業界動向

測量やインフラ点検が可能!ドローンで活用できる建設・建築業務とは?

ドローンとは、電動型の自律飛行が可能なロボットで、小型の無人飛行機、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、UAS(Unmanned Aerial System)とも呼ばれます。ドローンのメリットには、搭載のカメラやレーザースキャナーを使って上空からさまざまなデータを低コストで取得できることにあります。取得できる情報は、建築物や地形、交通といった状況を示す画像や3Dデータ、地上から観測できる気象データや測量データなどです。

では実際にドローンは、どういった業務で活用できるのでしょうか。建設業界を中心に、活用可能な業務や実際の活用事例をご紹介します。

ドローンで活用できる業務とは?

国土交通省は2016年から、技能者1人あたりの生産性を向上させることで、深刻な担い手不足を解消するための取り組み「i-Construction」を進めています。i-Constructionでは、IoTやAI(人工知能)の現場導入、3次元データの活用などが推奨されていて、ドローンを活用した技術もその1つです。

建築現場での測量や、インフラの点検作業などにおいて、自由に飛行可能なドローンは、人手を使っていた場所はもちろん、人の立ち入りが困難な場所での作業を代行することで、安全性向上、工期短縮、人件費節約につながると期待されているのです。

測量

測量は、現場の正確な地形を把握するために距離、角度、高さを計測する作業です。

これまでの測量は地上から、もしくは航空機からのいずれかが一般的でした。地上で行う場合は時間と人手がかかり、航空機の使用は測量の範囲が広くコストため、大規模な工事でなければ採算が取れない側面もあります。

ドローンを使った測量は、運用コストが低いために工事範囲にとらわれず活用できるうえ、人の手で行うよりも効率的です。

公共工事で初めてドローンが測量に導入されたのは、北海道千歳市の道央圏連絡道路泉郷改良工事で、1週間かかる起工測量を3日に短縮できたことが報告されています。

現在、測量にドローンを導入する建設現場は徐々に増えており、国土交通省のホームページにも事例集が公開されています。

インフラ点検

高速道路やダム、トンネル、橋梁など、日本のインフラは高度成長期に整備されたものがほとんどです。インフラは定期的に点検が必要で、これまで目視による点検が中心となっていました。しかし、目視点検では死角が生じるうえ、高所での点検は危険が伴うため、ドローンの活用が推奨されています。

2020年、国は点検要領を見直し、インフラ点検にドローンの使用を認めると明記しており、ドローンを使ってインフラ点検を事業として展開する民間企業も今後増えていくでしょう。

建築資材の運搬

山間部や急傾斜地などになることも多い土木工事の現場では、建築資材を運搬する車やヘリが入れず、ときには数十キロの資材を背負って現場まで運ぶこともあります。

現在は実証実験段階ですが、大型ドローンを使って建築資材を運搬する技術は、今後発展していくことが予想されます。

その他、こちらは海外企業の実証実験ではありますが、ドローンで小さなブロック材料を少しずつ積み上げながら建物を作る建設手法が、スイスの建築設計事務所のグラマツィオ・アンド・コーラー(Gramazio & Kohler)と、チューリッヒ工科大学で開発されています。

ドローンを活用時の課題とは?

ドローンを活用したいとき、いくつか課題が考えられます。

日本では購入したドローンをそのまま飛ばすことはできません。航空法や小型無人機等飛行禁止法などの法律で、原則として飛行禁止の場所や高度が設定されているためです。また、飛ばす場所やドローンの機種などによっては、所轄の官庁や管理者の許可が必要です。

さらに、ドローンを操縦するパイロットも自社で確保しなければなりません。ドローンパイロットの提供企業もありますが、自社でドローンパイロットを養成し、現場での業務に従事する企業も現れました。ただ、操縦はできなくても、ドローンの種類や構造といった基礎的な知識を身につけておくことが必要です。

ドローンの導入や運用に際しては費用もかかるので、現在作業にかかっているさまざまな費用とを比較したうえで、ドローンを活用しましょう。

ドローンの活用事例

日本のドローンの開発や利用において、自治体だけでなく企業でもさまざまな取り組みを行っています。

東北地方整備局

国土交通省東北地方整備局が管理している浅瀬石川ダムでは、2015年からドローンによるダムの点検に取り組んでいます。以前は双眼鏡などを使用した遠方からの点検が主でしたが、ダム周辺の法面(人工的に造られた傾斜面)点検にドローンを活用。また、洪水や流木が発生する原因にもなる、ダムや河川周辺の樹木の状況確認にもドローンで撮影した映像でチェックしています。

 

DJI JAPAN株式会社

DJI JAPAN株式会社は、ドローンで世界シェア約7割を誇るDJI社の日本法人です。ドローン(マルチコプタータイプ)の開発、製造、販売、保守、輸入などを手掛けています。2020年から建設や点検、災害対応などの業務で、DJIの産業用ドローンを使用するユーザーを対象に「DJI定期点検サービス」を提供しています。

