昨今、「自動運転」「ライドシェア」など次世代モビリティの開発に注目が集まり、移動の体験をアップデートする、といった考え方が脚光を浴びています。
そんな中、実は我が国でも「空飛ぶクルマ」の研究が進んでいることをご存知でしょうか。
この記事では、「空飛ぶクルマ」の開発を取り巻く現状について解説します。
日本国内における詳しい検討状況、メリットとデメリット、実現が期待される時期、そして国外での取り組み事例もお伝えします。
空飛ぶクルマとは?
「空飛ぶクルマ」とは、現時点ではまだ明確な定義が存在しませんが、「電気駆動」「自動操縦」「垂直離着陸」というポイントを押さえた新たな乗り物を指します。
諸外国では「eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」や「UAM(UrbanAir Mobilty)」などと呼ばれ、新たな乗り物として世界各国で機体開発や飛行実験などの取り組みが進められています。
日本国内では、都市部での送迎サービス(渋滞問題や、駐車場問題の解決)や、過疎地・離島・山間部での移動手段(公共交通の利便性向上、ラストワンマイルの利便性向上)、災害時の救急搬送などの活用を期待し、世界に先駆けた実現を目指して研究が進められている最中です。
2022年1月4日、岸田総理は年頭記者会見の中で「空飛ぶクルマ」に関する政府としての目標に言及しました。2025年の大阪・関西万博開催に合わせて実現させたいと述べ、その具体的な研究は国土交通省や経済産業省が中心となり、官民協議会の開催なども含めて進められています。
2021年10月には、実用化に向けて一歩前進とも言える動きが見られました。国土交通省が、国内の次世代モビリティメーカー「株式会社SkyDrive」から型式証明申請を受理したのです。民間のメーカー側では既に、「空飛ぶクルマ」の機体に関する具体的な設計が進められていて、今後は航空法に則って、安全性や環境性能に関して国による審査が進んでいくことになります。
また、2021年12月には三重県鳥羽市で、「空飛ぶクルマ」の自動運航に用いるナビゲーションシステム(「エアモビリティ株式会社」の製品)の実証実験が行われました。飛行ルートのデータをドローン(※無人機)にアップロードし、安全に目的地まで航行できるかどうかを検証する取り組みです。実験は成功し、今後は気象情報の変化によるリアルタイムでのルート変更、衝突回避や運航管理システムとの連携など「空飛ぶクルマ」の実用化に向け、ナビゲーションシステムの改良を重ねていくとしています。
このように、我が国における「空飛ぶクルマ」開発に向けた動きは、部分的に始まったばかりのフェーズだと言えますが、令和4年度内には約20億円の予算を投じて(※経済産業省による)技術開発事業を進めていくとしています。
空飛ぶクルマとドローンとヘリコプターの違い
前項でイメージ図(ドイツ・Volocopter社の機体写真)を掲げたように、「空飛ぶクルマ」とはドローンを大型化し、より進化させたような乗り物です。
ここでは、既存のドローンやヘリコプターとの相違点を解説します。
(1)空飛ぶクルマとドローンとの違い
ドローンは、人を乗せることができない「無人航空機」です。(※航空法による)
そのため、撮影・測量・農薬散布などの使途を想定しています。
一方、「空飛ぶクルマ」には乗客が搭乗することができ、現在の研究・開発の中では「人の輸送」を想定したものです。
(2)空飛ぶクルマとヘリコプターとの違い
ヘリコプターと「空飛ぶクルマ」のいずれも、人の輸送が出来る点は共通しています。
しかし、「空飛ぶクルマ」は「電気駆動」を想定しているため、
- 部品点数が少ない(=整備費用が安い)
- 騒音が小さい
- 自動飛行との親和性が高い
といった点がポイントです。
さらに、
- 自動航行で、操縦士がいない(=運航費用が安い)
- 垂直離着陸が可能(=離着陸場所の自由度が高い)
という点もヘリコプターとは異なるポイントです。
空飛ぶクルマの実用化に向けた課題
「空飛ぶクルマ」の実用化までの段階で、どのような課題が想定されているのでしょうか?大きく分けると、3つの視点が必要だと言えます。
(1)ビジネスモデルの開発
事業者側が、具体的なビジネスモデルを示す必要があります。
例えば「大都市圏における人の移動」「過疎地・離島・中山間地での人の移動」「貨客混載輸送」「災害・救急対応」「娯楽(遊覧飛行など)」など、地域の交通問題解決につながる具体的なビジネスモデルの企画・立案が求められています。
(2)機体や技術の開発
機体を航行させる仕組み・技術そのものに関して、さらなる研究・開発の伸展が待たれます。
「電動推進(ハイブリッドも含む)技術」「自動運航システム」といった技術面を、安全性・信頼性を担保しながら進めていかなくてはなりません。
(3)制度の整備
前述したとおり、「空飛ぶクルマ」は既存のドローンともヘリコプターとも異なる乗り物です。
