コラム

未経験から技術者を考えている人なら知っておきたい「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」

業務のデジタル化は今や国家プロジェクトになりつつありますが、それを推進できる人材は不足しています。人材不足を補うために、企業は未経験者にも門戸を開き、自ら学んで成長できる意欲を持つ人を必要としています。一方で、未経験から技術者にチャレンジしたい人にとって、リスキリングにかかる費用負担はネックになるでしょう。

本記事では、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」について、概要や個人で利用する場合のメリット・デメリットなどを解説します。

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業とは?

「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」とは、企業に勤めている個人が、キャリアアップのために行うリスキリングや転職を支援する、経済産業省の事業です。キャリア相談からリスキリング・転職までを一気通貫で支援することで、新たなスキルの獲得と、成長分野への円滑な労働移動を一体的に促進することを目的としています。2022年10月に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」において、経済再生の施策の一環として定められた「在職者のキャリアアップのための転職支援」を受けたものです。

本事業は個人を国が援助するのではなく、本事業に参画する補助事業者(国が認定した事業者で、下記サービスを行うための諸経費を国が支援する)に申し込み、補助事業者が支援できる要件を満たすことで、下記の(1)~(3)のサービスをワンストップで利用できます。キャリア相談と転職支援は無料で受けられ、リスキリング講座は受講費用が一部戻ってきます。

(1)キャリア相談:在職者がキャリアコンサルタントなど、キャリアの専門家に相談できる。

(2)リスキリング講座:リスキリングのための講座を受講できる。
※補助事業者ごとに受講金額や負担金額は異なるので、詳細は補助事業者にお問い合わせください。在職者は補助事業者に申請することで受講費用が軽減されますが、受講修了後の対応により、費用負担の額が変わります。
・リスキリング講座の受講を修了した場合:講座の受講費用の1/2相当額(上限40万円)
・リスキリング講座の受講を経て実際に転職し、その後1年間継続的に転職先に就業していることを確認できる場合:追加的に講座の受講費用の1/5相当額(上限16万円)
受講可能なリスキリング講座:IT企業で求められるスキル(Webアプリ開発やプログラミング、Webデザインなど)、医療、介護・福祉、保育分野に関係する講座など

(3)転職支援:キャリア相談内容やリスキリング講座の受講結果を踏まえて、転職に向けた伴走支援が受けられる。

利用方法と手続き

本事業は、申し込み時点で企業に勤めていて、雇用主の変更を伴う転職を目指している方や、リスキリングをしたいなどの方であれば、正社員、契約社員、派遣社員、パートやアルバイトといった雇用形態は問いません。ただし、申し込み時点で離職している、個人事業主である、転職を考えておらずリスキリング講座の受講のみなどの場合は対象外となります。

補助事業者ごとに利用方法や細かい条件が異なりますが、概ね以下のフローをたどります。

(1)補助事業者のWebサイトから希望のコースを選ぶ、または説明会参加を申し込む
(2)説明会に参加する(動画を視聴することも)
補助事業者から、今後の手続きも含めて説明があります。補助金を受けたい場合、説明会参加や関連動画の視聴を求めている事業者がほとんどです。
(3)講座費用を支払う
(4)キャリア相談
(5)リスキリング講座受講
補助金事業対象の講座を受講後、受講証明を受け取っている、課題を提出している、なおかつ補助事業者からの紹介で転職をするなどの要件を満たせば、補助の対象となります。
(6)キャッシュバックに必要な書類を揃えて提出
(7)補助事業者が提供する転職支援サービスを利用し、転職活動開始
(8)就職。1年程度、転職支援サービスからのフォローがある

(1)〜(6)までが50%の、(7)と(8)はプラス20%の、それぞれキャッシュバックのフローです。

利用者から見た制度のメリット・デメリット

ここからは、利用者から見た制度のメリット・デメリットをご紹介します。

メリット

キャリア相談から転職までを一体でサポートしてもらえる
やはり、キャリアの棚卸しや今後のキャリアについての相談に乗ってもらえること、就職先の紹介や転職までの伴走支援を受けられることは、リスキリングをしながら転職を考えている人にとっては嬉しいポイントです。自分で就職先を探す手間はかからないし、ただ漠然と講座を受けに行くのではなく転職というゴールがあるので、モチベーションアップにもつながります。

リスキリング講座受講費用の一部キャッシュバックがある
受講費用の一部キャッシュバックがあることも、利用を考えている人にとってはメリットになります。転職が成功した場合は受講費用の50%、転職から同じ職場に在籍して1年以上が経過したらリスキリング講座の受講費用の70%が戻ってきます。

デメリット

・講座受講のみでは対象外
そもそも本事業は在職者の転職を前提とした事業であり、「キャリア相談は必要ないけど、とりあえず受講だけしたい」「補助事業者以外の紹介で転職がしたい」といったケースでは対象外となってしまいます。そのため、ややハードルが高く感じるかもしれません。

・必ずしも転職できるとは限らない
キャリア相談をし、リスキリング講座を受けても、紹介された求人の条件が自分の求める条件と合わない、転職先が求める条件を満たしてない、そもそも求人がないなどの場合、転職活動が上手くいかない可能性があります。

また、補助事業者が提供している転職支援サービスの利用に年齢制限を設けているところもあり、注意が必要です。

利用事例

2023年の夏にスタートしたばかりで具体的な利用事例はまだほとんどないため、本事業の概要を紹介しているホームページで例示されている想定や、補助事業者が公開している補助内容などから、想定される利用事例をご紹介します。

未経験からエンジニアへ

プログラミングスクールやITエンジニア育成スクール、建設エンジニア育成コースなどに定められた期間通い、課題提出などをこなしながらエンジニアに必要なスキルを習得。転職支援サービス利用時には、専属のスタッフがつき、利用者の持つ技術力などを入社を希望する企業に伝えてくれます。

未経験からオペレーターへ

建設・建築業界の技術者になるために、CADやBIMオペレーター、CADスクールなどのコースから状況などに応じてコースを選択します。スキルを習得後、未経験者でも習得したスキルを活かせる業界へ転職し、1から経験を積みながらオペレーターとして活躍。

まとめ

リスキリングは経済産業省によると「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―)とあります。未経験者から技術者を目指しているのであれば、国が在職者のリスキリングを強力にバックアップしているかつ転職を目指しながらさまざまなサポートを補助事業者から受けられる今がチャンスです。この機会にぜひ、チャレンジしてみることをおすすめします。

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
https://careerup.reskilling.go.jp/worker/

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