MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者の多様なニーズに対応して、複数の公共交通やカーシェア、シェアサイクルなどを組み合わせて検索・予約・決済などが一括でできる新たな移動サービスのことです。
目的地における観光・医療など、交通以外のサービスとの連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決に資する重要な手段と位置づけられ、国土交通省はMaaSの早急な全国普及を目指しています。
国土交通省は令和3年度に、「MaaSの社会実装に向けた取組への支援」として日本全国で12事業に対する支援を実施しました。
この記事では、その全12事業の概要をまとめて紹介します。
北海道芽室町「芽室MaaS事業」
北海道芽室町では2022年1月より「芽室MaaS事業」を開始。
農村地区の過疎化、高齢化、公共交通の空白化が地域課題であり、農村地区の人々の市街地への移動と買い物を支援する目的で、サブスクリプション型乗合デマンドタクシーを導入しました。WEBか電話で利用の予約をして、自宅から目的地までドアツードアで送迎してくれる乗り合いタクシーです。ドライバーや商業従事者などとの連携により、買い物代行や、病院の予約代行もサービスに含んでいます。
今事業では、対象エリアを限定したうえで実施していますが、今後は利用頻度・ニーズ・利用者の属性などを分析したうえで、対応エリア拡大を目指しています。
群馬県前橋市「MaeMaaS(前橋版MaaS)」
群馬県前橋市では、市内全域において2021年10月から「MaeMaaS」を実施。以前(令和2年度)に行った実証実験から継続した取り組みで、地域公共交通の利便性向上を目的としています。以前の実証実験で課題として「わかりやすい利用法」「わかりやすい情報案内」が挙がっていました。これらに対し、駅や市役所などにおける対面での利用登録窓口の構築、バス・デマンドタクシー・シェアサイクル多様な交通モードを網羅するリアルタイム経路検索を提供。マイナンバーカード認証基盤と連携し、前橋市民は割引になる、などの施策も盛り込まれています。
ICTを活用しつつ、市民が公共交通をより便利に使えること、移動データの取得・連携・利活用ができる交通プラットフォームの構築を目指しています。
東京都 大手町・丸の内・有楽町地区「大丸有版MaaS事業」
東京都 大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有地区)で2021年12月からサービス提供開始。
大丸有エリア内には、多種多様なモビリティや、商業店施設やワークスペースなどが多数存在し、スマートシティプロジェクトも進んでいます。
エリアにおける交通データ(運行データや移動実態データ)を連携・統合させることで、MaaSを軸にエリア内の魅力をさらにアップデートすることを目的としています。
利用者は専用アプリから、エリアの施設情報やイベント情報や地下鉄、バス、シェアサイクルなどの利用情報をまとめてチェックできます。「ラストハーフマイルエリア(徒歩圏内)」での利便性を高め、エリア内での回遊性向上や都市活動・滞在を促します。
今後は、本事業での成果を踏まえながら、エリア内マネジメントのDXを継続的に展開していくとしています。
羽田空港起点の広域エリア「Universal MaaS」
下肢障がいや、視覚障がいを抱える方など、何らかの理由により移動にためらいがある方の課題を、利用者・事業者双方の視点から解決し、行動変容を促すことで、新たな移動需要を喚起する取り組みです。
①2022年2月、山手線沿線から羽田空港起点の航空移動を含めた大阪/京都/神戸エリアを移動するユーザーを対象に、車いすユーザー向け移動支援サービス「一括サポート手配」の社会実装に向けた実証実験を実施。「一括サポート手配」とは、出発地から目的地までの移動における介助手配を、オンラインにて一括で行えるサービスです。ユーザーの利用情報を事前に関係交通機関が共有することで、ユーザーの移動に関する安心感の向上に資するかどうかを検証し、すべてのユーザーがシームレスなモビリティサービスを安心して利用できるよう、検討する取り組みです。
②2022年2月、「汐入駅(横須賀市)⇔よこすか近代遺産ミュージアム ティボディエ邸」のエリアで、視覚障がい者向けの移動サポートサービスの実証実験が行われました。
徒歩圏内のエリアマップを「遠隔にいるオペレーターによる声案内」「装着したデバイスの振動による歩行ナビゲーションシステム」と連携。視覚に障がいのある方々向けの移動課題を抽出し、その解決策としてのナビゲーションサービスの有用性を確認します。
