空中に浮かべたナノ粒子で重力を測る——「量子の揺らぎ」の壁を破り感度100倍に
加速度センサーは、スマートフォンの画面の向きを変えたり、建物の揺れを記録したりと、私たちの身近で働いているデバイスです。その感度を原理的に制約してきた「量子の揺らぎ」の壁を破る手法を、東京大学の研究チームが実証しました。
レーザーの力で空中に浮かべた直径約300ナノメートル(髪の毛の太さの数百分の1)の粒子を使い、従来より100倍高い感度で加速度を測ることに成功しました。成果は米物理学会誌「Physical Review Letters」に掲載されています。
限界を決めていたのは「絶対に止まらない揺れ」
感度の壁になっていたのは、量子力学の世界の奇妙なルールです。ミクロな粒子は、どれだけ冷やして静かにさせても、完全には止まらずわずかに揺れ続けます。「ゼロ点振動」と呼ばれるこの揺れは自然界の原理的な限界で、測りたい微弱な加速度の信号は、この揺れの中に埋もれてしまっていました。
研究チームはまず、レーザーで作った「光の窪み」にナノ粒子を捕まえ、その運動を、ゼロ点振動だけが残る「量子基底状態」の近くまで冷やしました。ここまでは、従来の研究でも到達していた段階です。
光の窪みを「急に緩める」
研究チームは、粒子を閉じ込めている光の窪みを、レーザーの強度操作で急激に変化させました。「クエンチ」と呼ばれる操作です。
窪みが急に緩むと、粒子の運動状態が変わり始めます。このとき、加速度によって粒子が押される距離は大きくなる一方で、位置の不確かさはすぐには増えません。その差が開いた瞬間を狙って読み出すことで、じっと閉じ込めたまま測るより2桁(100倍)高い感度が得られました。実際に、もとの状態ではゼロ点振動に埋もれて見えなかった微弱な重力加速度の検出に成功しています。
研究は東京大学大学院理学系研究科・工学系研究科の共同によるもので、神庭光善特任研究員、相川清隆准教授、沙川貴大教授らが参画しています。
地中探査やモニタリングの源流として
リリースが挙げる応用先は、暗黒物質の探索や高周波重力波の検出といった基礎物理学の最前線で、建設への言及はありません。ただ、「重力や加速度を桁違いの感度で測る」技術の系譜は、実は現場と無縁ではありません。海外では、重力の微妙な違いから地中の空洞や埋設物を掘らずに探る研究が実証段階に進んでいますし、高感度の加速度計は構造物のモニタリングや地震観測を支える基盤技術でもあります。
ラボの装置が現場の計測器になるまでには、長い時間がかかります。それでも、いま現場で使われている計測器の感度も、元をたどればこの種の基礎研究に行き着きます。続報を追う価値のあるテーマです。
出典
- JST共同発表「浮揚ナノ粒子による量子加速度センシングを実現」(2026年7月31日)
- 論文: Levitated Nano-accelerometer Sensitized by Quantum Quench(Physical Review Letters 137, 050801)