ドローンの導入から部品交換まで、以下の2つのプランから選べる他、点検進捗を24時間オンラインでの確認、点検終了後の詳細な定期点検完了証明書を受領できます。

 

  ベーシックプラン

(Basic Plan)

プレミアムプラン

(Premium Plan)

概要 全面的なクリーニング、基本機能の点検、ファームウェアのアップデートなどを行います。ドローンを最適な状態に保つことで、各種パーツの劣化を防ぐことができます。 ベーシックプランに消耗パーツとモーターの交換サービスを追加したプランです。ドローンの飛行性能と推進システムを最適な状態に保つことで、常に高い安全性と効率を維持しながら業務を遂行することができます。
参考価格(機種によって価格が異なります) 30,000円~65,000円 100,000円 ~ 165,000円

 

クオリティソフト株式会社

和歌山県に本社を置くクオリティソフト株式会社では、災害発生時の避難誘導などで使えるドローンに「アナウンサードローン」と名付けて、2019年から受注生産を開始しました。アナウンサードローンには圧電スピーカー(※)を搭載しており、日本語以外にも英語や中国語、スペイン語など29種類の候補から言語を選ぶと、入力内容を自動で翻訳し、アナウンスしてくれる仕組みになっています。現在、品川区などの自治体が災害対策としてアナウンサードローンを導入しています。

※圧電スピーカー:電圧をかけると伸び縮みしたり、曲がったりする現象(ピエゾ効果、これが認められるクリスタル、セラミックスなどの物質を圧電物質)を応用して、スピーカーの振動板に直接圧力をかけて振動を発生させるスピーカー。

株式会社スペースリー

空間データ活用プラットフォームのクラウドソフト「スペースリー」を開発・運営している株式会社スペースリー。パートナー企業の株式会社FOFを通じて、九州全域を対象に全天球カメラを活用したVR報告サービスを2021年10月より提供しています。

橋梁やトンネルなどの点検後は、写真と文章だけで報告書を作成していましたが、株式会社FOFの持つドローンで撮影した写真をVR化することで、写真のみでは把握しきれなかった橋の起終点の把握、トンネルや橋梁側面の状況確認ができるようになりました。

 

株式会社クリーク・アンド・リバー社

株式会社クリーク・アンド・リバー社はエージェンシー事業(人材紹介、教育)、プロデュース事業(サービス開発、PR、制作請負)、ライツ事業(知的財産のマネタイズ)を柱に17の分野でサービスを展開する企業です。ドローン事業にも参入し、ドローン運用や操縦可能な人材紹介などを行っています。

2020年、ドローンを開発するサイトテック株式会社と共同で、各分野の地元企業や機関などと協力し、土木・建築をはじめ5つの分野で25kg以上の荷物をドローンで運搬する実証実験を行いました。現在、50kg(1回)までの物資を運搬可能なドローンを開発しており、作業効率の向上、従事者の減少対策への貢献が期待されています。

株式会社センシンロボティクス

株式会社センシンロボティクスは、産業用ドローンなどを活用した業務用ロボティクスシステムを提供している企業です。株式会社フジタと共同で、建設現場向け「全自動ドローンシステム」を開発。現場オペレーターがいなくても、ドローンが現場内の安全巡視や写真での測量業務を行うシステムで、建設現場の無人地帯の目視外補助者なし飛行を実現しました。

ドローン飛行には本来必要な操縦者と補助者(2名)は、このシステムでは不要になる他、ドローンの空撮により施工進捗状況が可視化されるため、施工計画の変更などにも対応可能など、さまざまな効果が得られます。

今後の展望

日本の場合、国土交通省や経済産業省、総務省が国策として積極的に実証実験をはじめとしたドローンの活用を推し進めたことにより、測量やインフラ点検分野への導入が進んでいるのが現状です。点検においては特に、大規模なインフラを持つ企業は積極的にドローン活用を進めています。また、これまで測量やインフラ点検などの分野に、ドローンを開発する企業が参入する事例も増えてきています。

 

今後は、各省庁などで検討されている人口集中地区外の目視外飛行のガイドライン、ドローン活用のルールの策定が進むことで、さらなる活用が広まることが予想されています。

 

<参考図書>
『いちばんやさしい人工知能ビジネスの教本』二木 康晴・塩野 誠 インプレス 2017『ドローンビジネス参入ガイド』関口 大介・岩崎 覚史 翔泳社 2017『ドローン産業応用のすべて―開発の基礎から活用の実際まで―』野波 健蔵 オーム社 2018
『図解入門 よくわかる最新BIMの基本と仕組み[第2版]』家入 龍太 秀和システム 2019『建設DX デジタルがもたらす建設産業のニューノーマル』木村 駿・日経アーキテクチュア 日経BP 2020