業界動向

Web3.0と生成AIが変える社会と経済:ビジネスチャンスを探る

近年、Web3.0や生成AIといった技術が各分野で注目を浴びています。この新しい時代において「ビジネスの創造」にどのような影響をもたらすのか、またこれらの技術がどうビジネスに影響を及ぼすのか、林雅之氏が語ります。

林 雅之(はやし まさゆき)氏
国際大学GLOCOM 客員研究員
国際大学GLOCOM 客員研究員。NTTコミュニケーションズに勤務し、政府案件の担当などを経て、マーケティングやエバンジェリスト、未来のテクノロジー調査などを担当。埼玉工業大学 非常勤講師。複数の企業のアドバイザーを担当。ブログを毎日更新16年(5,800超)。著者に『イラスト図解式 この一冊で全部わかるクラウドの基本 第2版 』『オープンデータ超入門 』『スマートマシン 機械が考える時代』などがある。

Web3.0と社会や経済へのインパクト

Web2.0とWeb3.0の違い

Web3.0とは、分散型のインターネットで、ブロックチェーンの技術を活用した非中央集権型のモデルです。

まずWeb2.0とWeb3.0のビジネスの違いをご紹介をします。
左側がWeb2.0の世界です。アプリケーションがGAFAM(Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)などのサービス事業者が提供するプラットフォーム上で動いており、少数のプラットフォーム事業者による寡占構造で中央集権型になっています。サービスの継続が収益と密接に関連しているので、儲からないモデルであれば即サービスがストップしてしまうというのがWeb2.0のビジネスモデルです。

真ん中はWeb3.0のモデルです。アプリケーションはブロックチェーン技術の中で稼働し、スマートコントラクト上で動きます。不特定多数が支える分散型のモデルで、永続的に続くシステムです。Web3.0でポイントとなるのがブロックチェーンです。取引内容を記載するデータを分散して保存するデータベースに加えて、スマートコントラクトとブロックチェーン技術を使い、自動で契約が履行される仕組みを活用しながら、アプリケーションやDapps(分散型アプリケーション)が動いています。

右側にあるWeb3の構成要素を見てみます。新しい金融としてDeFi(分散型金融)と、新しい資産取引としてNFT(非代替性トークン)という唯一無二の価値があるデータがあります。そして新しい組織形態としてのDAO(分散型自立組織)は中央管理者がいなくても参加者同士で管理する組織です。

DAO組織の特徴


DAOについてもう少し詳しくご紹介します。
従来の会社組織は主にトップダウンの形態でしたが、DAOは分散型自律組織です。中央管理者がおらず参加者同士で管理され、誰でも参加することができ、投票で全てが決まります。誰でもソースを閲覧できて透明性が高く、報酬はブロックチェーンのトークンで配布されます。DAOの運営ルールはスマートコントラクトによってコード化されている投票券(ガバナンストークン)を持った参加者によって意思決定されます。

Web3.0が社会に与えるインパクト

Web3.0による社会的インパクトをいくつかご紹介します。
1つめは個人のエンパワーメントです。中央管理者がいないため、個人の力が生き多様で自由な働き方ができるという点で、個人のエンパワーメントが実現できる、というのがポイントです。

2つめは文化経済領域の産業振興です。特に日本はアニメやゲーム、スポーツ、アートなどが経済価値を生むことが期待されています。また、クリエイターの収益の多元化や、ファンマーケティングも期待されています。ほかにも、いろいろと活動をしながら収益を得るようなビジネスモデルが出てくることも期待されています。

3つめは、個人向けの金融商品などの多様化による投資経済の活性化です。いろいろなものがトークン化、デジタル化して販売提供されるのが大きなポイントで、個人向けの金融商品などが金融商品化、トークン化されて多様化し、投資経済の活性化に繋がる可能性があるとして期待値が上がってきています。

4つめは社会課題解決型のモデルです。特に地方創生の領域で、自治体や非営利団体の新たな資金調達や、コミュニティマネジメントの手法として注目されています。例えば新潟県の山古志村などの先進的な動きが、ほかの自治体にも広がってきています。社会課題解決型の地方創生に貢献できる可能性があることから、今後地方創生にWeb3のテクノロジーが使われていくことが期待されています。

