プログラミングなどの学習は小学生から行なわれるようになり、2022年からは高等学校で「情報Ⅰ」が共通必修科目となりました。
高校生たちが学ぶのは、大きく次の4つです。
(1)情報社会の問題解決
(2)コミュニケーションと情報デザイン
(3)コンピュータとプログラミング
(4)情報通信ネットワークとデータの活用
(文部科学省「高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材(本編)」)
つまりこれからの世代は、プログラミングやネットワークの基礎やその活用について、当たり前の知識として持っていることになるのです。それに伴い、現在リスキリングなどが叫ばれるように、企業の情報リテラシーの底上げも求められます。
では、実際にどのような内容やレベルでの学習をしているのでしょうか。そこで、本記事から数回に分けて、大学入試センターが公開している令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報Ⅰ』から引用して、内容を紹介・解説します。実際に解いたり解説を見たりすることで、内容や難易度が体感できると思います。ぜひ実際に解きながら読み進めてみてください。
今回は問題1の設問1~4の内容と解説です。問題1は最初の大問ということもあり、知識よりもリテラシーや判断力、読解力、思考力を問う内容になっています。学問的な知識が必要ないという点では、この問題は必須レベルともいえるでしょう。
設問1:基本的なインターネットリテラシーを問う問題
問題文
インターネットを使ったサービス利用に関する次の問い( a・b )に答えよ。
(a)SNSやメール,Webサイトを利用する際の注意や判断として,適当なものを,次の⓪~⑤のうちから二つ選べ。ただし,解答の順序は問わない。
⓪相手からのメッセージにはどんなときでも早く返信しなければいけない。
①信頼関係のある相手とSNSやメールでやり取りする際も,悪意を持った者がなりすましている可能性を頭に入れておくべきである。
②Webページに匿名で投稿した場合は,本人が特定されることはない。
③SNSの非公開グループでは,どんなグループであっても,個人情報を書き込んでも問題はない。
④一般によく知られているアニメのキャラクターの画像をSNSのプロフィール画像に許可なく掲載することは,著作権の侵害にあたる。
⑤芸能人は多くの人に知られていることから肖像権の対象外となるため,芸能人の写真をSNSに掲載してもよい。
(b)インターネット上の情報の信ぴょう性を確かめる方法として,最も適当なものを次の⓪~③のうちから一つ選べ。
⓪検索エンジンの検索結果で,上位に表示されているかどうかで判断する。
①Q&A サイトの回答は,多くの人に支持されているベストアンサーに選ばれているかどうかで判断する。
②SNSに投稿された情報は,共有や「いいね」の数が多いかどうかで判断する。
③特定のWebサイトだけでなく,書籍や複数のWebサイトなどを確認し,比較・検証してから判断する。
こたえと解説
こたえ:(a)①④(b)③
基本的なインターネットリテラシーやそれにもとづいた判断力についてであり、迷うことなく正解を選びたい問題です。
【a】
⓪「どんなときでも」は誤りです。業務中など、返信ができない時やスマホをいじるべきではない時にする必要はありません。
①正しい。誰しもアカウントを乗っ取られる可能性があります。最近では愛知県選挙管理委員会のXアカウント乗っ取り被害もあり、企業や公的な団体のアカウントでもなりすまし等の可能性は十分にあるでしょう。
※ScanNetSecurity「愛知県選挙管理委員会X(旧ツイッター)アカウントが乗っ取り被害 | ScanNetSecurity」(2024.2.15)
②弁護士等を通して発信者情報開示請求を行えば、IPアドレスの情報をもとに投稿した本人の住所や氏名などを調べることができます。
※参考:弁護士法人名古屋法律事務所 弁護士 金井英人「インターネットでの匿名の投稿から「特定」されるまで」(2021.7.29)
③LINEやX、Instagram、Facebookなど、多くのSNSは非公開で特定の人にのみ発信することができます。それらは非公開だったとしても、口頭やスクリーンショットなど個人情報を流出させる方法はあり、グループ内の人が漏洩する可能性があります。
④正しい。著作権は著作物全てに適用され、私的使用の範囲を超えて著作権者に無断で使用することは、著作権の侵害になります。「私的使用」とは限られたごく狭い範囲のことであり、許可なく著作物をSNSのアイコンに使用することは「私的使用」と認められません。
⑤芸能人も肖像権の対象です。また、このケースでは「パブリシティ権」の侵害になりうることにも注意しましょう。パブリシティ権とは文化庁によれば、「芸能人やプロのスポーツ選手等のように、著名人の氏名や肖像には一定の顧客誘引力があり、その価値に基づく権利」のことです。つまり、無断で有名人の写真や名前等が使用されることによって、経済的な利益が不正に生み出されるのを防ぐための権利です。
