日本の建設業界は今、大きな転換期にあります。少子高齢化で働き手が減る中、2024年には時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)も始まりました。加えて、カーボンニュートラルを目指す国の方針により、環境負荷を減らす「GX(グリーントランスフォーメーション)」も急務です。
こうした複雑な課題を前に、大学と企業が連携して新しい技術を生み出す「産学連携」の取り組みが注目を集めています。本記事では、そんな最先端の取り組みの中から特に注目すべき6つの事例を、2つのテーマに分けてわかりやすく紹介します。
第1部:現場作業の革新(AI・ロボットで省人化と効率化)
1. コマツ × 同志社大学:AIで壁紙を一発識別!「かべぴた」
概要:コマツ株式会社(大阪府東大阪市)と同志社大学(理工学部・奥田正浩教授)は、リフォーム現場での壁紙識別作業を効率化するAIアプリ「かべぴた」を共同開発。従来はカタログ照合が必要だった壁紙の型番を、スマホで撮影するだけでAIが数秒で判別。熟練作業の省力化に貢献。
公式発表:2023年11月15日にプレスリリースを発表。2024年2月にApp Store/Google Playで正式リリース。画像識別AIは特許出願中で、他建材への応用も視野。
成果・導入状況:国内壁紙メーカー6社・600種以上に対応。正解率90%以上。グッドデザイン賞、KANSAI DX AWARDなど多数受賞。技術は建材循環サービス「リバマ」にも展開中。
2. 香川大学 × 建ロボテック:鉄筋結束ロボット「トモロボ」
概要:建設現場での鉄筋結束作業は過酷で反復的。香川大学と建ロボテックはこれを自動化するロボット「トモロボ」を開発。遠隔操作型で、1人で複数台の管理も可能。
公式発表:2019年に香川大学より共同研究として発表。東京ビッグサイトでの展示や予約販売も実施。
成果・導入状況:レンタル形式での導入が進行中。NTT西日本との実証で8割の作業自動化を達成。2025年にはJR東との鉄道分野展開も予定。
3. 高知工科大学 × 前田建設工業:資材を自動で運ぶロボット
概要:建設現場における資材搬送の完全自動化を目指し、高知工科大学と前田建設、サット・システムズが連携。動的な現場環境にも対応可能なロボットを開発中。
公式発表:高知工科大学の地域連携セミナーや講演会で継続的に紹介。2019年にICI総合センターでデモ公開。
成果・導入状況:現場実証段階。エレベーターを自律的に使ったデモも成功。今後3年での実用化を目指す。
第2部:建設プロセスの再定義(設計・材料・環境の革新)
4. 東京大学 × JR東日本ほか:3Dプリントで駅を作る!
概要:東京大学を中心に、JR東日本や技術系企業が連携して3Dコンクリートプリンティング(3DCP)技術を活用。建設の自由度向上と工期短縮を実現。
公式発表:2022年12月に東京大学がベンチ設置プロジェクトを発表。以降、駅舎への応用が進行。
成果・導入状況:初島駅では、3DCPによる駅舎を1時間強で組み立て。国交省による規制緩和も進み、公共施設での活用が広がる。
5. 東京理科大学 × 清水建設:「みどりの機能建材」
概要:東京理科大学と清水建設が、建物の非構造部材におけるCO2排出量の評価・可視化を目指して研究を開始。データベースや評価システムの構築が狙い。
公式発表:2023年3月に共同プレスリリースを発表。大学内に1.5億円規模の研究拠点を設置。
成果・導入状況:研究基盤の整備が進行中。評価システムを業界標準へと昇華し、次世代の高機能エコ建材の開発に活用予定。
6. 東北大学 × 鹿島建設:CO2を吸収する次世代コンクリート
概要:東北大学と鹿島建設が、CO2を吸収・固定化できる建設材料の開発を目的に共創研究所を設立。カーボンニュートラル社会を見据えた長期研究。
公式発表:2024年4月、東北大学が研究所設立を発表。国のグリーンイノベーション基金(NEDO)による支援対象プロジェクトに選定。
成果・導入状況:研究初期フェーズ。コンソーシアム「CUCO」と連携し、2030年までにCO2排出量を大幅削減・コスト低減を目指す。
まとめ:産学連携の力で建設業が変わる
紹介した6つの事例は、いずれも現場の課題から出発し、大学の知見と企業の実装力が合わさって実現しています。中小企業主導のアジャイル型から、大手企業×国家戦略の長期プロジェクトまで、その形は様々。
しかし共通して言えるのは、建設業界が持続可能で魅力ある産業へと変わっていくために、産学連携は「なくてはならない力」になっているということです。




