2021年後半、Googleで「メタバース」という言葉の検索数が急激に上昇しました。直近のニュースやSNSなどで見聞きした覚えがある人も多いのではないでしょうか?「メタバース」はアメリカの巨大テック企業が今後の重要な取り組みとして位置づけており、また中国では2021年のネット流行語に選ばれるなど、いま世界的に注目すべきテクノロジーだと言えます。
本記事では「メタバース」の基礎知識を理解できるよう、分かりやすく解説します。
1.メタバースとは
(1)2021年下半期、「メタバース」がトレンドワード急浮上
「Googleトレンド」を見ると、2021年下半期に「メタバース」という言葉の検索数が急激に増えていることが分かります。
[図1]Googleトレンド「メタバース – 日本、2004 – 現在」の人気度の動向
なお、2009年前後にも小さな山が現れています。「メタバース」という概念自体は2009年頃から「次世代の仮想空間」として研究対象とされてきた歴史があり、当時から専門家の間などで言及される機会があったためです。
(2)メタバースって何?
「メタバース(meta-verse)」とは、「現実とつながった仮想世界」のことで、「メタ(meta)」とは「超越」、「verse」は「universe(宇宙)」から来ている造語です。
2021年時点で経済産業省が公開している資料によると、メタバースの定義とは「ひとつの仮想空間内で、さまざまな領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者に提供される場」とされています。
[図2]メタバースの定義
[出典]【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/report/kasou-houkoku.pdf
(2)「あつ森」はメタバース?
コロナ禍に大ヒットを果たした任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」では、ゲーム空間内において数多くの企業・自治体コラボコンテンツを利用でき、現実とゲーム空間の垣根を超えたプロモーション展開が見られます。
前述した「メタバースの定義」のように、一つのプラットフォーム内に多種多様な企業・自治体がコンテンツを提供して消費者と接点を持っている状態で、「メタバース」に近い姿を実現していると言えます。
しかし、メタバースの構成要素として「VR」「3DCG」「NFT」といったテクノロジーも併せて理解する必要があります。これらの技術に関して、詳しくは後述します。
(3)2021年12月10日、Meta社のメタバースアプリ「Horizon Worlds」が一般提供に
2021年12月10日、米・Meta社(旧Facebook社)のメタバースアプリ「Horizon Worlds」が一般公開されました。現時点では、アメリカとカナダの18歳以上の人が利用可能です。
「Horizon Worlds」を利用するためには、VRヘッドセットを装着してアプリにログインします。すると、ヘッドセットを介して目の前に仮想空間を映し出すスクリーンが広がり、自作のアバターを介して仮想空間内を探索する(滑空やテレポート)、他ユーザーとコミュニケーションを取る、一緒にゲームをプレイする、仮想のミーティング空間を利用する、仮想空間の一部を自分の好みに合わせてカスタマイズする、などが可能になります。
ゲームなどを楽しむための遊びの空間としてだけでなく、オンライン会議や日常のコミュニケーションを仮想空間に移行する、といった新たな体験が今後広がっていきそうです。
▼「Horizon Worlds」の紹介動画はこちら
https://youtu.be/02kCEurWkqU
2.今、メタバースが注目される理由
なぜ今、メタバースが高い注目を集めているのでしょうか?既に存在する類似のテクノロジーと比較した相違点と、注目すべき理由を読み解きます。
(1)2000年代後半にブームとなった「セカンドライフ」との違い
2000年代後半に、「セカンドライフ」というゲームが世界的な大ブームを巻き起こしました。
パソコン上で自分のアバターを作って仮想世界に参加し、他ユーザーとコミュニケーションを取ることができました。さらに、仮想通貨をゲーム内での取引に利用でき、米ドルにも替えられるといった仕組みも導入されていました。このゲーム空間が企業のPR活動・マネタイズにつながる期待から、日本の企業も参入していました。
現在のメタバースの定義にかなり近いものだったと言えますが、「操作が難しい」「必要なPCスペックが高すぎる」「何をするにもお金がいる」などの理由から、ユーザー数の伸長・定着にはつながらず、人気は低迷。
なお「セカンドライフ」はPC画面内に展開する仮想世界であり、VR(バーチャル・リアリティ)の技術を使っていない点が、現在のメタバースとは異なります。
(2)「VR」「AR」とメタバースの違いや関係性
VRとは?