【b】
⓪検索結果は信憑性の順位ではありません。広告やSEO対策(検索エンジン最適化)によって結果の順位が変わることがあります。
①②支持や評価、賛同している人が多い情報だからといって必ずしも信頼できるわけではありません。
③正しい。Web上であればその情報が掲載された年月日や、情報源、その他新聞や報道など複数のメディアから情報を集めてから判断する必要があります。
設問2:読解力とデータを扱うための基本の数学知識を問う問題
問題文
次の文章の空欄 ・ に入れるのに最も適当なものを,後の解答群のうちから一つずつ選べ。
データの通信において,受信したデータに誤りがないか確認する方法の一つにパリティチェックがある。この方法では,データにパリティビットを追加してデータの誤りを検出する。ここでは,送信データの1の個数を数えて,1の個数が偶数ならパリティビット0を,1の個数が奇数ならパリティビット1を送信データに追加して通信することを考える。例えば,図1に示すように送信データが「01000110」の場合,パリティビットが1となるため,パリティビットを追加したデータ「010001101」を送信側より送信する。
受信側では,データの1の個数が偶数か奇数かにより,データの通信時に誤りがあったかどうかを判定できる。この考え方でいくと,(エ)。例えば,16進法で表記した「7A」を2進法で8ビット表記したデータに,図1と同様にパリティビットを追加したデータは,「 (オ) 」となる。
(エ)の解答群
⓪パリティビットに誤りがあった場合は,データに誤りがあるかどうかを判定できない
①パリティビットを含め,一つのビットの誤りは判定できるが,どのビットに誤りがあるかは分からない
②パリティビットを含め,一つのビットの誤りは判定でき,どのビットに誤りがあるかも分かる
③パリティビットを含め,二つのビットの誤りは判定できるが,どのビットに誤りがあるかは分からない
④パリティビットを含め,二つのビットの誤りは判定でき,どのビットに誤りがあるかも分かる
(オ)の解答群
⓪011110100
①011110101
②011110111
③101001110
④011110110
⑤101001111
こたえと解説
こたえ:(エ)①(オ)①
一見すると情報についての知識が必要に見えますが、パリティビットについては分からなくても問題文から基本的なことが分かるようになっています。そのため、(エ)は読解力が問われる問題です。(オ)は二進法などの知識は必要ですが、高校数学の必須科目に含まれる範囲なので、これも読解力が重要となります。
【エ】
⓪そもそもパリティビットが誤っているならば、データが誤りとなります。
②パリティビットはデータの中の「1」の個数が偶数か奇数かによってのみ判定されるため、誤りの位置は特定できません。
③④二つのビットが誤れば、元のデータと判定が同じになり正しいと判定されるため、そもそも誤りが判定できません。
【オ】
8ビットとは2進数で8桁のことです。よって、まずは「7A」を8ビットに変換します。7は2進数で「0111」、Aは「1010」です。この二つを合わせると「01111010」となります。「1」の数は5つで奇数なので、パリティビットの「1」を加えて「011110101」が正しいこたえです。
※二進法は数学の範囲のため詳細な説明は省く。
設問3:論理的な思考を問う問題
問題文
次の文章を読み,空欄(カ)~(ク)に入れるのに最も適当なものを,後の解答群のうちから一つずつ選べ。
基本的な論理回路には,論理積回路(AND回路),論理和回路(OR回路),否定回路(NOT回路)の三つがあげられる。これらの図記号と真理値表は次の表1で示される。真理値表とは,入力と出力の関係を示した表である。
(1) S航空会社が所有する旅客機の後方には,トイレが二つ(A・B)ある。トイレAとトイレBの両方が同時に使用中になると乗客の座席前にあるパネルのランプが点灯し,乗客にトイレが満室であることを知らせる。入力Aは,トイレAが使用中の場合には1,空いている場合には0とする。Bについても同様である。出力Xはランプが点灯する場合に1,点灯しない場合に0となる。これを実現する論理回路は次の図2である。
(2) S航空会社では新しい旅客機を購入することにした。この旅客機では,トイレを三つ(A・B・C)に増やし,三つのうちどれか二つ以上が使用中になったら混雑を知らせるランプを点灯させる。入力や出力は(1)と同様とする。この場合の真理値表は (キ)で,これを実現する論理回路は図3である。
こたえと解説
こたえ:(カ)⓪(キ)②(ク)①
論理回路がテーマですが、知識ではなく、読解力と論理的に整理して考える力を問われる問題です。
■論理回路とは
