インタビュー

「コミュニティ活動はビジネスパーソンのセーフティネット」複数のファンコミュニティ主宰・木檜氏インタビュー

約2年にわたるコロナ禍を経て、街には人流が戻りつつあり、オフィス回帰の動きも見られる。人とのコミュニケーションや日常業務において非対面、リモートワークが強く求められる時期を実際に経験してみて、やはりフェイス・トゥ・フェイスが重要だと改めて痛感している人も多いのではないだろうか。

そんな人には、コミュニティ活動への参加がおすすめだ。共通の興味関心を介して職場とは別のつながりを築く、いわば社会人の「部活動」のような取り組みだ。

コミュニティ活動とは、ビジネスパーソンにとってセーフティネットにもなり得る。新たな人間関係を築くことができ、コミュニケーション能力も向上するなど、良いことづくめだ。

それはビジネスコミュニティへの参加に限らず、非ビジネス目的のファンコミュニティについても言える。

そこでこの記事では、ファンコミュニティとはどんな人が、どんな思いで運営しているのか、個人でファンコミュニティを15年以上主宰する木檜(こぐれ) 和明 氏に聞いた。

取材した人

木檜 和明 氏
プログラマ、インフラエンジニア。2004年から非ビジネス目的のコミュニティ活動を主宰。これまでに「地域コミュニティ」「朝活コミュニテイ」「Arduinoファン」「商業誌執筆者の会」「ゲストハウスファン」という5つのコミュニティを運営し、うち3つは現在も継続中。

自ら動けば、人も情報も集まってくる

木檜氏は、2004年から非ビジネス目的のコミュニテイ活動を主宰している。まずは、その活動を始めた経緯を聞いた。

「これまでに立ち上げたコミュニテイは合計5つです。今は3つ運営していて、今年に入ってから始めたものもあります。例えば電子工作のコミュニティ(Arduinoファン)は2017年から約5年弱活動していて、一番古いですね。

私がコミュニティを始めるときは、いつも同じパターンです。何か興味が沸いたことがあるとき、本やネットで調べる人が多いと思うのですが、私はそれだと頭に入ってこない。詳しい人に聞いたほうが早いと考えるんです。だけど、何かきっかけや場がないと聞きにくいので、まず『箱』を作ってしまう。つまり、それがコミュニティです。『こんなコミュニティ始めました』と宣言して、興味のある人に集まってもらい、ずっとオンライン・オフライン併用でコミュニティ活動を展開しています」

2004〜2007年に活動していた「地域コミュニティ」ではmixiを活用していたという。

「当時はSNSという仕組み時代がまだ珍しく、使ってみたくてしょうがなかった。そこでコミュニティ機能を使って『箱』を立ち上げ、参加者が飽きないようお題を投げかける形でコミュニティ運営を始めたんです。

そのネタが尽きるのが嫌だったので、並行して一人で地域メディア運営にも取り組み始めました。当時は千葉に住んでいたのですが、今で言う地域おこしのようなノリで『地元に新しいお店がオープン!』といった情報を発信し続けていました。

あとは、仲の良い友達で劇団員が何人かいて、地元でイベントをやりたい人、スペースを貸してくれる人とのつながりもでき、演劇を招致して上演などもしました。

しかし当時、このような取り組み自体がまだ珍しく、周りからはどこか訝しげに見られていました。でも3年ぐらい活動を続けましたよ。それが、今のコミュニティ活動の原点です。

自分が知りたいことを知るためのコミュニティを作る。要は、人も情報も、自ら動いた人のところに全部集まる、ということを実感したんです」

コロナ禍では、どのようにコミュニティ活動を続けていたのだろうか?

「まず、オンラインでの活動はコロナ禍でも変わらず継続できていました。メンバーがオンラインで投稿して、情報発信をするスタイルです。

オフラインに関しては、コロナ禍以前はリアルイベントを月1回、10〜20人程度の参加者を集め、スペースを借りて開催していました。しかし、コロナ禍以降は一旦中断。でも、今年の春頃から少しずつ再開しています。屋外で、3〜4人の少人数で、遠足のようなノリでどこかへ遊びに行くんです。電子工作コミュニティなら、私自身が興味を持てて、なおかつコミュニティのテーマに関係がありそうな場所を選びます。そして、参加者を募るという形式です」