「移動躊躇層」の視点でドアツードアの移動サービスを再設計し、アクセシビリティの良い状態にする。それが他のユーザーのサービス向上にもなり、全体としてユーザビリティが向上する。このようなアプローチを繰り返し、対象ユーザーを広げる。結果的に、より多くの人に使いやすくすることに繋がり、新規移動需要も増加する。このような流れで、移動サービスをアップデートしていき、最終的なゴール「誰もが移動をあきらめない世界」を目指すプロジェクトです。
神奈川県川崎市・箱根町「川崎・箱根観光MaaS実証実験」
神奈川県川崎市および箱根町では2021年10月に「川崎・箱根観光MaaS実証実験」の取り組みを実施。
市内の来訪先あるいは観光地において、自家用車来訪者の集中による道路混雑、駐車場入庫待ち渋滞の発生が課題でした。加えて、新型コロナウイルス感染症対策に対応した快適な移動手段の提供の必要もあります。
そこでMaaSアプリ「EMot(エモット)」を開発し、公共交通の乗車券購入・改札通過用コード表示、特急列車・バス予約、及び観光施設等の利用券の購入等の機能を、ワンストップで提供。
各種モビリティをシームレスにつなぎ、ユーザーは「早く到着したい」「おトクに行きたい」などの希望に合わせて、最適なルートの提案を受けられ、観光周遊フリーパスや飲食店のデジタルチケットも購入できます。
箱根の観光周遊フリーパス「デジタル箱根フリーパス」は2022年3月以降も引き続き発売されていて、小田急の乗車券もデジタル搭載しているので、対象の駅ではスマホでQRコードをかざすだけで素早く駅の改札を通過することができる体制になっています。
神奈川県横須賀市・三浦市エリア「三浦Cocoon」
神奈川県横須賀市、三浦市では2021年12月から観光型MaaS「三浦COCOON」を実施。
「三浦COCOON」は、三浦半島地域の観光事業者など108団体(2021年12月13日現在)が半島全体で連携して「エリアマネジメント」と「すごしかた提案」に取り組むためのMaaSプラットフォームで、交通渋滞などの社会課題解決を図るとともに、三浦半島観光の周遊性向上を目指すものです。
三浦半島において9つの観光コースを展開し、音声や画面表示で観光ルートをナビゲーション、スポットの詳細な観光案内も提供します。
鉄道、バス、タクシー、カーシェア、レンタサイクル、電動キックボード、キャンピングカー、ヘリなど多様なモビリティ基盤を整備し、スマホから予約、決済、デジタルチケット発券、経路検索が完結します。
今後は、観光周遊のためのデジタルチケット販売を更に充実させるなど、利用拡大・地域の付加価値拡大を目指すとしています。
富山県朝日町「ノッカルあさひまち」
富山県朝日町では、2021年10月から「ノッカルあさひまち」の運行を開始。
高齢化率が高く自家用車を運転できない住民が増えており、持続可能な形で公共交通を整備するとともに、健康増進に繋げるためにも、移動しやすい・移動したくなる街づくりが必要でした。
そこで、公共交通(コミュニティバス・タクシー・地域住民のマイカーを活用する自家用有償旅客サービス)に関するサービスや、商業・健康づくり情報を提供し、かつ、地域で使えるポイントも貯まるMaaSプラットフォームをLINEを活用し構築しました。
公共交通利用者だけでなく、マイカー利用者も使えるサービスにし、地域全体の移動総量を増やし、街の活性および健康増進を目指しています。
地域の受容性・移動総量増加などの有用性が確認できた後は、ビジネスモデル・事業性をさらに検証していくとしています。
静岡県静岡市玉川地区「しずおかMaaS」
静岡県静岡市の中山間地部である玉川地区では、2021年11月から「しずおかMaaS」の取り組みを開始。
この地区では、地域コミュニティの維持・強化、高齢者の移動手段確保・外出機会の創出、デジタル社会に対応できる環境の構築、地域の持続に資する交流促進・関係人口の増加、地域公共交通の再編の推進が課題でした。
そこで、地域住民を運転手とし、地域にある福祉車両を活用した地元参加型のAIオンデマンド車両の運航を行い、地域住民の活動増進や持続可能な交通サービスの提供を目指す取り組みがスタートしました。
買い物支援とも連携し、地域住民のさらなる活動増進を目指しています。
今後は、実験結果等も踏まえつつ、地域住民とワークショップ開催などによるコミュニケーションを図りながら、新たな移動サービスの構築に向けて継続して取り組んでいくとしています。
京都府北部 与謝野町野田川・加悦エリア「WILLER mobi」
京都府北部の与謝野町野田川・加悦エリアでは、バス事業者の「WILLER株式会社」と行政の連携により、2021年11月〜2022年1月に実証事業を展開しました。
