用語解説

建築の設計・製図から製造業、アパレルで活用!「CAD」とは?

1980年代に現れたパソコンが、1990年代にインターネットの普及に伴って急速に利用者が増えていくのと時を同じくして、設計・製図を目的としたシステムも企業を中心に導入されていきました。それがCADです。

CADの概念が誕生したのは、1959(昭和34)年にマサチューセッツ工科大学で開かれた「CADプロジェクト」とされています。以来、コンピューターによる機械制御の仕組みや技術の変遷、CADを使用するコンピューターの進化によって、現在の形にまで変化しています。また、今日では建築・建設分野に留まらず、アパレルや科学といった分野でも活用されはじめ、CADの利用方法は多様化しています。

ここでは、CADの基本的な解説から特徴、2D-CADと3D-CADの違いについてご説明します。

CADとは

CAD(Computer-Aided Design)は、正確な設計図面をコンピューターで作成し、設計作業の効率化を図ることで、生産性を高めることを目的としています。紙と鉛筆で製図・設計(Design)する設計者を、コンピューター(Computer)が支援(Aided)する方法やシステム、アプリケーションです。

また、CADは設計対象や利用目的により、以下の表のように区分される場合もあります。

 

略称 名称 分類
CAD Computer Aided Design 一般的なCADまたはCADシステム
CAD Computer Assisted Drafting ドラフティング(製図)CAD
CAD Computer Assisted Drawing ドローイング(描画)CAD
CADD Computer Aided Design and Drafting 設計および製図用CAD
CAID Computer Aided Industrial Design 工業設計用CAD
CAAD Computer Aided Architectural Design 建築設計用CAD

 

CADの種類と適用現場

CADには、さまざまな特徴を有する製品が存在し、利用用途を限定しない汎用(はんよう)CADと、構造設計や設備設計など、作図を効率よく行えるよう特定の業務用途向けに独自の機能を搭載した専用CADの大きく2種類に分けられます。

汎用CAD

汎用CADは特定の業種・分野に偏らない、一般的な製図用のCADです。基本的な作図であれば、機械、電気、電子、建築、土木などの分野に使用可能です。

専用CAD

各種分野に特化した専用機能を持つCADを専用CADと呼びます。専用CADには機械系、建築系、土木系、電子系、電気系などがあります。

機械系CAD

機械系CADは、機械設計用に特化したCADで、機械設計・製図での利用を想定して開発されました。機械図面に用いられる図記号や部品データ、加工用のデータなどを自動生成する機能があるのが特徴です。CAD システムの中では最も大きな比率を占めており、汎用CADソフトの多くは、機械系CADとしての利用を想定しています。

機械系CADは工作機械を利用する業種や航空機、自動車、家電製品の設計業務など、主に製造業で導入されています。

建築系CAD

建築系CADは建築図面の作成を想定して開発されたCADで、CADソフトの中では機械系CADに次いで大きな比率を占めています。建築図面を作成するため、壁や建具などを自動作図する機能や日影計算、建築関係の法規による規制対応機能、設計した図面をもとに、建物の外観や室内を立体的に表示するパース図作成機能などを装備しています。

土木系CAD

土木設計に特化した専用 CAD です。土木用図面の作図の効率化を目的としています。トンネルや道路、ダムなどの建築物に用いられ、測量機器と連動した測量図の作成、道路設計システム、コンクリート構造物(配筋図)システムなどがあります。

電気系CAD

単結線図、配電盤設計図、シーケンス図、屋内配線図、電子回路設計図など、電気設備関係図の設計が可能なCADです。自動処理機能を搭載しているので、設計効率の向上に貢献します。

電子系CAD

電子回路を設計するためのCADです。電子回路を製図する機能の他、作成した図面をもとに電子基板の設計や、電子回路のシミュレーション機能などを装備しています。

その他のCAD

CADは建設・建築業界の他、それぞれの業務内容に特化したCADがリリースされており、以下の業界や分野でも活用されています。

  • アパレル業界:布地や編み物のパターンメイキング、デザイン、型紙設計、裁断など
  • 施設管理部門:施設管理データと連携して実施する施設運営の最適化、GISシステム、地図作成や地図と地理情報の連携、広域ネットワーク化に伴う芯線管理
  • 科学分野:分子モデル作成

CADの特徴

CADには、設計をスムーズに行うための機能が搭載されています。また、CADを利用することで得られるさまざまなメリットがあります。

作業の効率化

ほとんどのCADでは、寸法箇所を指定すると自動的に正しい寸法が表記され、交点、接線・接点、面積などを自動的に計算し、結果を表示できます。また、寸法を入力すると図形が自動的に作図するなど、設計における繰り返し作業や単純作業を自動化する機能が搭載されています。

製図品質の統一化

線の太さや線種の表現、文字の記述など、手書きの製図だと個人差が現れやすいのですが、CADの場合、コンピューターの制御により、製図品質にバラつきがなく、きれいな仕上がりの図面が作成できます。

図面の修正作業の効率化

CADは、図面データの削除、修正、変更を簡単に行えるうえ、きれいな図面をいつでも何度でも得られます。また、予め保存されているもとの図面データを呼び出して、データ内にある図形を活かして別の図面データを作成可能です。最近では、よく使う部分を保存しておいたテンプレートを組み合わせることで、作図の効率化を図れるCADも登場しています。