5つめは組織の在り方の多様化、高度化です。DAO型組織は組織のビジョンに共感して、個人が地域の枠を超えて集まってきます。例えば地方創生の場合は、バーチャル市民やバーチャル村民となります。そして貢献の度合いに応じた報酬を受け取るという契約を結ぶことができます。そのようにいろいろな広がりが出ていくという点で、多様な職能を持つ主体的なプロジェクト参加を増やし、プロジェクトそのものの成長を促すようにできる可能性があります。

Web3.0による日本の経済のアップデート


経済に与える影響はどのようなものがあるのでしょうか。

まず、グローバルに稼げる「価値創造経済」への転換が期待されています。この転換により、次々と海外展開したり、始めからグローバルに市場を狙ったスタートアップ企業や新規事業が展開できたりするメリットがあります。。

そして、誰もが価値創造に貢献し、一部の組織に依存せずに自分自身がプロジェクトを推進することによってインセンティブを受け取る、という流れを組むことで価値創造が活性化され、国民全体がボトムアップされて豊かになることも期待されています。

また、日本は元々いろいろなコンテンツを持っているので、クリエイターが正しい報酬を得られるようになることで、クリエイト産業大国としての日本復活にもつながることも期待されています。

そして、産業活動の最適化と強靭化も期待されています。ブロックチェーンやスマートコントラクトの契約形態を使いながら、より早く安定してサービスを提供することや、サプライチェーンの透明化による効率性の強靭性の同時実現が期待されます。

Web3.0によってスマートコントラクトなどが展開されることにより、企業や業種をまたぐデータ連携が容易になり、サプライチェーンが進んでいく可能性があります。そしてそれがサプライチェーンの透明化につながるとも考えられます。

また賛否両論ありますが、サイバー攻撃に強いという点で、データが自由に流通する経済の実現に繋がることも期待されています。

生成AIが及ぼす社会や経済へのインパクト

続いて、生成AIやジェネレーティブAIの社会や経済インパクトについてご紹介します。


まずChatGPTを生んだ4つのブレイクスルーについてです。
2009年頃にビッグデータというキーワードが注目されました。そしてそれに伴い、ハードウェアの処理能力が飛躍的にアップし、GPUが本格的に展開されました。2017年にはトランスフォーマーがどんどん出てきて、大量データを使って精度を向上していく流れになりました。そして2020年に入ってから、ステーブル・ディフュージョンに代表されるような画像生成AIが出てきて、誰でもクリエイターになれるようになりました。そうした動きによって生成AIが注目を浴びるようになってきたという流れがあります。

国内のAI市場規模の予想

少し国内のマーケットに目を向けてみると、2023年の国内AI市場が4,930億円なのに対して、2027年には1兆1,000億円を超える市場になると予想されています。

特に、ChatGPTに代表されるような大規模言語モデル(LLM)を活用した生成AIがどんどん投入されていくことで、市場が大きく変化し、これから伸びていくことが期待されています。

生成AIの活用状況と見込み

続いて生成AI活用の状況を、どんな活用があると見込まれているかを含めてご紹介します。


私自身も活用していますが、コンテンツ生成、そして要約サービスですね。私は海外の文献を日本語で要約してもらうのによく使っています。そしてチャットボット的な活用や、メッセージアプリにコンサルです。自社向けの活用では、自治体や企業でも社内の活用でかなり事例が出てきていると思います。

生成AIを活用した企業価値創造のユースケース

生成AIを活用した企業価値創造のユースケースを紹介します。

アイデアの創出やプロダクト開発では、ChatGPTを活用するとこれまでと少し違った視点で情報を提供してくれます。アイデアソースやプロダクト開発の一部を担ってもらうといった期待値もあります。ビジネスオペレーションでは、業務プロセスの一部を生成AIでしたり、企業戦略を立てるときの参考情報として活用することができると思います。そしてカスタマーマーケティングでは、特にCX向上でこの生成AIの活力の活用分野が広がっていくと考えています。また、エンタープライズテクノロジーでは、いろいろなプラットフォームと連携させることによって、プラットフォームビジネスの可能性の広がりが期待できると思います。人的資本ではスキル向上や人材獲得、ほかにもリスクマネジメントや規制、法律の部分でもいろいろな活用シーンがあると考えられます。

