2023年は生成AIの普及元年と言われ、個人レベルでも、ビジネスでの利用ともに飛躍的に伸びた年でした。一般社団法人電子情報技術産業協会によると、生成AI市場の世界需要額は今後、年平均53.3%で成長、2030年には2,110億ドルに達し、2023年の約20倍となる見込みです。
本記事では、Gemini Advanced、ChatGPT Plus、Copilot Proという3つのAIアシスタントサービス(生成AI型)の特徴と強み・弱み、実際に操作したうえでの比較を分析します。
3つのAIアシスタントサービスの概要
Gemini Advanced
Gemini Advancedは、グーグルが開発した、Googleの生成AIアシスタントサービス「Gemini」の有料版です。最大かつ最も高性能な最新AIモデル「Ultra 1.5」にアクセスでき、テキストや音声、動画(YouTube)など、多様な種類のメディアの処理能力に強みを有しています。iPhoneやiPadからは、Googleアプリからアクセス可能です。
ChatGPT Plus
ChatGPT Plusは、ChatGPTのサブスクリプションプランの一つです。2022年11月に発表されて以降、現在でも人気があり、ユーザー数も多くいます。2024年1月にGPT Storeが正式リリースとなり、ユーザーが作成した、特定の分野の生成に特化したGPTを利用できます。また、ピーク時でもChatGPTにアクセスできること、プロンプトを投げてから応答するまでの時間が短いこと、ChatGPT Plusのユーザーは新機能に優先的にアクセスできることなどが特徴です。
Copilot Pro
Copilot Pro(コパイロットプロ)は、Microsoftが開発したAIアシスタントサービス「Copilot」の有料版です。ニーズに応じて、GPT-4またはGPT-4 Turbo(クリエイティブ)、高速(バランス)、GPT-4(厳密)のいずれかから会話のスタイルを選んで、より複雑なプロンプトを投げたり、Copilot Pro側が複雑な情報を処理したりできます。さらに、Microsoftの製品(Excelはプレビューのみ、Accessは現在利用できない)に組み込まれているので、Wordであれば文書作成、Outlookであればメールの文章を考案など、製品の性質に沿って機能を提供します。
機能比較(それぞれの同じプロンプトで出力を比較)
ここでは、文章生成、翻訳、質問回答、クリエイティブコンテンツ生成といった、主にAIアシスタントサービスを使用する目的ごとに、実際に使ってみた結果を紹介しています。
今回は前提条件など設けずにZero-Shotプロンプティングで指示を出しています。
文章生成
卒業式シーズンなので、「中学校PTA会長が卒業式で話すスピーチ原稿を考えてください」という、ざっくりとしたプロンプトを投げてみました。この時期、PTA会長をしている人の多くは、卒業式に話すことを考えるためにいろいろなWebサイトやスピーチ本を見ているからです。
Copilot Proは、日本の中学校が3年間であることを理解し、いろいろなサイトから情報を収集して原稿を作成しました。
Gemini Advancedは長いバージョン、短いバージョンとさまざまなパターンを提示してくれます。
ChatGPT Plusは最初の文章が手紙の形式ではじまっているし、全体的に文章が硬い印象です。
翻訳
翻訳に使用したのは、外務省の英語版ホームページ「About this Site」にある「Accessibility」のページの文章にしました。1,034字とそこまで多くないこと、外務省の日本語のホームページにも似たページがあり、比較しやすいことなどが理由です。
結果は次のようになりました。
Gemini Advancedは「外務省(MOFA)」の(MOFA)を省略してしまいました。
Copilot Proは翻訳文に主語を必ず入れていますが、ChatGPT Plus、Gemini Advancedともに主語は一部省略されています。
日本語で文章を書く場合、同じ主語が続くときは次にくる主語を省略するというルールがあるので、そういう観点からしても、日本語の文章特有のルールに従って忠実に翻訳できているのがChatGPT Plusといえます。
質問応答
今回、学習内容が少し古いChatGPT PlusにはCopilotとGemini AdvancedのURLを投げてそれぞれのサービス内容を理解してもらってから、3つのAIアシスタントのうち、最も優れているものはどれだと思うか尋ねてみました。人間のように、「自分が一番優れている」と回答するAIアシスタントがいるのではないかという、ちょっとした意地悪からでした。しかし、予想に反していずれも「あなたのニーズや予算によって変わる」という回答ばかりで、少々面食らいました。
しかし、回答内容にやや差がありました。ChatGPT Plusはその旨を伝えるだけ、他の2つはそれぞれのサービスの説明をしてくれました。
クリエイティブコンテンツ生成
Gemini Advanced、ChatGPT Plus、Copilot Proともに、詩や短歌、俳句などのクリエイティブコンテンツを生成できますが、AIアシスタントサービスとのやり取りの中で動画を生成することはできないようです。
また、Copilot Proは「短歌」という日本特有の言葉の文化を理解できず、俳句で出力してくるなど、このあたりにも3つのAIアシスタントサービスに明確な差がありました。
さらに、Gemini Advancedは現在、画像生成に対応してないので、ChatGPT Plus、Copilot Proのいずれかで画像生成を行います。
その他の機能