設計データの応用

CADで描いた図面は、対象物を数値化した電子データとして取り扱われるので、CADのデータを利用して後工程の各種システムと連携できます。例えば、図面の中から部品を拾い出し、部品を手配するための情報を自動作成可能です。また、図面データを加工用システムヘ渡し、加工用システムにおける図形の入力作業を省略できます。

3D-CADと2D-CADの違い

2D-CADは図面の「作図」、3D-CADは建築・建設などの立体的な「設計」と、用途ごとに2D-CADと3D-CADを使い分けます。2D-CADと3D-CADには、以下の特徴があります。

2D-CAD(2次元CAD)

2D-CAD(2次元CAD、two-Dimensional Computer-Aided Drafting(Drawing))は平面上に線・図形・文字データを入力するCADで、手描き製図の手順などをコンピューター上で表現したり再現したりできる技術や方法です。デジタル情報に置き換えた製図情報を集めたり、整理したり、再利用したりできます。またデータはレイヤで分類し、作図対象別に編集・管理可能です。

3D-CAD(3次元CAD)

3D-CAD(3次元CAD、three-Dimensional Computer-Aided Design)は、仮想の3次元の空間上に、立体的な図面を入力するCADで、実物と同じ寸法で、3次元の物体をコンピューターに再現・表現する技術・方法です。

製品や建築物など、物体の形状を正確な把握に役立てるための機能が多く搭載されています。コンピュータの画面上で、自由に対象物を回転させて視点を任意に変えられる他、必要に応じて任意の断面を投影して、2次元の図面に表示も可能です。

その他、2D-CAD と3D-CAD特徴の比較を、以下の表に記しています。

<2D-CAD と3D-CAD の比較(3D-CADの優位性)>

ポイント 2D-CAD 3D-CAD
図面の正確さ 図面の各投影図には相関関係がないため、設計者が線(外形線やかくれ線など)の描画を間違える可能性がある モデルに線や面の情報が全て含まれているため、2次元図面に表しても線の表示に間違いが生じない
部品図と組図の作成の容易さ 組図のデータから部品の線を切り取って部品図を作成する(または、その反対)などの作業が必要となり、その際にも間違いが生じる可能性がある アセンブリ(部品を汲んだもの)モデル内で部品モデルを作成すれば、自動的に部品モデルデータが作成される。基本的にデータはリンクされているので、間違いが生じない
修正時の容易さと正確さ 図面の修正の際には、各投影図に対して個別に行わなくてはならない。また、その際にも描画を誤る可能性もある モデル形状を変更すれば、それに応じて自動的に2次元図面も変更される。モデルさえ正しければ、図面は正しいものとなる
検証時の明確さ 製図を知らない人にとっては、投影図を見ても、その形状を理解することが困難である あらゆる方向からモデル形状を見られるので、2次元図面を見慣れていない人でも形状を理解することが容易である
応力や機構などの検証 基本的に、解析用のソフトウェアを使用して平面的な解析のみ可能 CADソフトウェアのみで、ある程度の機構の検証(干渉や衝突など)が可能である。また、解析結果も立体的に検証可能
加工への移行の容易さ 図面をみながら数値データを入力して加工データを作成できる 3D-CADデータをそのまま使用できる。設計から加工までのデータの流れがシームレス(それぞれの工程での共通データの活用が可能)になる

「3次元CADから学ぶ機械設計入門 初心者のための設計七つ道具」岸 佐年 森北出版 2009年をもとに、弊社作成

CAMとCAEとの違いは?

CADと混同されるツールに「CAM」と「CAE」があります。一見似ていますが、CADは製図、CAMは製造、CAEは解析と、それぞれ目的と活用現場が異なります。

CAM

CAM(Computer Aided Manufacturing)とは、工業製品の製造を支援するための情報システムおよびソフトウェアの一つです。具体的には、製品の加工プログラムを作成するソフトウェアで、CADなどで作成した設計図面などをもとに作成した、工作機械の操作プログラムを工作機械にインプットすることで、実際に工業製品を製造しています。

CAE

CAE(Computer Aided Engineering)とは、工業製品の設計・開発工程を支援するコンピューター・エンジニアリング・システムです。または、そうした工程を支援するソフトウェアやシステム(CAEツール、CAEシステム)を指すこともあります。設計や製造の前段階での検討などといったエンジニアリング、試作・テストをコンピューター上でシミュレーションできます。

ちなみに製造現場では、まずCAEでシミュレーションを行い、CADで製図します。それをもとにプログラミングするのがCAMで、プログラミングデータが工作機械に送られることで製品が造られます。

まとめ

CADは橋や道路、建物などをコンピューターで設計・製図するという当初の目的を越えて、自動車や航空機、家電製品や工業製品の設計・製造、アパレル業界でのパターンメイキングなど、建設・建築業界以外でも専用の機能を搭載したCADの活用が進んでいます。

今後、CAD・CAM・CAEとソフトウェアごとに作成した図面データなどをBIM(Building Information Modeling、コストや仕上げ、プロジェクト管理情報などの属性データを追加した建物の統合データベース)で共有できるようになるなど、さまざまな場面や業界でCADの利用が増えていくでしょう。

<参考図書>
「3次元CAD実践活用法」日本設計工学会、日本設計製図学会 コロナ社 2006年

「CAD/CAM/CAE活用ブック(でか版技能ブックス)ツールエンジニア編集部」大河出版 2006年

「3次元CADから学ぶ機械設計入門 初心者のための設計七つ道具」岸 佐年 森北出版 2009年

「CADが一番わかる(しくみ図解)」大髙 敏男、平野 利幸、野口 卓朗、渋田 雄一 技術評論社 2021年