人間と生成AIが協力していくには


人間が得意なことと、生成AIが得意なことそれぞれあります。生成AIは特にマシンの領域が得意で、生成AIならではのメリットがいろいろあります。そういった中で人間ならではの能力が注目されてきていると思います。

これからAIと協働するにあたってのアプローチ手法を4つご紹介します。

まず統率アプローチです。単純作業をAIに置き換えて自分自身はマネージャーとして統合的な判断を行うという手法です。

次にコアプローチです。自分の仕事の中でAIで置き換え可能なタスクを捨てて、コアとなる要素に集中する手法です。つまり人間しかできないところに集中する、というものです。

次に介入アプローチです。大半の仕事がAIによって自動化されていく中で、人によるチェックや最終判断などで行うプロセスで自分の価値を発揮する手法です。例えばコールセンターの通常業務をチャットボットに任せて、対応できない部分や人間が介入しなければならない部分は人間が対応をします。

最後は設計アプローチです。AIが活用される場面や適用できるデータ領域を見定めて、自分自身がAIやロボットの開発、導入を支援する手法です。実行する立場として、生成AIを活用したソリューションモデルの開発などをします。このような設計、開発は仕事として増えていくのではないかと考えています。

Web3.0&AIによるビジネスを創るためのエコシステム

Web3.0による経済と産業

続いて、Web3.0&AIによるビジネスを創るためのエコシステムについてご紹介します。

Web3.0エコシステムによってトークン経済圏が生まれると思います。そこでポイントとなるのが、ユーザーがプラットフォームの所有権を持ってその価値を共有し、ユーザー自身はトークンを保有してプラットフォームのガバナンス参加や利益獲得が可能になるということです。


そしてトークン経済圏は法定通貨経済ともつながることが期待されています。今までは法定通貨経済が一般的なお金の流れでしたが、Web3.0の推進によってトークン経済圏が構築されると、それぞれの経済圏で行き来するという流れになります。それにより、トークン経済圏が大きく成長していくということも期待されています。

こちらはWeb3.0のエコシステムと産業構造です。

Web3.0ビジネスのプラットフォームレイヤーの領域として、レイヤー1にブロックチェーン、それを保管するレイヤー2があり、Dapps(アプリケーション)、ウォレット、交換所があります。

それに合わさっていろいろなプレイヤーがでてきており、例えばレイヤーを支えるマイナーや、ブロックチェーンのレイヤー1の事業者、それらを作るエンジニアコミュニティであったり、アカデミアとの連携などがあります。

あとは、いくつかの事業者DAOがあり、VCやベンチャー投資を受けるところを含めてビジネスの収益の獲得を狙い、社会課題の解決につなげるという動きもあります。また、一部規制当局や国際会議全体も含め、それぞれがwin-winの関係を築いていくことでエコシステムを形成していくこととなります。

まだそこは発展途上の部分ですが、このようなエコシステムを形成しないとWeb3.0のビジネスは盛り上がっていかないと思います。


そういった中でWeb3.0で想定されるユースケースのイメージがこちらです。この資料は必ずしもWeb3.0だけではないのですが、類似しているところがあるので取り上げさせていただきました。

まだまだできないところがあるので、将来的なイメージとしてこういった活用ができるのではないかと考えられます。

とはいえWeb3にはいろんな課題があるので、政府も議論を進めているところです。


いろいろありますが、特に法人税制です。これを含めたハードルを解決しないと、Web3.0はいろいろなルールに縛られてできない、本格的には普及していかないのではないかと考えています。

生成AIの進化に伴う市場と環境の変化

生成AIの進展によってさまざまな市場と環境の変化が起きようとしています。

まずはテクノロジー企業の競争激化です。いろいろなところがサービスを出し、エコシステムを形成しようとする動きがあり、ビッグテック企業をはじめとしたテクノロジー企業の競争が激化しています。またそれに伴って新規事業の事業者が参入していることからさらに競争は激化しています。

