業界動向

週休3日の実践例も!建設業界における働き方改革の取り組み状況

昨今、ワークライフバランスを重視する「働き方改革」に関心が集まっています。それは、社会インフラや住環境を作り出す建設業界においても同様です。

特に建設業界では、若年層の離職率が高いことが明らかになっており、将来の担い手不足が懸念されているため「働き方改革」への取り組みが急務です。

そこでこの記事では建設業界における「働き方改革」に課題を感じている方に向けて、建設業界の労働環境の現状、働き方改革が求められる理由、そして働き方改革実践の成功事例をお伝えします。

 

1.建設業界の労働環境

 

建設業界では現状、労働環境について2つの課題を抱えています。「2つの課題」とは何か、詳しく見ていきましょう。

(1)2つの課題

①進む高齢化

[図1]建設業界の年齢構成

[出典]建設労働者を取り巻く状況について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000090621.pdf

まずは、労働者の年齢構成に関する課題があります。

建設業就業者は、平成26年時点で全体の3割超が「55歳以上」であり、10年後には大量離職が見込まれます。

一方、それを補うべき29歳以下の若手労働者数は全体の1割しか存在せず、不十分であることが伺えます。

つまり、建設業界では高齢化が進んでいる状態であり、このままでは、技能を承継して将来の業界を支えていく人材が不足してしまう、と考えられます。

  

②高い離職率

以下に掲げる図は、建設業界における新規高卒者・新規大卒者の3年目離職状況を示したものです。

[図2]若年層の3年目離職率

[出典]建設労働者を取り巻く状況について|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000090621.pdf

建設業界における若年層の離職状況は、他業界と比べて高くなっています。

上図のうち、赤の折れ線グラフは「建設業」、青は「製造業」、緑は「全産業」それぞれのの離職率を示しています。高卒3年目で建設業から離職する人は、製造業から離職する人と比べると約1.8倍。大卒3年目では約1.6倍高い状況にあります。

新卒者を採用しても、他産業に比べて定着率に課題がある状況だと言えます。

 

(2)若年層が定着しない主な原因とは?

それでは、建設業界において若年層が定着しない理由はなぜなのでしょうか。

以下に掲げる図は、建設業における若年層の離職理由をまとめたものです。左側の棒グラフは企業側から得られた回答、右側は離職者からの回答です。

[図3]若年層が定着しない理由

[出典]厚生労働省「雇用管理現場把握実態調査」

建設業界における若年層の3大離職理由は「休みが取りづらい」「作業に危険が伴う」「労働に対して賃金が低い」です。

これら3点は、企業側から得られた回答、離職者側からの回答いずれにも共通して、多項目より割合が高くなっています。

よって、今後業界を支える担い手として若年層を定着させるためには、「働き方改革」が急務なのです。

2.建設業界で働き方改革が求められる理由

前項で、建設業界を取り巻く労働環境を詳しく紹介しつつ、「働き方改革」への取り組みが急務であることを述べました。このまま「働き方改革」に取り組まなかったとしたら、どのような問題を招くのでしょうか。

(1)技能・ノウハウ・知見の承継

これまで業界内で蓄積してきた技能・ノウハウ・知見の承継ができなくなります。近い将来に中高年の大量離職が見込まれているにも関わらず、それを補う若手人口が不足しているためです。このまま人材不足が進んでしまうと、業界全体の衰退を招くことも予想されます。

(2)生産性向上

建設業界全体での生産性低下にもつながると懸念されます。 

労働力不足が長期的な課題になっているため、1人あたりの生産性を向上させる必要があります。

また、「作業に危険が伴う」「労働に対して賃金が低い」といった側面が、若年層の大きな離職理由として挙げられています。

このような課題を解決するには、例えばICT技術やロボットの投入などで人が介在する場面を減らして自動化・省力化するなど、日々の働き方自体を変革させ、生産性を向上させることが必要だと言えます。

3.建設業における働き方改革を支援する仕組み

これまで述べてきた課題に対して、政府はどのように捉えているのでしょうか。ここからは、建設業の働き方改革を支援する仕組みについて紹介します。

(1)公共工事設計労務単価の改訂

政府は2013年以降「公共工事設計労務単価」の引き上げに取り組んでおり、国土交通省から建設業界各団体などに対し、賃金水準の引き上げを要請しています。

「公共工事設計労務単価」とは、公共工事の工事費の積算に使用するもの。所定労働時間8時間当たりの労務単価であり、労働市場の実勢価格を適切に反映させ、47都道府県、51種類の職種別に設定されているものです。

