木から生まれたナノ繊維が、プラスチックみたいに成形できるようになった
木材を細かくほぐしていくと、髪の毛よりはるかに細いナノサイズの繊維が取り出せます。「セルロースナノファイバー(CNF)」と呼ばれる素材です。軽くて強く、熱による寸法の狂いが小さく、熱をよく伝える。この性質から、石油由来プラスチックに代わる次世代素材として長く研究されてきました。
一方で、CNFには熱で成形できないという大きな弱点がありました。大阪大学と東京大学などの研究チームは2026年5月、この弱点を解消し、CNFの集合体をプラスチックのように加熱成形することに成功したと発表しました。応用先には自動車のフレームとともに「建材」が挙げられています。
プラスチックが便利なのは「熱で柔らかくなる」から
ペットボトルや自動車の内装部品が安く大量に作れるのは、プラスチックが加熱すると柔らかくなり、金型に流し込んで好きな形にできるからです。
一方、CNFを密に集めた材料は、優れた性質を持つのに熱では柔らかくなりません。そのため、これまでは薄いシートや細い糸のような単純な形しか作れず、それが用途を狭める壁になっていました。
繊維はそのまま、「すき間の接着剤」だけ柔らかくする
研究チームは、繊維そのものを柔らかくするのではなく、繊維と繊維が接する「界面」だけを熱で動きやすくする方法を選びました。
具体的には、まずCNFの表面にマイナスの電荷を持たせます。そこに「イオン液体」と呼ばれる材料のプラスのイオンをペアとしてくっつけておく。この状態で加熱すると、繊維の間にいるイオンが自分から動き出し(自己拡散)、繊維同士の接点だけが、のり付けをやり直すように組み替えられるようになります。
論文によると、この手法で立体的な型成形だけでなく、狙った場所だけを接着するシール加工や、シートを何層にも貼り合わせる積層加工までできたとのこと。しかも繊維の形や内部の結晶構造、つまり強さの源は保たれたままです。できあがったシートは、ふつうの熱可塑性プラスチックとは違い、高い強度と低い熱膨張性を示したと報告されています。
「木を使う建築」の次の一手になるか
この成果が建設業界にとって面白いのは、リリースの応用先に「建材」がはっきり書かれているからです。CLTや中大規模木造など「木を使う建築」への流れが強まるなか、製材や集成材とはまったく別のルートで、木材を高付加価値な工業材料に変える技術が育ちつつあります。
軽くて強く、熱で寸法が狂いにくい素材を自由な形に成形できるようになれば、内装部材や家具、放熱が必要な設備まわりの部材など、建築側の使いどころも具体的に見えてきます。研究は大阪大学産業科学研究所の石岡瞬助教、東京大学の齋藤継之教授らのチームによるもので、成果は米科学誌「Science Advances」に掲載されています。
出典
- JST共同発表「木材由来のナノ繊維からプラスチック様材料の形成に成功」(2026年5月16日)
- 論文: Thermoforming nanoparticle aggregates via interfacial ionic self-diffusion(Science Advances)