論理回路とは、コンピューターの中で処理される電気信号を処理する流れのことです。電気信号は0か1で表され、0はオフ、1はオンを意味します。コンピューターは人間のような柔軟な処理や判断ではなく、その信号を「この条件の時はこの処理を」「この条件ならこの処理を」と論理的に情報処理することで、結果(=表示/出力するもの)を導き出しています。
その中で行なわれている処理として代表的なものが問題文にある三つです。
論理積回路(AND回路)…どちらも1なら結果は1
論理和回路(OR回路)…少なくとも片方が1なら結果は1(つまり両方1も1)
否定回路(NOT回路)…結果と逆のものを最終的な結果とする(0なら1、1なら0)
これらの処理や流れを図として表したものが論理回路、ケースと結果を書き出したものが真理値表です。これらの処理はプログラムの基本的な考え方であり、プログラミングを学ぶ際には重要なものとなります。
【カ】「どちらも1(使用中)の場合に、1を出力する」処理を考えます。「どちらも」は論理積回路(AND回路)の処理です。
【キ】「二つ、または三つが使用中の場合に1を出力する」処理を考えます。この条件に当てはまっているものは②の真理値表のみです。
【ク】「二つ、または三つが使用中の場合に1を出力する」処理の流れを考えます。しかし前述の通り、そもそも0(オフ)か1(オン)かで処理を考える必要があるので、複数の条件の処理を一度に進めることはできません。よって、論理回路の考え方に基づいて、「〇と△が1の場合」「〇か△が1の場合」のように2つの値の比較によって段階を踏んで処理を整理しましょう。
■整理の仕方
(1)2つの比較で処理を進めていくので、まずは1が出力される場合の組み合わせを整理します。少なくとも「A,B」「B,C」「A,C」が1ならば1が出力されます。(「A,B,C」は3つの値になるため、一旦置いておく)
(2)ここまでを図にします。図3では上から「AとB」「BとC」「AとC」がどちらも1の場合です。それぞれがAND回路で表されていることが分かります。
(3)抜けている「A,B,C」の場合を考えると、「AとB」「BとC」「AとC」の三つの場合のうちどれか二つが組み合わされば成立します。これを二つずつ比較することで「A,B,C」になるような回路を考えます。
(4)(3)の処理をするには、まず二つを比較して、その結果を残る一つと比較します。図3では上から、「AとB」か「BとC」が1の場合の結果と、残る「AとC」を比較しており、その比較の部分が(ク)です。
(5)それぞれの論理回路をあてはめてみた場合を考えてみます。AND回路にすると「A,B,C」全て1の場合にしか1が出力されません。NOT回路を入れると、それまで成り立っていた「AとB」「BとC」「AとC」が1の場合の出力とは結果が逆になり、どこかで論理に矛盾が出てしまいます。よって、①のOR回路が正しいこたえです。
設問4:読解力と思考力を問う問題
問題文
次の文を読み,空欄(ケ)~(サ)に入れるのに最も適当なものを,後の解答群のうちから一つずつ選べ。ただし,空欄 (コ)・(サ) は解答の順序は問わない。
情報を整理して表現する方法として,アメリカのリチャード・S・ワーマンが提唱する「究極の5つの帽子掛け」というものがある。これによれば,情報は無限に存在するが,次の5つの基準で情報の整理・分類が可能という。
・場所・・・物理的な位置を基準にする
例:都道府県の人口,大学のキャンパスマップ
・アルファベット・・・言語的な順番を基準にする(日本語なら五十音)
例:辞書,電話帳
・時間・・・時刻の前後関係を基準にする
例:歴史年表,スケジュール
・カテゴリー・・・物事の差異により区別された領域を基準にする
例:生物の分類,図書館の本棚
・階層(連続量)・・・大小や高低など数量的な変化を基準にする
例:重要度順のToDo リスト,ファイルサイズの大きい順
この基準によれば,図4の「鉄道の路線図」は (ケ)を基準にして整理されており,図5のある旅行会社のWebサイトで提供されている「温泉がある宿の満足度評価ランキング」は(コ)と(サ)を基準に整理・分類されていると考えられる。
(ケ)~(サ)の解答群
⓪場所 ①アルファベット ②時間 ③カテゴリー ④階層(連続量)
こたえと解説
こたえ:(ケ)⓪(コ)③(サ)④
基礎知識は不要で、読解力や思考力が必要な問題です。
【ケ】どの駅の隣にどの駅があるか、路線はどの方向に伸びているか、といった位置関係を表した図なので、「場所」が正しいこたえです。
【コ・サ】「温泉がある宿」というカテゴリーと、「満足度の評価が高い順」の階層(連続量)で整理されています。
まとめ
どれも標準的な問題でしたが、実際に見てみていかがだったでしょうか。標準的なレベルである以上、どれも理由を理解できたうえで正解できることが求められます。
次回は設問2の解説です。設問2は二次元コードやデータの読み取りが必要な内容となっており、標準よりも高度な情報リテラシーを要する内容です。今回で「簡単だなあ」と思った方も、次回はそうはいかないかもしれません。「情報Ⅰ」の実際のレベルを体感できる問題ばかりなので、ぜひ次回もご覧ください。