いま、世間から大きな注目を集めている「ChatGPT」。人が打ち込んだ文章を即座に理解し、適切な答えを返してくれます。
この「ChatGPT」は、「ジェネレーティブAI」の一種です。「ジェネレーティブAI」は、自然言語処理や画像生成などの技術を駆使して、新たな創造性をもたらしてくれます。
ここ10年ほどのAI技術の進歩により、自然な文章や画像、音楽を生成することができるようになりました。「Chat-GPT」以外にも、画像生成、動画生成、データ分析と予測、自動プログラム生成などが可能になっています。
この記事では「ジェネレーティブAI」の進化と、それによって考えられるビジネスへのインパクトについて分かりやすく解説します。
ジェネレーティブAI(生成AI )とは
「ジェネレーティブAI」とは人工知能の一種で、自らの判断に基づいて、自分で新しい情報やデータを生成することができる技術のことです。
例えば、「ジェネレーティブAI」に「絵を描いて」「文章を書いて」などと命令を与えると、新しい絵や、新しい文章を自動的に生成することができます。
パソコンの「描画ソフト」に、自分が描いたイラストのデータを元にして、新しいイラストを自動で生成する機能があると考えてみてください。それが「ジェネレーティブAI」のイメージです。
この技術は、デザインをはじめとしたクリエイティブな分野だけでなく、医療(病気の診断や治療法の開発など)や、自動運転(カメラやセンサーから収集された情報を元に、車両の周囲の状況を予測する)など、様々な分野で活用されています。
人間によるクリエイティブな活動を拡張・加速するだけではなく、人間が見逃してしまうような斬新な「発明を行う」可能性をも秘めています。
いま、最も注目される技術「GPT-4」
「ジェネレーティブAI」の分野でいま、世の中の人々から最も期待・注目されている技術が、AI研究組織「Open AI」が提供している「GPT-4」です。これは現状(2023年4月8日時点)、「ChatGPT」の有料版「ChatGPT Plus」のサブスクリプション契約(月額20ドル)によって利用できます。
「Open AI」は、ここ10年ほどで大規模言語モデル「GPT」「GPT-2」「GPT-3」の研究・開発を積み重ねてきました。
「GPT-4」は、その研究の成果を活かし、より多くのデータや計算を活用して、ますます洗練させた精度の高いモデルです。曲の作成、脚本の作成、ユーザーの執筆スタイルの学習など、高度な執筆タスクを遂行することができます。25,000語を超えるテキストを処理できるため、長文コンテンツの作成や、ドキュメントの検索・分析などの活用法も可能です。
また、チャットを介した自然言語による命令の入力だけでなく、画像も入力として受け入れることが可能です。画像データに関するキャプション生成や、分類・分析を実施できます。
高度な予測・分析や発見は、なぜ可能なのか?
なぜ「ジェネレ−ティブAI」は、高度な予測・分析や発見が可能なのでしょうか?
