夏になると橋の伸縮装置のすき間は狭まり、レールは伸びる。材料が熱で膨張することの厄介さと、建設の現場は昔から付き合ってきました。世の中のほとんどの材料は、温めると膨らみます。

ところが、ごく一部に、温めると逆に縮む材料があります。「負熱膨張材料」と呼ばれ、ふつうの材料に混ぜ込むと、全体として「温度が変わっても寸法がほとんど変わらない」複合材料を作れます。熱膨張の打ち消し役です。東京科学大学の西久保匠特定助教・東正樹教授らの研究チームは2026年6月、この負熱膨張材料を安全かつクリーンに作る新しい合成プロセスを発表しました。

優れた材料なのに、作る工程に難があった

今回の対象は、ビスマス・ニッケル・鉄からなる「ペロブスカイト型酸化物」という結晶構造の負熱膨張材料(BiNi1-xFexO3)。優れた収縮特性を持ち、半導体製造装置や光学機器といった、ナノメートル級の精度が命の分野での活用が期待されてきました。

問題は作り方でした。従来の合成法には、有害な窒素酸化物(NOx)が出る、爆発の危険がある、といった課題があり、これが実用化・量産化のブレーキになっていました。

沈殿させながら酸化する新プロセス

研究チームが開発したのは「共沈酸化同時プロセス」という手法です。材料のもとになる金属イオンを溶液中で沈殿させる際に、家庭用漂白剤にも使われる次亜塩素酸イオンで同時に酸化してしまう方法です。

これにより、通常は作りにくい「高く酸化された状態」のビスマスとニッケルを含む前駆体(材料のもと)が、危険な工程なしで得られます。論文によれば、この前駆体は高圧下・約750℃という条件で、1分もかからずに目的の結晶に変わったとのこと。従来より低い温度・短い時間で済むうえ、材料を細かい粒子として作れるようにもなりました。粒子が細かいことは、他の材料に混ぜて複合材料にするうえで重要な性質です。

研究は東京科学大学のほか、神奈川県立産業技術総合研究所、大阪公立大学、京都大学、米ノースウェスタン大学の共同で行われ、成果は米化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

「熱で狂わない部材」が身近になる

リリースが挙げる応用先は半導体製造装置や光学機器ですが、熱による変形と長く付き合ってきたのは建設の世界も同じです。負熱膨張材料が「安全に、細かく、量産しやすく」なることは、熱で寸法が狂わない複合材料の裾野が広がることを意味します。精密な測量機器や検査機器、温度環境の厳しい場所で使うセンサー部品など、回り回ってインフラの現場に届く類いの基礎技術です。

出典

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