上記以外にも、AIアシスタントはコードを生成してくれたり、数式の問題を解いてくれたり、プレゼンテーションを作成したりします。ChatGPT PlusとCopilot Proは、画像生成とオフィスソフトへの情報出力ができます。Gemini Advancedは数式の問題を解くのが上手で、解に至るまでの過程もきちんと書いてくれています。もし、解き方が分からない学生が解までの過程を知りたいと思ったり、親御さんが「一次方程式の解き方が分からない」と言われて、教え方に困ったりしたときは、Gemini Advancedを使うとよいでしょう。
上記以外にも、テスト問題作成機能、スペルチェック機能、文章校正機能などがあります。
<h2>比較表</h2>
Gemini Advanced、ChatGPT Plus、Copilot Proの簡単な違いを表にしました。
サービス | 無料プラン | 費用
(月額) |
機能制限 | 利用制限 |
Gemini Advanced | Gemini | 19.99米ドル(2,900円) | 3万2,000トークン数(日本語にして5万文字) | なし |
ChatGPT Plus | ChatGPT | 20米ドル(3,000円) | 3万2,000トークン数(日本語にして5万文字) | なし |
Copilot Pro | Copilot | 20米ドル(3,200円) | 8,000トークン数(日本語にして約4,000文字)
※WordやPowerPointでは4,000トークン(日本語にして約2,000文字) |
有料版はMicrosoft 365サブスクライバー限定 |
AIアシスタントサービス選び方
AIアシスタントサービスを選ぶときは、次の4つのポイントと照らし合わせてみましょう。
- 主に利用する機能
- 予算
- 利用環境
- 求める性能
例えば、「ワンランク上の機能を試しに使ってみたい」のであれば、2ヶ月間は無料で使えるGemini Advanced。外国語で書かれた論文の要約やクオリティの高い画像生成など、機能が特化したGPTを使ってみたい場合はChatGPT Plusを、大量の画像生成をしたいとき、Microsoftの製品を使っている場合はCopilot Proを選ぶとよいでしょう。
各サービスの強み・弱み
Gemini Advanced、ChatGPT Plus、Copilot Proそれぞれの強みと弱みを表にしました。
サービス | 強み | 弱み |
Gemini Advanced |
|
|
ChatGPT Plus |
|
処理能力を超えると、全て英語で返ってくるため、別のチャットルームを設定する必要がある |
Copilot Pro |
|
コミュニケーションツールや他社製品との連携はなく、Microsoft製品のみ |
具体的なユースケース
Gemini Advancedでは、動画の内容の要約ができます。今回は、「Problem solving across 100,633 lines of code | Gemini 1.5 Pro Demo」という、Googleの動画の要約をお願いしました。動画で使われている外国語が分からないとき、YouTube動画の内容を端的に知りたいときは、とても便利です。
※Gemini 1.5 Pro:2024年2月15日にグーグルが発表した、最大100万トークンまで処理できるマルチモーダルAIの上位モデル。「Google Japan Blog」によると、アポロ11号の月面着陸に関する402ページにわたる記録の中にある会話や出来事、画像、内容の詳細について推論できる他、無声映画で起こることを分析できて、見逃しがちな部分を的確にピックアップし、推論に活かすとある。こちらは現在、一部のデベロッパーと顧客企業のみ、AI StudioとVertex AIから利用可能。
ChatGPT Plusは、英語の翻訳に強みがあります。文字数制限がないので、4,000字を超えるかなり長い文章でも、スピーディに翻訳します。途中で翻訳生成が止まっても、「生成を続ける」ボタンを押すだけで、続けて翻訳してくれます。
ちなみに、ChatGPTを開発したOpenAI社は2024年2月15日に、新機能として「Sora(ソラ)」を公開しました。テキストのプロンプトから、最大1分程度の短い動画を生成できる機能で、現在はビジュアルアーティスト、デザイナー、映画製作者のみにアクセスを許可しています。しかしそう遠くない未来に、ChatGPT内で誰でもこの機能を使える日が来るかもしれません。
Copilot Proでは、WordやPowerPointで文書やプレゼンテーションを、Outlookでは、メールの例文を作成できます。ホームの「Copilot」ボタン、WordやOutlookだと文頭に出てくるCopilotのマークを押すと、プロンプトを入力できるスペースが現れます。
「取引先企業へ郵送する請求書などに添付する文書を2~3例考えてほしい」とプロンプトを入力したところ、次のような感じで出力してくれました。
他のアプリケーションとの連携はまだですが、ビジネス文書やプレゼンテーションを作成をしたいときは、Copilot Proが向いています。
まとめ
AIアシスタントサービスの世界市場規模は、今後10年で飛躍的に拡大することが予想されています。それらのサービスは、LLM(大規模言語モデル)の性能の向上などにより、さらなる技術の進歩が期待できるので、今できないことも、今後の改変次第でできるようになるでしょう。
さまざまなメディアの情報処理と収集が得意なGemini Advanced、分野の特化した生成AIを使いたい場合はChatGPT Plus、大量の画像生成とオフィスソフトの起動中にAIアシスタントも使いたい場合はCopilot Proというように、各サービスには特徴があります。それを踏まえて、ニーズや目的で使い分けたり、どれが一番正確に自分の考えを表現してくれるか競わせたりして使うのもいいかもしれません。まずは、ChatGPT PlusかCopilot Proの無料版または2ヶ月間無料で高機能のAIアシスタントを使用できるGemini Advancedを試してみましょう。
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