与謝野町では、地域交通が低密度で、目的地へダイレクトに行ける交通が少ない、あるいは、公共交通が運行している場所でも便数が少なく、住民がダイヤに合わせて行動する必要があり利便性が低いという課題がありました。
それに加えて、人口減少および新型コロナによる影響で地域公共交通の利用者減少・ドライバー不足もあり、今後の地域公共交通を維持する仕組み作りが求められていました。
そこで、エリア内で自由に乗降可能なAIオンデマンド交通を導入。出発地と目的地を指定してアプリか電話で呼び出すと、10分程度で迎えに来てくれて「ちょい乗り」が可能になります。
今後は、生活利用中心から、ワーケーション、旅行者の交通の不便さ解消も目指し、交流を生み出すまちづくりを図るとしています。
宮崎県「宮崎県MaaS」
宮崎県宮崎市・日南市・高鍋町・木城町及びその近郊では2021年10月からMaaS事業を実施。
前年度のMaaS実証実験結果を踏まえ、地域内での実装フェーズに向けた、より一歩進んだ取り組みという位置づけです。
トヨタグループが提供するMaaSアプリ「my route」を利用。移動経路の検索から、交通、観光、商業施設などのデジタルチケット発券、各種地域情報をアプリでワンストップで提供します。
この取組結果を踏まえ、地域内交通における乗り換え利便性向上と、デジタルプラットフォームを融合させた取り組みを他のエリアでも拡大していくとしています。
沖縄県「沖縄スマートシフトプロジェクト」
沖縄県那覇市・浦添市・本部町・豊見城市では、2022年2月より「沖縄スマートシフトプロジェクト」を展開しています。
地域内の課題として、交通面では「渋滞緩和」「公共交通機関への分散」「カーボンニュートラル」、観光面では「感染症対策」「観光客数の増大に対するサービス提供」「各交通モ手段の利便性向上やキャッシュレス決済対応」、地域住民は「レンタカーによる事故増大や観光公害(渋滞・ゴミ・違法駐車)」などさまざまな問題が山積していました。
そこで、トヨタグループが提供するMaaSアプリ「my route」を導入。
バスやタクシー、船舶、カーシェアなどさまざまな交通サービスを「my route」アプリを介してシームレスに繋ぎ、移動の効率化・最適化を実現。
交通サービスと非交通サービスを連携し行動変容を促すためのサービスを順次展開することで、沖縄県の交通課題の解決と地域経済の活性化を目指しています。今後は、自治体や観光協会、地場企業などとの連携を強化し、サービス提供範囲拡大も見据えています。
沖縄県宮古島「あいのりタクシー」
沖縄県宮古島市内全域では、2021年12月〜2022年2月に「あいのりタクシー」の実証実験を行いました。
この地域では、ラストマイル交通の不足など公共交通の利便性の低さ、レンタカー利用増による交通量の増大、コロナ禍におけるタクシー乗務員の減少によるタクシー サービスの供給不足が課題でした。
そこで、コロナ後の新しい生活スタイルに向け、住民、観光客向けの新しい移動サービスである「がんずぅあいのりタクシー」サービスをサブスクで提供。電話・アプリ(任意の場所に呼び出し)、そして乗降スポットのサイネージでも呼び出しができます。観光やホテルのチケットとも連携を行い、収益性の効果検証を実施しました。
地域にもたらす変化として、「高齢者の外出機会を創出」「土地勘がない観光客の周遊」「マイカー、レンタカーによる渋滞の回避」を目的としています。
まとめ
紹介した12の事例から、それぞれの地域によってフォーカスすべき課題は「交通の空白」「混雑の回避」「移動躊躇層の行動促進」など実にさまざまであることが伺えます。
また、MaaSは単に地域内の交通問題解決のための手段ではなく、「移動そのものの体験をアップデートする」「地域の魅力をアップデートする」を目的としていると言えます。
交通空白や、過疎高齢化といった課題を抱えている地方の小都市こそ、「MaaSのような先進的な取り組みは都市部のもの」といった思い込みを捨て、課題解決、地域の魅力アップのために取り組むべきです。
また、MaaS事業の実現は、「行政だけ」あるいは「民間だけ」では完結不可能です。地域内の交通インフラ整備、アプリ開発、データ分析など、官民連携で多様な知見・ノウハウを持ち寄って、さまざまな人材・企業・団体がプロジェクトに参画する体制が求められます。
【参考元】
令和3年度日本版MaaS推進・支援事業 12事業について
国土交通省推進支援事業≪芽室MaaS≫に、株式会社電脳交通がタクシー配車システム「電脳交通®」を提供|電脳交通のプレスリリース
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