用語解説

ITパスポート試験とは?試験内容や受験のメリットを解説

ITパスポート試験はシステムやネットワークといったITの知識、経営戦略や財務など会社経営に関する知識など、企業でITを利活用するために必要な基礎知識を問う国家試験です。まずはITの知識を幅広く身につけたい、情報処理技術者の各種試験を受ける足がかりにしたいなどの方におすすめです。

本記事では、ITパスポート試験の目的や内容、合格のメリットや試験対策など、ITパスポート試験の基本的な概要を解説していきます。

ITパスポート試験とは?

ITパスポート試験(略称:iパス)とは、ITを利活用する社会人や学生が備えておくべき知識を問うもので、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営する経済産業省所管の国家試験です。
「IT」と頭にありますが、実際にはITに関すること以外に、企業法務や経営戦略マネジメント、コンピュータシステムなど多様な分野から出題されます。試験は全国各地で毎月実施しており、お住まいの地域や勤務先のある地域での受験など、ご自身の都合に合わせて日時や会場を選択できます。

ITは、日々の技術革新と普及により生活や仕事をあらゆる場面で便利にしてきました。今後、単にパソコンを操作できたり、パソコンを使った文書処理ができたりするだけでは企業の戦力になりえないため、ビジネスパーソンはビジネスの基本的な素養として、総合的なITスキルやマインドを身につけることが求められています。例えば業務でITを安全に利用するための知識の習得、職場内で起きている課題の把握と分析、解決のための有効なIT活用法、DX推進へのマインドなどです。

こうした時代のニーズに応えるため、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、情報処理技術者試験の一試験区分として実施されています。

試験の形式と科目

ITパスポート試験は120分でCBT(Computer Based Testing)方式で実施され、受験者は試験会場に用意されたパソコンを使って解答します。事情があってCBT方式での受験が難しい場合、4月と10月の年2回、ペーパー方式によって受験できます。

出題数は100問で、多肢選択式(四肢択一)を採用しています。以下の3つの分野から幅広く出題されます。出題分野及び出題数、出題科目は以下の通りです。

ストラテジ系(経営全般) 32問 財務、法務、経営戦略など
マネジメント系(IT管理) 18問 システム開発、プロジェクトマネジメントなど
テクノロジ系(IT技術) 42問 ネットワーク、セキュリティ、データベースなど

なお、上記3つの分野の出題範囲の詳細は、ホームページでも紹介されています。

参考:ITパスポート試験 出題範囲
https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/about/range.html

合格基準

ITパスポート試験では、総合評価点と3つの分野別評価点がそれぞれ基準点以上に達した場合に合格となります。合格の基準点は総合評価点が1,000点満点のうち600点以上、分野別評価点が1,000点満点のうち300点以上(3つの出題分野ごとに満たす必要がある)となっています。

試験のメリット

試験のメリットとキャリアアップ

ITの基本的な知識が身につく

コンピュータシステムやネットワーク、ソフトウェアやコンピュータのシステム構成要素、セキュリティなどのITの基礎知識が身につきます。社内外での円滑なコミュニケーションに役に立ったり、社内でインターネットを介するさまざまなサービスを利用するときに、機密情報の漏えいやウイルス感染といったリスクがあることを理解できたりするようになります。

ビジネスパーソンにとって必要な知識も得られる

ITパスポート試験では、ITの知識以外にも企業経営に関する多様な知識も問われます。著作権や商標権、知的財産権などの法律の知識、財務諸表や損益分岐点分析といった財務に関する知識はビジネスパーソンにとっては必須です。ITパスポート試験を通してこうした知識を得られるし、企業の法令遵守やITの利活用による業務の課題把握、業務改善に貢献できます。

転職で有利になる場合も

近年では働き方改革や業務効率化などの観点から、営業や企画、人事や総務、経理などの部門単位から会社全体でデジタル化が進み、DXを推進する動きが加速しています。これまでITの知識が求められていたのは、情報システム部門やエンジニアといったIT系の専門職に従事する者のみでしたが、そうした時代の流れとともに、職種を問わず全ての社会人にITの知識やリテラシーが求められるようになってきました。

ITパスポート試験に合格すれば、ITの基礎知識があることを企業にアピールできます。「ITパスポート試験をパスしていること」を採用の際の条件に掲げている企業もあり、そうした企業への転職の際には有利に働きます。

ITパスポートが求められる場面

採用試験時にITパスポート試験に合格していれば加点材料にしたり、非IT系の企業への転職では「ITの知識がある」と判断され、入社後にIT関係の業務に抜擢される可能性もあります。また、仕事でスキルアップを考えているのであれば、基本情報技術者試験やプロジェクトマネージャ試験などの情報処理技術者試験の上位試験を受けるときの足がかりになります。

業界での評価

IT分野の知識を幅広く身につける重要性から、ITパスポート試験は多くの企業や官公庁・自治体で社員のITの知識力向上に活用されています。例えば、ITパスポート試験を受験する社員には教材費と受験料を、合格した社員には奨励金を支給したり、新入社員の教育の一環として導入したりしています。

ITパスポート試験の対策

ITパスポート試験における社会人の合格率は2023年8月時点で54.3%、そのうちIT系で52.8%、非IT系で54.7%となっており、情報処理技術者関連の試験の中でも比較的合格しやすいとされています。しかし出題範囲は多岐にわたるので、しっかりと学習計画を立てて、ITパスポート試験のサイトで公開している過去問題集やCBT疑似体験ソフトウェアを利用したり、参考書や動画サイトを活用したりしながら効率よく学習を進めることで合格が目指せます。