「VR」とは「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」の略語で、「人工現実」や「仮想現実」と訳されます。
VRヘッドセットを装着すると、視界の360度が覆われ、自分の周りに仮想世界が広がっているような没入感を得ることができます。
近年、日本国内のテーマパークなどでも、VRヘッドセットを装着して楽しむアトラクション(eスポーツ、お化け屋敷など)が提供されています。
VR技術は、いわばメタバースの「入り口」に位置するものです。VRを活用することで、メタバースという仮想空間にログインすることが可能になり、そこでさまざまなアクティビティを展開できる、という訳です。
ARとは?
ARとは「Augmented Reality(アーギュメンテッド・リアリティ)」の略語で、「拡張現実」と訳されます。
例えばスマホゲームの「ポケモンGO」がその一例です。専用アプリを起動したスマホを実在の風景にかざすと、バーチャルな視覚情報を重ねて表示できます。これこそが「拡張現実」です。
ARはテクノロジーの力を借りて、現実世界の視覚を補完・拡張するもの。一方VRは、クローズドなスクリーン内に、仮想の視覚世界を映し出すもの。
両者は、言葉としてはセットで語られる機会が多いものの、実はその根本にある考え方はまったく異なるテクノロジーだと言えます。
(3)「デジタルツイン」はメタバースに内包される概念
「デジタルツイン」とは、現実空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元に仮想空間でリアル空間を再現する技術のこと。現実世界を仮想空間にコピーする鏡の中の世界のようなイメージで、“デジタル上の双子”といった意味合いで「デジタルツイン」と呼ばれます。
現実空間に存在する都市の姿を、3次元CGで仮想空間内にそっくりそのままコピーし、「都市モデル」を構築する取り組みなどがその一例として挙げられます。このような「3次元都市モデル構築」の取り組みは、データを根拠にスピーディーな都市計画を実現させるプロジェクトとして、すでに国土交通省が中心になって推進しています。
「デジタルツイン」は、「現実の建物や町並みを、仮想空間にコピーする」技術。
そして「メタバース」は、もっと大きな枠組みで「現実とは別の、もう一つの仮想世界」を構築する技術です。
つまりデジタルツインはメタバースに内包され、メタバースの発展に従って今後ますます可能性が広がっていく技術だと言えます。
3.メタバースを支える3大テクノロジー「VR」「3DCG」「NFT」
前項で「VRはメタバースの入り口」「3DCG(3次元CG)によるデジタルツインは、メタバースに内包される概念」と述べました。これらのテクノロジーは、今後メタバースの普及・発展を支えていく存在だと言えます。
(1)VR(Virtual Reality)
CGで作られた世界や、360度動画などの実写映像を、あたかもその場所に居るかのような没入感で味わうことができるテクノロジーです。しかし、現時点で一般消費者が持つスマートフォンでは、VRを体験するにはスペックが不足しています。
VR専用ヘッドセットを発売している企業もありますが、疲労やVR酔いなども指摘されており、安全性が高く、小型かつ軽量のものが今後に向けて求められています。
(2)3DCG(3次元CG)
3次元の地理空間データで、実世界に存在する建物・町並みを仮想空間に再現するテクノロジーです。現実空間と仮想空間の高度の融合が可能になり、都市活動のシミュレーションなどが可能になります。
我が国の政府が推進する「Society 5.0」では、現実空間と仮想空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会構築を目指す、と掲げています。
例えば現実世界で台風や地震、火山噴火といった大規模災害が起きる前に、現実の町並みを丸ごと再現した仮想空間で実験・データ解析を展開することで予め被害予測ができ、現実世界では未然に対策を強化できるといったメリットが生まれます。
さらに、仮想世界での不動産(土地、建物)売買といった新たな経済活動の発展も期待できます。
(3)NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)
NFTとは、ブロックチェーン上で発行された、代替不可能で唯一無二(いわゆる「1点もの」)、なおかつ送信可能なデータのことです。
