用語解説

都市の未来の形「スマートシティ」とは?

国連の調査によると、2050年までに都市部人口は25億人増加すると推定されています。都市部に人口が集中する現在の状態が続くと、交通渋滞や公害、治安の悪化、ゴミ、電力・ガス・上下水道といったインフラなどの課題に一つずつ対応していくのでは到底間に合わず、総合的に解決していくことが求められます。

そこで近年、こうした都市への人口集中に伴う多様な問題の解決策として注目を集めているのがスマートシティです。IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、AI(人工知能)、クラウド、ビッグデータなどを活用して、都市計画やインフラ整備など多岐にわたるシステムの管理・運営を総合的に行い、都市全体の最適化を図ることで持続可能な都市を構築するという考え方です。

今回は、スマートシティについて解説していきたいと思います。

スマートシティとは?スーパーシティとの違いは?

スマートシティとは?

スマートシティとは、ITやネットワークを都市機能に適用することで、都市機能そのものをスマート化(最適化)する取り組みで、国や地方自治体と民間企業が協同で進める事業です。都市の運用やサービスの効率性を高め、経済、環境、社会サービスなどを向上させることで、現在および将来の世代のニーズを満たせることを目的としています。

スマートシティは当初、環境に配慮した都市設計、エネルギーをはじめとした「個別分野特化型」が主流でした。しかしここ数年で、IoTや5GなどのIT技術やICTを活用しながら、複数の分野に取り組む「分野横断型」に変化しています。スマートシティが扱う領域は、環境・エネルギー、医療・健康、交通システム、インフラ、セキュリティ、行政サービス、防災・防犯など多岐にわたります。

他にもベンチャーの育成、ITによるものづくり(スマートファクトリー)、地域における豊かな自然と共生した地域づくり(スマートローカル)も、広義にスマートシティと呼ぶことがあります。

ちなみに日本では、スマートシティは「Society5.0」(※)の取り組みの一つとして位置づけられています。

※Society5.0:「狩猟社会(Society1.0)」「農耕社会(Society2.0)」「工業社会(Society3.0)」「情報社会(Society4.0)」に続く、5番目の新しい社会として我が国が目指す未来社会。スマートシティの実現を含めて、AI(人工知能)やビッグデータ解析などの高度な技術を用いて、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指している。

スーパーシティとは

国はスマートシティ構想の他、生活全般にまたがる複数のサービスの最適化を実現する「スーパーシティ」構想も推進しています。2020年には、スーパーシティ構想の制度的枠組みを定めた「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」が成立、その年の9月に関係政省令とともに施行されています。また、10月には「国家戦略特別区域基本方針」が一部変更され、スーパーシティ区域の指定条件を定めました。

住民一人一人が当事者としてスーパーシティ構想に積極的に参画することで、住民が抱く多様なニーズに対応したサービスの創出へと結びつけるだけでなく、2030年頃までに以下の表に挙げる3つの具体像を実現させることを目指しています。

「スーパーシティ」構想の概要
(1)生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供
AIやビッグデータなど先端技術を活用し、以下の領域(少なくとも5領域以上など)で利便性を向上。
移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全
(2)複数分野間でのデータ連携
複数分野の先端的サービス実現のため、「データ連携基盤」を通じて、様々なデータを連携・共有。
(3)大胆な規制改革
サービスを実現するための規制改革を同時・一体的・包括的に推進。

「内閣府国家戦略特区「スーパーシティ」構想について」より引用

 

スマートシティとスーパーシティとの違い

スマートシティは実証特区を設けて、インフラや移動(モビリティ)などの多様な分野で開発・実験を行い、分野ごとに取り組みを徐々に広げていくのに対して、スーパーシティは最初から分野横断的なデータ連携基盤を整備し、生活全般にまたがる取り組みを幅広く進めています。