効率的な学習法

ITパスポート試験の受験勉強を進める上で、インプットだけ、アウトプットだけという勉強方法ではなく、インプットが終わったらアウトプットをするというサイクルを繰り返し、徐々に知識を身につけていくことが大切です。「なかなか勉強時間を確保できない」という方は昼休みや移動中といったすきま時間で少しずつ勉強する方法もおすすめです。

学習の計画を立てる

ITパスポート試験を独学で勉強するときは、試験日までのスケジュールを作成し、それに沿って学習を進めていきましょう。まずは試験日を決めて、そこから逆算して短期的・長期的な学習計画を立てていくと、勉強へのモチベーションを維持しやすくなります。

インプット

まずは公式サイトで出題範囲を確認し、インプットを行います。インプットの方法には、この後紹介する参考書やYouTubeの他にスマートフォンアプリ、Udemyなどの動画サイト、ITパスポート試験の解説サイト、ユーキャンの通信講座などがあります。これらの方法を組み合わせて、自分なりのインプット方法を編み出していきましょう。動画サイトや解説サイト、参考書などで学んだ知識はノートに書き留めたり、資料を作成したりするのも有効です。

ITパスポート試験は出題範囲がかなり広いので、完全に網羅することを目指すのではなくよく出題される分類や用語を集中的に学習することが重要です。

アウトプット

インプットをした後は、どの程度理解できたのか、自分の得意分野と苦手分野を把握するためにも過去問題集を解いてしっかりとアウトプットしましょう。なるべくインプットからあまり間を置かずにアウトプットを実施します。公式サイトから問題集をプリントアウトしたり、疑似体験ソフトウェアを活用したりして、CBT形式での試験の出題形式に慣れていきましょう。

ITパスポート試験は、3つの分野で最低限超えなければならない合格ラインがあるので、過去問題を複数解くことで出題傾向を理解し、頻繁に問題に出てくる分野や用語の把握ができるようになります。また、どの分野をどのくらい、どんなスキルフレームワークを学習すればいいかという勉強量の目処がつき、インプットも捗ります。

おすすめの参考書やYouTube

試験の内容や出題範囲をまとめた「シラバス」は、不定期で変更が発生するため、可能な限り最新の内容が反映された参考書やYouTubeをチェックしましょう。ここでは、2023年10月現在で2022年4月から適用された「シラバス6.0」の内容を反映していて、かつ分かりやすい、おすすめの参考書やYouTubeをご紹介します。

令和4-5年度版 ITパスポート試験 対策テキスト&過去問題集

FOM出版 2021年
令和4-5年度版 ITパスポート試験 対策テキスト&過去問題集は、ITパスポート試験をクリアしたい方を対象とした、試験対策用のテキストと過去問題集がセットになっている参考書です。試験で頻出する用語集と解説、予想問題、また購入者特典としてWeb試験などがついています。

令和05年 イメージ&クレバー方式でよくわかる 栢木先生のITパスポート教室


令和05年 イメージ&クレバー方式でよくわかる 栢木先生のITパスポート教室は、参考書と問題集がセットになっている本です。非IT系の人でも理解しやすいようにイラストや図を用いた解説が豊富で、難関とされるプログラミング的思考力を問う問題の解説も強化されています。

ITすきま教室【ITパスポート.基本情報技術者試験.高校情報科】

チャンネル登録者数 8.45万人(2023年10月現在)
https://youtube.com/playlist?list=PLhThj1C8DuL1rPuW4n1dnMRbKbbg2bkHv&si=asuAFBOTrqmREQeE

ITすきま教室は、「すきま時間でさくっと勉強できる」をコンセプトに、コンピューターサイエンス、ITパスポート試験や基本情報技術者試験の過去問題など、解説動画を配信しています。運営されている渡辺さき氏は、『1週間でITパスポートの基礎が学べる本 動画講義付き』の著者で、YouTube NextUp 2020のファイナリストに選抜されています。

ITパスポート KADOKAWA資格の合格チャンネル

チャンネル登録者数 2,330人(2023年10月現在)
https://www.youtube.com/@itpass_maruyama_kadokawa

ITパスポート KADOKAWA資格の合格チャンネルは、ITパスポート試験の解説動画に特化しているチャンネルです。2022年4月から適用された「シラバス6.0」の内容も踏まえて、ストラテジ系とテクノロジ系を中心に、『改訂2版 この1冊で合格! 丸山紀代のITパスポート テキスト&問題集』の著者である丸山紀代氏が解説しています。

サンプル問題と模擬試験の活用

ITパスポート試験のサイトでは、過去の試験問題と試験会場でのCBT画面を体験可能なCBT疑似体験ソフトウェアを公開しています。過去の試験問題は情報処理技術者試験(筆記試験)の問題掲載日(※)に合わせて2009年開催時から今年分までの各100問を、疑似体験用ソフトウェアは上記問題掲載日の1週間程度後にそれぞれ公開されています。疑似体験用ソフトウェアには各問題の正誤や正答数が表示され、試験会場での出題形式に事前に慣れることができます。

参考:

CBT疑似体験ソフトウェア
https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/guidance/trial_examapp.html

ITパスポート試験 過去問題・解答例
https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/openinfo/questions.html

※問題掲載日:4月と10月の試験日(令和3年度からは4月の試験日のみ))

まとめ

ITパスポート試験は、ITを業務に活用するために、ITと企業経営の基本的な知識を有していることを証明する国家試験です。体系的かつ効率よく学べるので、短期間で知識を吸収したい人にとってはおすすめです。ITパスポート試験をパスすると、採用における評価材料とする企業もあり、転職活動の際にアピール材料になります。ITの多様な技術や知識をしっかり学びたい人は、まずはITパスポート試験に挑戦してみることをおすすめします。