そのため行政サイド(国)が、航空法をはじめとする法律や制度を見直し、機体や運航技術など、技術開発に応じた安全性基準・審査方法を策定する取り組みが必要です。
また、「試験飛行拠点の開発」「離着陸場所の提供」といった場面で地方自治体の関わりも求められるでしょう。
ドイツ、シンガポール:「空飛ぶタクシー」の飛行実験
2019年にドイツで、「空飛ぶタクシー」の飛行実験が行われました。
エアモビリティ関連事業を展開する「Volocopter社」が開発した機体が、シュトゥットガルトの都市域内(※ドイツの中でも比較的人口の密集した、大都市に該当する地域)を飛行しました。
機体はバッテリー駆動で、航続距離は約35km、速度は約110km/h、乗客2名そして手荷物を輸送することが可能です。
Volocopter社は同じく2019年に、シンガポールの都市部でも有人試験飛行を成功させ、今後も引き続き「空飛ぶタクシー」の事業展開を目指すとしています。
なお、Volocopter社と、日本の大手航空事業者であるJAL(日本航空)は2020年にエアモビリティ分野に関する業務提携を締結しています。この動向からも、国内で「空飛ぶクルマ」実用化に向けた動きが加速していることが伺えます。
「ゼロエミッション」「公共交通の利便性向上」など複数のメリット
現在、日本国内でも官民双方で研究・開発が進められている「空飛ぶクルマ」。
「排気ガスゼロ」「公共交通の利便性向上」「静音」などさまざまなメリットが期待できます。
早期に実現すれば、日本の新産業として国際競争力強化にも寄与するかもしれません。
しかしその一方で、実用化までに課題が山積していることも、また事実です。
国による制度策定・インフラ整備の取り組みだけではなく、ビジネスモデルや通信システム、テスト飛行エリアや離発着場の開発など、民間企業および地方自治体からのアクションも不可欠だと言えるでしょう。
[参考]
空飛ぶクルマについて|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001400794.pdf
岸田内閣総理大臣年頭記者会見|首相官邸https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0104nentou.html
空飛ぶクルマの機体開発を後押しします|国土交通省https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku02_hh_000174.html
空の移動革命に向けた官民協議会|国土交通省https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk2_000007.html
国産『空飛ぶクルマ』の実用化が前進|国土交通省https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000203.html
次世代空モビリティ|経済産業省https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/airmobility.html
次世代電動航空機に関する技術開発事業|経済産業省https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2022/pr/en/sangi_taka_18.pdf
三重県にて日本初となる「空⾶ぶクルマ」のナビゲーションシステム「AirNavi」の実証実験を実施|PR TIMEShttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000073145.html
無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン|国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001202589.pdf
都市交通に革命をもたらす、空飛ぶタクシーが試験飛行|BUSINESS INSIDER
https://www.businessinsider.jp/post-199051
東京センチュリー、独Volocopterの空飛ぶクルマの日本展開支援!?|自動運転LAB
https://jidounten-lab.com/u_volocopter-investment-japan-tokyo
ボロコプター、2023年にも日本で公開試験飛行へ JALが100機導入も|TRICY
https://www.traicy.com/posts/20211021222803/
JAL、エアモビリティ分野に関する業務提携をVolocopter GmbHと締結|JAL
https://press.jal.co.jp/ja/release/202009/005782.html