物理的な実体を持たないデジタルアイテムに、「1点もの(希少性、唯一性)」という価値を与え、取引可能にするテクノロジーで、例えば次のような利用手段が考えられています。
(例)
・デジタルトレーディングカード
・ゲーム内アイテム
・デジタルアート
・デジタル不動産
・ネガティブな意味を持つ資産(ローン、負債など)
特に「デジタルアート」「デジタル不動産」などは、従来の「ゲーム内課金」のような感覚とは大きく異なり、「世界中で見ても唯一・希少な価値を持つデジタル資産」という意味合いを持ちます。そのため、巨額の取引が生まれたり、投資・投機目的で取引を行うケースも出てきます。
4.メタバースの市場規模
暗号資産大手のグレイスケール社によると、今後メタバースは年間収益1兆ドル(=約115億円)の市場規模になると予測されています。
VRや3DCGなど、メタバースのインフラとなるテクノロジーが発展・普及した先で、人々を強力に惹き付けるコンテンツがメタバース内に生まれれば、多くの人々がメタバース空間に時間を費やすようになっていくでしょう。そこへNFTの可能性が交わることで、新たな経済活動が発展する可能性も考えられます。
オンラインで人々が交流してデジタル上で経済活動を行い、そこで得た利益は、テクノロジー(ブロックチェーン、NFT)の活用により、現実世界での利益に置き換えることができる。このような経済的側面が、現時点でメタバースに大きな期待が集まっている理由の一つです。
また、経済的側面だけではなく、社会課題解決の側面も期待されています。例えば防災・防犯といった社会課題を解決するために、バーチャル上にコピーした都市空間で実験・分析を行い、現実空間での被害を未然に防ぐ、最小限に留めるといった取り組みです。メタバース活用により現状のオンライン教育における「一方通行のコミュニケーション」を解消し、双方向かつ没入感の高い新たな教育の場として活用するアイデアも考えられます。
メタバースは「もう一つの、鏡の世界の中の社会インフラ」として社会的価値も大いに期待できると考えられています。
5.メタバースで期待できる未来
メタバースの発展・普及で現実世界と仮想世界の融合が進んだ先には、仮想世界での経済的利益が、現実世界にそのまま反映される日がやって来るかもしれません。
あるいは、バーチャル空間で防災・防犯など社会課題が既に解消された理想の社会像をモデルとして構築しておけば、リアル社会へのスピーディーな実装に役立つ、といった未来も期待できます。
現段階でメタバースとは「これから訪れる、もう一つの社会像」といった存在ですが、今後の広がりに引き続き、要注目です。
[参考元]
メタバースにおけるビジネスモデルとその効果に関する考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2011s/0/2011s_0_740/_pdf/-char/ja
メタバース、市場規模は1兆ドルに:グレイスケールhttps://www.coindeskjapan.com/131057/
国際知的財産教育もメタバースの時代!!
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2021/211102a.html
メタバース調査レポート2009 | インプレス総合研究所https://research.impress.co.jp/report/list/other/16270
Metaのメタバースアプリ「Horizon Worlds」が一般提供にhttps://japan.cnet.com/article/35180672/
フェイスブックのメタバース「Horizon Worlds」とは? いま分かることhttps://www.moguravr.com/horizon-worlds/
Second Life“不”人気、7つの理由https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/07/news074.html
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いまさら聞けない「メタバース」 いま仮想空間サービスが注目される“3つの理由”https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2109/06/news023_2.html