そして消費者の役割の変化です。単なる消費者から、さまざまな生成AIを使ってコンテンツを生み出せる立場に変容してきています。

それに伴ってこの労働市場も大きく変化して、一部労働を置き換えていこうという動きもあります。労働市場が大きく影響を受け、リスキリングや人材育成、人材の流動も生まれてくると考えられます。

そういった中で教育や研究機関の役割も重要になり、また規制や後押しする仕組みも必要になります。AIならではの公平性とか透明性、倫理性などの議論があるのですが、環境整備が求められるという点でも、いろいろな環境が変化していくと思います。


このような環境の中でさまざまな勢力争いが出てきています。

MicrosoftがOpenAIに100億ドル出資することでエンタープライズ領域でもかなり力を得ていろいろなサービスを展開してきています。詳細は省略させていただきますが、これにより大きくマーケットを始動していこうというような動きが出ています。

先を越されていたイメージがあるGoogleも、それを追いかけるようにBardを始めとしたサービスを出してきています。また、DeepMindも子会社化するなどもしています。

そして今後注目されるのがAWSの動きです。AmazonのWebサービスの中で、直接サービスを提供するというよりもエコシステムを重視している動きになっていると思います。

他の動きとしては、Appleは静観、SalesforceはEinsteinGPTをはじめとしたサービスを出しています。日本勢としては、独自のLLMをLINEやABEJA、サイバーエージェント、rinnaなどが提供しています。また、今後展開すると発表しているのがNECや、富岳を活用した東工大、富士通、そしてSoftbankやNTTなどの通信系キャリアです。

生成AIの分野には海外勢が先に抜け出しましたが、日本勢も追いかけようという動き、加えて新規参入事業者もいろいろと声を出しているという状況になっていると思います。

Web3.0時代のエコシステム形成

このエコシステムを形成するステークホルダーについて少しご紹介します。

これからエコシステムを提携するためには、さまざまなステークホルダーの役割が重要です。表にある、AIコンシューマーやプロバイダー、オーディターといったいろいろな役割がwin-winな関係を結び、それぞれが収益を獲得できるようなモデルを作っていくことが求められると思います。OpenAIと事業者だけが儲かるだけでなく、その周辺のステークホルダーもしっかり回ることでビジネスとして大きくなっていくということになると考えています。

AIエコシステムの展開についてです。まずは左側のプロバイダーとコンシューマーに途中でコミュニティーが入ってきたり、インテグレーター、ブローカーが入ってきて、マーケットとして盛り上がっていきます。そして信頼性や安全性が心配されるということでオーディタ―が出てきて、最終的にAIネットワークで繋がる社会が進展していくような流れになると思います。

そういった中では、生成AIによるデータドリブンのエコシステムが重要です。ポイントは業界特化型のデータをどんどん入れ込んで、データプロバイダーの動きでデータをどんどん出していくことです。

データのインテグレーターによってデータを集約、統合して、データブローカーがプラットフォーム化し、それを支えるサービスイネーブラーというところがあったり、それを開発するディベロッパー、サービサー、それをインテグレーションしながら大学とかも連携したりして、それをファイナルコンシューマーに届けていくようなモデルが注目されていくと思います。

Web3.0と生成AIの組み合わせでビジネスを創る

Web3.0は分散化や透明性、スマートコントラクトの流れがあったり、そういった中での個人のエンパワーメント、文化領域の経済産業振興が出てきてトークン経済が生まれていく。そして社会課題解決や、産業活動の最適化、強靭化に繋がっていくといった動きを紹介させていただきました。

そして生成AIは、コンテンツ生成をしたり、意思決定のサポートをしたりしてビジネスオペレーション効率化をしていく。またアイデア創出やプロダクト開発につながる人的資本活動につながっていく。そのような流れでマーケティングやリスクマネジメントができるという動きがありました。

こういった新しいテクノロジーとエコシステムを組み合わせることで、これから新しいビジネスを作っていくことが重要になるでしょう。