飛行機でも新幹線でも、空気の中を進むものの表面は、滑らかであるほど抵抗が小さい。約80年ものあいだ、流体力学ではそれが常識でした。

東北大学流体科学研究所の焼野藍子准教授らの研究グループは、この常識を覆す実験結果を発表しました。流線型の模型の表面に、目に見えないほど微細で不規則な粗さ(DMR:分布型微細粗さ)を付けたところ、空気抵抗が最大43.6%減りました。世界初の実証で、論文は流体力学の国際誌「Journal of Fluid Mechanics」に掲載されています。

粗さの高さは、空気の薄い層のわずか1%

物体が空気の中を進むとき、表面のすぐそばには「境界層」と呼ばれる空気の薄い層ができます。今回付けた粗さの高さは、この境界層の厚さのわずか1%。ゴルフボールのディンプルのような、目で見て分かる凹凸とは桁違いに小さな粗さです。

実験に使われたのは、東北大学にある「磁力支持天秤装置」というユニークな設備です。涙のしずくを横に倒したような流線型模型を磁石の力で宙に浮かせ、支えの棒を一切使わずに風洞実験ができます。棒があるとその影響で微妙な抵抗の変化が埋もれてしまうため、「わずかな粗さの効果」を正確に測るにはこの装置が不可欠でした。測定の結果、流れが乱流に切り替わる「遷移領域」で最大43.6%の抵抗低減を確認。さらに、風速を上げた条件でも滑らかな表面より抵抗が低いままだったと報告されています。

ゴルフボールとは「効き方」が違う

粗さで空気抵抗が減る現象そのものは、ゴルフボールのディンプルで古くから知られています。ただしディンプルは、ボールの後ろで流れが剥がれる(剥離する)のを抑えて抵抗を減らす仕組みで、今回の現象とは効き方が違いました。研究グループが高解像度シミュレーションとオイルフロー可視化(表面に油を塗って流れの跡を見る手法)で調べたところ、抵抗が減った主な理由は剥離の抑制ではなく、空気が表面をこする「摩擦抵抗」そのものの減少だと分かりました。微細な粗さで摩擦抵抗を下げられることを実験で示したのは、今回が世界で初めてです。

風と付き合う土木・建築にも縁のある話

リリースで想定されている応用先は、航空機など輸送機器の省エネです。ただ、「表面の性状で空気の力をコントロールする」という考え方自体は、建設分野にも古くからあります。たとえば斜張橋のケーブルには、雨と風で起きる有害な振動を抑えるため、あえて表面に加工を施したものが使われています。

境界層と表面性状の関係が根本から見直されれば、構造物が受ける風の力の評価や、風の強い場所での部材・外装の設計にも、長い目で見て影響してくる可能性があります。少なくとも、「表面は滑らかなほど抵抗が小さい」という前提は、もう無条件には使えなくなりました。

出典

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