、既にビジネスや日常に変化を起こし始めています。技術の進化に適応し、戦略を見直すことがあらゆる企業に求められているのです。これからの社会で生き残り、成長し続けるため、まずは知ることから、一歩踏み出してみましょう