スマートシティ実現のための課題

スマートシティの実現には、乗り越えるべき壁がたくさんあります。ここで、スマートシティ実現に障壁となる課題をいくつかご紹介します。

サービスの再利用・横展開

スマートシティは、課題や実現したい目的に沿って、自治体や地域ごとに個別最適化されているため、他の地域への流用やノウハウの展開が困難です。そのため、同じ地域内で同じようなサービスが

分野間データ利活用

分野ごとにデータとシステムがそれぞれ独立しているケースでは、分野間または都市間でデータを連携すること、利活用することが困難です。また、システムの拡張性が低いため、継続的にサービスを進化させられないこともネックになっています。

プライバシーへの配慮

収集したさまざまな情報を組み合わせると、よく行くお店や病院、移動手段などの個人の詳細な行動パターンを特定できてしまいます。街のあらゆる場所で個人情報を収集されることに配慮しながら、収集したデータは適切なセキュリティ環境下で管理することを都市部の住民や利用者に説明しなければなりません。

費用

スマートシティを実施しようとしても、システムをゼロから構築しなければならず、コストもかかります。また、参画する企業にとっては、継続的に収益を得られる仕組みを構築していかなければ、国などの補助金が尽きると同時に手を引かなければならない事態に追い込まれてしまうでしょう。

国内外スマートシティ事例

スマートシティはまず海外で取り組みがはじまりました。日本国内でのスマートシティのスタートラインは、2005年の愛知万博で紹介された横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、北九州市の4つの地域での先行事例と言われています。

それでは、国内外のスマートシティの事例を、いくつかご紹介します。

豊洲スマートシティ

豊洲スマートシティは、国土交通省が2019年に発表した「スマートシティ先行モデルプロジェクト」に選ばれている取り組みの一つです。東京都江東区豊洲1~6丁目までの豊洲エリア約246ヘクタールが対象で、清水建設や三井不動産、東京都や江東区、地元の組織などと連携しながら事業を進めています。都市OS(※)をベースに交通、生活・健康、防災・安全、環境、観光の5分野に、以下の4つの先端技術の実装を目指しています。

スマート観光 インバウンド観光客に対する多言語対応音声AIを活用したシームレスな案内(店舗の満空情報、インクルーシブナビ、ARを活用した案内など)
スマートイート 多言語、キャッシュレス決済に対応したフードモビリティショップの展開
スマートモビリティ 豊洲エリア内をシームレスに周遊するパーソナル/オンデマンドモビリティサービスの提供
AI防災 AI活用で、災害情報を収集・分析・整理し、リアルタイム情報を伝達

※都市OS:都市に設置した無数のセンサーなどを通じて、人やモビリティーの移動、設備の稼働状況といったさまざまなデータを集める、IoTプラットフォーム(データ基盤)。

バルセロナ市のスマートシティプログラム

スペイン・バルセロナ市では2000年からクリエイティブ産業やイノベーション創出を目指して、大規模なスマートシティプロジェクトを推進。また2006年から2008年にICINGプロジェクトを実施しています。これは、センサーを用いた都市マネジメントの最初期の事例の一つです。2011 年からは世界最大規模となるスマートシティ国際会議「Smart City Expo World Congress」を開催。2014 年にはEUにおける最もイノベーションを推進する都市「iCapital」に選定されて以降、スマートシティ先進都市として世界に知られています。

バルセロナ市のスマートシティプログラムでは、Wi-Fiを基盤としたスマートサービスを展開。街中に設置したセンサーとネットワークにより、行政サービスの提供、駐車場や交通機関の運営状況の把握、街灯(電力)や散水(水資源)、廃棄物収集管理をしていることが特徴です。また、「センティーロ(Sentilo)」といって、スマートシティプログラムを推進するデーター元管理プラットフォームを開発。センティーロのシステムはオープンソースとして、世界中の地方公共団体などに無償で提供されています。

スマートシティ推進のための国の施策

スマートシティ官民連携プラットフォーム

内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省は、スマートシティの産官学民の連携整備を促すため、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省などを会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を2019年8月に設立。情報交換や自治体と企業のマッチング、個別事業への支援など、会員サポート活動を展開しています。この新しい大きなネットワークの形成によって、関係者の間の風通しを良くし、わが国におけるスマートシティの本格的な実装につなげていきます。