その結果、近年の公共工事においては労務単価が上昇しています。

このような労務単価の引上げがあらゆる建設現場に現場に行き渡り、民間工事を含め就業者の賃金引上げにつながることで、若年者の建設業への入職促進が期待されています。

(2)適正な工期設定と週休2日の取得推進

働き方改革を推進し、若年層の入職を促進するためには、長時間労働の是正は必ず解決すべき課題だと位置づけられています。

その目的の下、適正な工期設定と週休2日の取得推進に取り組んでいます。

具体的には、国土交通省が2017年に「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を策定。工期設定に際し、建設業就業者の休日の確保、労務・資機材の調達等に係る準備期間や施工終了後の後片付け期間の考慮、降雨・降雪等による作業不能日数の想定、予定工期で完了が困難な場合の適切な工期変更、施工時期の平準化、ICT(情報通信技術)施工による効率化の推進などを求めています。

結果として近年では、国管轄の公共工事で「週休2日工事」の実施件数が大幅に増えています。

(3)社会保険の加入促進

国土交通省では、建設業就業者が安心して長く働けるよう、社会保険(3保険=雇用保険、健康保険、厚生年金)の未加入対策を進めています。

具体的には、以下のようなポイントを推進しています。

①入札の際の審査において未加入企業の減点幅を拡大
②公共工事において元請・下請企業(2次以下を含む)を加入企業に限定
③社会保険などの経費を請負金額へ確実に反映させるため、社会保険料を含む法定福利費を内訳明示した見積書の活用

その結果近年、3保険全てに加入している企業の割合は97%、労働者の割合は87%と上昇傾向にあります。

(4)建設キャリアアップシステム

技能者の経験・技術を見える化する「建設キャリアアップシステム」を構築し、2019年から本格運用が始まっています。技能労働者の経験・技術に応じた処遇の実現につなげ、将来のキャリアパスを見通しやすくするためのものです。

技能労働者者一人ひとりの就業履歴や保有資格をシステムにデータとして蓄積し、客観的な基準でレベル分けを実施。(「登録基幹技能者」「職長クラスの技能者」など)

技能レベル(評価結果)を活用することで、取引先・顧客に高い水準の技能労働者が在籍していることをPRし、価格交渉力強化につなげることができます。

また働き手の立場では、キャリアアップに必要な経験・技能が見える化されていることで、入職・定着のモチベーションとなります。

このシステムは、26都府県で普及・利用促進の取組(入札参加資格における加点など)が実施・検討されています。今後登録者がどれだけ増え、地方公共団体発注工事、中小企業や中小の現場まで広く普及されていくかが注目されます。

(5)i-Construction

国土交通省では、「i-Construction」を推進しています。

「i-Construction」とは、土木工事などでICT(情報通信技術)を活用することにより省人化、省力化を目指す取り組みを指します。

具体的には、

  • ドローンによる測量
  • ドローン測量から得られた3次元データを基に設計
  • ICT建機による施工
  • データを活用した検査・管理

など、すべての工程でICTを活用し、情報化・自動化施工を進めることとしています。

自動化が一定程度進むことにより、人が直接介在する工程が減れば、建設就業者の事故も減少し、現場の安全性の確保も期待できます。

国土交通省は、ICT施工に必要な技術基準・作業手法を定めるとともに、橋梁・トンネル・ダム・舗装・浚渫などとさまざまな分野の工事への応用も進めています。

参考記事:建設現場を大幅に改善・生産性向上!「i-Construction」とは?

(6)女性活躍 

2014年に、国土交通省と建設業5団体で「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定しました。

その中で、5年以内 に女性技術者・技能者を当時の10 万人(技術者1万人、技能者9万人)から20万人(技術者2万人、技能者18万人)に増やす数値目標が設定され、様々な施策に取り組むこととされました。将来にわたる建設業の維持のためにも、幅広い人材の確保は喫緊の課題です。

しかしながら国土交通省によれば、2018年時点での女性技術者の数は2万人、技能者は10 万人とされ、女性技術者数は計画通りとなりましたが、技能者数は目標を大きく下回っているのが現状です。

女性が建設業を選び、長く働き続けることができる環境整備について、官民を横断した議論が引き続き展開されています。

[参考]建設業における働き方改革の概要 |参議院http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20191220028.pdf