その背景には、「GAN(Generative Adversarial Networks)」と「VAE(Variational Autoencoder)」という2つの重要な技術が存在します。
GAN(Generative Adversarial Networks)
「GAN(Generative Adversarial Networks)」とは、ジェネレーティブAIの代表的な技術です。この技術を用いることで、画像、音声、自然言語などのデータの生成が可能になります。
GANの背景では、2つのアルゴリズム(膨大なデータを処理するために、人間の脳の働きを模した数学的なモデル)が動いています。
その2つとは
- Generator(ジェネレーター)
- Discriminator(ディスクリミネーター)
です。
「Generator(ジェネレーター)」は、ランダムなノイズから新しい画像や音楽、文章などを生み出す役割を担っています。
一方、「Discriminator(ディスクリミネーター)」は、Generatorが生成したデータが偽物かどうかを見破る役割を担っています。
Generatorは、Discriminatorに騙されないように、より本物に近いデータを生成しようと努力します。一方、Discriminatorは、Generatorが作り出すデータを見破るために、より正確に判別するように学習します。
このように、GeneratorとDiscriminatorが互いに競い合うことで、より高品質なデータ生成を可能にしているのです。
VAE(Variational Autoencoder)
「VAE(Variational Autoencoder)」は、画像や音声などのデータを圧縮したり、生成したりすることができる人工知能の一種です。
VAEの背景には、
- Encoder(エンコーダー)
- Decoder(デコーダー)
という2つのネットワークがあります。
「Encoder(エンコーダー)」は、データを圧縮する役割を担っています。例えば、手書き数字の画像を入力すると、Encoderはその画像からコードを生成します。
「Decoder(デコーダー)」は、「Encoder(エンコーダー)」が生成したコードを元に、オリジナルのデータを再現する役割を持っています。つまり、圧縮されたデータを元に、元の画像を生成することができます。
VAEが学習を積み重ねていくことで、手書き数字の画像を異なる角度から生成したり、音声変換をしたりできます。
例えていうならば、折り紙を折る遊びで、与えられた折り紙から特徴的な形状を抽出して、それを元に新しい折り紙を作り出す、といったイメージです。
ジェネレーティブAIの歴史と進化
「ジェネレーティブAI」の歴史は比較的新しい分野です。ここ10年ほどで、現在の技術の発展につながるいくつかの重要な出来事がありました。
2014年 | ・GAN(Generative Adversarial Networks)発表。
…ジェネレーティブAIの分野に大きな進展をもたらす。 |
2015年 | ・文章生成技術発表。
…ニュース記事や小説の生成など、様々な応用が考えられるように。 |
2016年 | ・Googleが音声合成技術を発表。
…自然な音声の生成が可能に。 |
2017年 | ・OpenAIが「GPT」を発表。
…ジェネレーティブAIの進化を促す。 |
2018年 | ・「StyleGAN」発表。
…画像生成が可能に。 |
2019年 | ・「StyleGAN2」発表。
…より高解像度かつリアルな画像生成が可能に。 ・「GPT-2」発表。 …大量の文章データを用いて自然言語処理をすることで、高品質な文章生成ができることが示された。 |
2020年 | ・「DALL-E」発表。
…テキストの説明に基づいて、様々な物体を生成することができるように。 ・「CLIP」発表。 …画像や文章を分析するための多目的AIモデルとして、大きな注目を集めた。 |
2021年 | ・「GPT-3」発表。
…さらに高い文章生成能力が示された。 ・「BigGAN」発表。 …より高解像度で複雑な画像生成が可能に。 |
2022年 | ・「ChatGPT」公開
…小説やプログラムなどを生成することができるようになった。 ・「DALLE-2」発表。 …驚くべき高精細の画像を出力できるようになった。 ・ジェネレーティブAIの採用率や投資額が増加 …マーケティングや製品開発などの分野で収益効果・コスト削減効果が見られるようになった。 |
ジェネレーティブAIの応用分野
ジェネレーティブAIの応用分野は多岐にわたっています。以下に、いくつか例を挙げます。
コンテンツ生成(文章、画像、音楽など)
ジェネレーティブAIは文章、画像、音楽などのコンテンツ生成に活用できます。
例えば画像生成技術を使うことで、デザインの自動生成やファッションデザインの補助、また画像の修復や増幅が可能になります。
動画の生成ができるアプリケーションもあります。