未来技術社会実装事業

未来技術社会実装事業は、内閣府(地方創生推進事務局)が取り組んでいるスマートシティ事業です。地域のSociety5.0の実現に向けて、AIやIoT、自動運転、ドローンなどの未来技術を活用した新しい地方創生を目指しています。地方創生の観点から、革新的で先導性と横展開可能性等に優れた提案について、各種交付金、補助金、制度的・技術的課題等に対する助言などの支援に加え、社会実装に向けた現地支援体制(地域実装協議会)を構築するなど、関係府省庁による総合的な支援を実施しています。

データ利活用型スマートシティ推進事業

データ利活用型スマートシティ推進事業は、総務省(情報流通行政局)が進めている取り組みです。都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化することで、生活の利便性や快適性を向上させる他、人々が安心・安全に暮らせる街づくりを目的としています。

総務省自体は、2012 年頃からICT(情報通信技術)を活用したまちづくりを進めていましたが、2012年からの実証事業で得たノウハウや経験を活かして、2014年度の補正予算(15年度から実施)から補助事業を、2017年度から本格的に推進事業をスタート。複数分野のデータを収集・分析などを行う基盤および推進体制の整備に対して、財政支援を実施しています。

スマートシティモデルプロジェクト(スマートシティ実証調査事業)、日本版MaaS推進・支援事業

スマートシティモデルプロジェクト(スマートシティ実証調査事業)、日本版MaaS推進・支援事業は、いずれも国土交通省(前者は都市局、後者は総合政策局)が手掛けるプロジェクトです。

スマートシティモデルプロジェクト(スマートシティ実証調査事業)では、実証事業に着手する先行モデルプロジェクトを全国の自治体から募集。国土交通省によるモデルプロジェクトの計画策定や実証実験などを実施、プロジェクトの内容によっては交付金(社会資本整備総合交付金)の支給といった支援を行っています。

日本版MaaS推進・支援事業は、MaaS(Mobility as a Service、ICT の活用により交通網をクラウド化し、公私の運営主体にかかわらず、マイカー以外の全ての交通手段を使った移動をサービスとしてとらえ、移動の複雑さを解消する)の全国への普及を図るとともに、MaaSの実証実験やMaaSの普及に必要な基盤づくりを支援しています。

自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業

「自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業」は、経済産業省(製造産業局)が推進するスマートシティ関連事業です。新しい移動サービスの社会実装を通じた移動課題の解決及び地域活性化を目的として、下記(1)~(5)を要素とする新しいモビリティサービスの地域実証を実施しています。
(1)異業種との連携による収益活用・付加価値創出
(2)他の移動との重ね掛けによる効率化
(3)サービスそのもののモビリティ化
(4)需要側の変容を促す仕掛け
(5)モビリティ関連データを取得、交通・都市政策との連携など

まとめ

人口減少による人手不足で、行政やインフラなどさまざまな現場で人員確保が困難な状況になっています。この状況は今後も続くので、都市部に移り住むことで生じる多様な課題を、少ない人数で対応しなければなりません。これまで同様の質の高いサービスを各方面から提供するためには、スマートシティやスーパーシティの考え方、取り組みがますます重視されていくでしょう。

スマートシティの取り組みにおける課題は山積していますが、産官学が密に連携してスマートシティの基盤を構築していくこと、いろいろな技術の進歩に合わせ、柔軟に対応していくことが必要です。

<参考図書>
「Smart City 5.0~地方創生を加速する都市 OS~」 海老原 城一、中村彰二朗 インプレス 2019年
「スマートシティ Society5.0の社会実装」石田東生、柏木孝夫(監修) 時評社 2019年
「まるわかり! 行政のデジタル化 デジタル庁からスマートシティ、スーパーシティまで」 日本経済新聞出版(編集) 2021年