4.働き方改革の実践事例の紹介

前項で述べた、国土交通省の6つの取り組みを見ていくと、建設業界の働き方改革推進のためには現状、さまざまな課題が存在していることが伺えます。

その一方で、民間企業の中には働き方改革を実践し、成功している事例も見られます。その4つの具体例をご紹介します。

(1)「勤務間インターバル制度」の導入:鹿島建設株式会社

所在地:東京都
社員数:7,887名

鹿島建設株式会社では以前から、「現場で突発的な対応が求められる状況が生じた際などに、終業から次の始業までの間に十分な休息が取れず、疲労の回復が図れない」という社員の声がありました。

そこで、休息時間を確保して健康障害を防止するため、全従業員を対象に「勤務間インターバル制度」を就業規則に規定。終業と次の始業までの間に「インターバル時間」を取得するというものです。

インターバル時間は勤務の状況を踏まえ、少なくとも9時間とされています。社員が申し出た場合、あるいは、申し出がなくとも所属長が必要と判断した場合、所属長の指示により取得する形で運用しています。

同社ではこの制度運用について、社員の健康を保つ観点で有用だと判断しており、社員からの反応も概ね良好だそうです。

[参考]鹿島建設株式会社|取組・参考事例検索|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04429.pdf

(2)「週休3日制」の試行:メタウォーター株式会社

所在地:東京都
社員数:2,961名

メタウォーター株式会社では2018年から、ワークスタイルの変革を掲げ「週休3日制」の試行に取り組んでいます。

若年層を中心とした勤労観の変化、働き手不足に対応すべく取り入れられました。また、従業員各人が働きがいを感じながら労働生産性を向上させ、会社として新たな付加価値を生み出していく、という目的もあります。

「週休3日制」の導入以前は、午前9時から午後5時半までの7時間45分(休憩を除く)、週5日勤務という体制でした。「週休3日制」の試行後には、午前9時から午後7時半までの9時間45分(休憩を除く)、週4日勤務、という働き方を選ぶことも可能になりました。一律に週3日の休日を強制するものではありませんが、このような働き方も可能であることを実感してもらう狙いも持っています。

トライアルに参加した従業員からは「自律的な時間管理の意識が向上した」「私生活のスケジュールを立てる際の選択肢が増えた」「平日の1日をボランティア活動に使えるようになった」などの声が寄せれられています。

[参考]メタウォーター株式会社|取組・参考事例検索|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04357.html

(3)工事完了後の「リフレッシュ休暇」:株式会社内田組

所在地:滋賀県
社員数:75名

株式会社内田組では、社員のライフステージに合わせた働き方に対応できるよう、計画的に休暇を取得しやすい環境を整えています。

現場施工中は、まとまった連休を取得しづらい課題があります。そこで、工事完了後に「リフレッシュ休暇」を付与する体制を整えました。付与日数については、本人の希望を考慮した上で調整。心身ともにリフレッシュした状態で新しい現場を担当できるようにしています。

[参考]株式会社内田組|取組・参考事例検索|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04351.html

(4)所定外労働の削減の工夫:奥山ボーリング株式会社

所在地:秋田県
社員数:39名

奥山ボーリング株式会社では、ワークライフバランスの良い職場環境を作るため、所定外労働の削減にさまざまな工夫で取り組んでいます。

まず、「ノー残業デー」を実施しています。当日は、朝から数回、社内放送でノー残業デーであることを伝え、掲示板にポスターを貼って社員にノー残業デーの日であることを周知。また、会社が発信するメールの署名欄に、水曜日がノー残業デーである旨を記載し、社屋入り口にポスターを掲示して、社外取引先等へも周知しています。

また、パソコンが自動的にオフになるソフトを導入。所定外労働の申請や承認がなく所定労働時間を過ぎてもパソコンをオンにしている場合に、一定時間が経過するとパソコンが自動的にログオフされるソフトを導入しました。

さらに、社員一人ひとりの残業時間を細かく管理する体制も整えました。1週間ごとに残業時間を集計し、上司が部下の残業状況を把握できるようにすることで、仕事配分などを早期に調整することが可能となりました。

[参考]奥山ボーリング株式会社|取組・参考事例検索|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04121.html

[参考]
取組・参考事例検索|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/case/

5.労使一体となって課題解決を

建設業における働き方改革の実践例を見ると、長時間労働の抑制、休暇取得の推進に関して各社でさまざまな工夫が行われていることが伺えます。

この記事で述べてきた通り、若年層の入職・定着の課題を解決するには、勤労観の変化に適応し、ワークライフバランスの良い職場環境を作っていくことが不可欠です。社員のライフステージや健康面を第一に考えるなど、使用者側が労働者側の目線に立つことが重要です。

労使一体となって、自社の課題解決につなげていきましょう。