会話型AI(チャットボットや音声アシスタント)
ジェネレーティブAIを応用した会話型AIの例として、チャットボットや音声アシスタントがあります。
自然言語処理技術を使って、ユーザーの言葉に応じて返答を生成することができます。
データ分析と予測
ジェネレーティブAIを応用したデータ分析は、様々な業界で利用されています。
例えば、統計モデルの欠点を補完するために、機械学習を使用して、データから予測モデルを構築することができます。
創造的な問題解決
ジェネレーティブAIを応用した創造的な問題解決の一例として、自動プログラムの生成や、新しいアート作品の生成といったことが考えられ、それぞれを目的としたアプリケーションが既に公開されています。
そのほか、ジェネレーティブAIは医療、金融、輸送などの分野でも応用されており、その活用範囲はますます拡大していくと考えられます。
ジェネレーティブAIの課題と限界
ジェネレーティブAIは非常に高度な技術であり、多くの利点がある一方で、複数の課題、そして限界もあります。
倫理的な問題(データのプライバシー、フェイクニュース)
ジェネレーティブAIの使用により、個人のプライバシーやセキュリティが脅かされる可能性があります。
ジェネレーティブAIを使って何か新しいアウトプットを生み出すためには、大量のデータの読み込みが必要です。
例えば、業務でデータ分析をしようとして、個人情報を含むデータをChatGPTなどに読み込ませてしまうケースが出てくるかもしれません。しかしこの場合、個人情報の利用に関して提供者(例:企業にとっての顧客など)から適切に許可が得られていない場合、個人情報の収集・使用の不正行為に該当する懸念があります。
よって、このような懸念に対処するためには、データの適切な管理や、プライバシーの問題に関するガイドラインの策定が必要です。
そして、現在のジェネレーティブAIは、安定性や品質の問題を抱えています。中には、誤った情報や、偏った情報を生成するケースもあります。その情報の真偽を検証すること無く、企業がそのまま業務やサービスの中で顧客や取引先に提供した場合、信頼や品質の問題を引き起こす懸念もあります。
コンテンツ生成(記事や画像、動画生成)においては、フェイクニュースや偽情報を生成する懸念もあり、それが社会的混乱を引き起こしてしまう可能性もあります。
コンピュータ資源と環境への影響
ジェネレーティブAIは、膨大なコンピュータ資源を必要とします。
大量のデータ学習や高度なモデルのトレーニングには、多大な電力が必要で、それが環境に与える影響も問題視されています。
これらの問題を解決するために、ジェネレーティブAIの研究者や開発者は、倫理的な利用方法や、より正確で品質の高いモデルの開発、そして省エネルギーや環境に配慮した技術の開発に注力しています。
今後のジェネレーティブAIの展望
ジェネレーティブAIは、今後ますます進化し、ビジネスや社会に大きなインパクトを与える可能性があります。
技術革新による進化の可能性
ジェネレーティブAIの技術は急速に進化しており、今後も新しい技術やアルゴリズムの開発が期待されます。
例えば、より高速で正確なモデルの開発や、より大きなデータセットの利用、より高度な自己学習機能の実現などです。
新たなビジネスチャンス
ジェネレーティブAIの技術は、今後、ビジネスの現場に多大な可能性をもたらしていくことが想定されます。
例えば、マーケティングや広告業界におけるパーソナライズなコンテンツ(顧客の趣味嗜好に合ったコンテンツ)の生成や、アート・クリエイティブ分野での新しい表現の可能性の開拓などです。
そして、医療や環境分野(エネルギー管理や環境モニタリング、気象予測など)での応用も期待されています。
社会への影響
ジェネレーティブAIの技術が発展すれば、社会にも大きな影響を与えると想定されます。
例えば、医療や環境分野での進歩、教育や文化分野での変革、新しい産業の創出などです。
しかしその一方で、倫理的な問題・安全性の問題も引き続き議論が必要だと言えます。
ジェネレーティブAIと向き合う中で、考えるべきポイント2点
この記事では、「ジェネレーティブAI」がこれから、日々のビジネスの現場や社会全体に、大きなインパクトをもたらすことが想定される、と述べてきました。
近い未来への期待が膨らむ一方で、現状では、倫理・プライバシーの問題をはじめ、乗り越えるべき課題もまだまだ大きいと言えます。
いま、ビジネスパーソンがジェネレーティブAIと向き合う中で考えるべきは、
- 倫理・プライバシーの問題にどう対処するか?
- それぞれのビジネスの現場にとって最適な、「ヒト」と「AI」の役割分担とは?
といったポイントではないでしょうか。
今後、さらなる技術革新による進化の可能性があり、より高品質なジェネレーティブAIの開発が期待されます。それによって新たなビジネスチャンスの創出、仕事を取り巻く環境の変化や、業務の自動化なども考えられるでしょう。
「ジェネレーティブAI」の動向をますます注視していく必要がありそうです。