ビジネスコミュニティを意識しない理由

コミュニティ活動には、「エンジニア同士のコミュニティ」「PM同士のコミュニティ」などビジネス上の情報交換を目的としたものも多い。しかしそんな中、木檜氏は「ビジネスコミュニティはまったく意識していない」と強調する。特定のテーマに興味のある人が少人数で集まり、そのテーマについてコミュニケーションを取りながら共に活動するスタンスを貫いているのだ。

「いわゆるファンコミュニティに近い活動です。みんなで何か作り上げていこう、という気負ったものではなく、敷居が低くフラッと気軽に来れる場を目指しています。

私自身がいろいろなコミュニティに所属しているので、あちこちで触れ回ってフェイス・トゥ・フェイスで参加者を募るんですよ。地方のイベントにも自ら出向いて『東京でこんな活動やってるよ』と言うと、まず『東京』という点に興味を持ってもらえて仲良くなり、クチコミで周辺に広がっていくんです。全国に、リアルなつながりの島がポツポツある状態です。あとは、ネット上でコミュニティを見つけた人も入ってくれますね。今では、メンバー数が4000名を越えました」

コミュニティ規模が大きくなったことで「運営体制を変えよう」「さらにコミュニティを拡大しよう」といった、スタンスの見直しを図ることはないのだろうか?

「コミュニティをさらに大きくしたい、という考えは全然ないんですよ。『大きなコミュニティだからこんな姿でなければ』というのも無く、自分が純粋に面白いと思ったことを気ままに発信していくスタンスは少人数の頃から変えていません。運営体制も当初の姿のままです。コミュニティメンバーには幅広い年代の人がいますが、とにかくゆるくフラットなつながりです。運営しているどのコミュニティも、同じノリです。今後も、そのスタンスを貫くと思います。

コミュニティを始めるときは、同じテーマで既にやってる人がいないか、まず調べます。もし既にあるなら、自分がそこへ入ればいいんです。でも、ありそうでない場合は『自分がやるべきだ!』とすぐにスタートします。誰か誘うときに、ランディングページがないと誘いにくいから、最低限そこだけは自分で作ります。

コミュニティ立ち上げでよくあるのは、まず同志を集めて、何をやるべきかしっかり練って、時間をかけてスタートというのが多いと思います。でも私は違っていて、純粋に自分ひとりの思いつきでパッと始めてしまいます。そこが他のコミュニティとは違うと思います」

とにかくスピーディーに動くことが木檜氏の強みだ。その一方で、コミュニティの長期継続や、参加者と心地よい距離感を保つルール、作法についてはどのように意識しているのだろうか。

「継続に関しては、『自分自身が飽きたら終了』と決めています。自分自身の純粋な興味に従って立ち上げたコミュニテイで、そこに集まる情報純度が要だと考えているからです。

あと『お金で解決』は基本的にしない。人間関係ですべて解決します。例えば、場所を借りるときも親しい人の好意でお借りするなど、お金をもらわない・払わない。

それから、複数人で運営の音頭を取らない。複数リーダーだと意見の調整が必要になり、スピード感が落ちます。コミュニティとして拡大はするかもしれないが、コミュニティの個性・カラーが薄まって、際立たない。だから『ひとりコミュニティリーダー』推しです」

コミュニティ運営では、コアメンバーが3名程度居る事例も多い。木檜氏が『ひとりコミュニティリーダー』にこだわる理由をさらに聞いた。

「複数名で運営している事例はすごく多いと思います。誰かが忙しければ、他の人で運営を回すことができるなど、リスク分散にもなります。『イベントの前に、コンテンツをしっかり用意しなきゃ』など考えると、1人だと厳しいかもしれません。

実は私、コンテンツは作らないんですよ。場だけ提供して、みんなで遊ぼうというスタンスです。

私が何か作るとしても、終了後レポートのみです。それは、イベントが楽しく健全に行われていることをオープンに公開してまだ参加したことのない方に興味を持っていただくこと。加えてイベントに参加してくださったかたの活動や会場提供していただいた企業・団体さんなどの宣伝をさせていただくための取り組みです」

コミュニティを長期的に継続し、クオリティを維持するのは難しい。「毎月定期的にちゃんとやらなければ」と考え、運営体制にこだわる人も多い。しかし木檜氏は、自分自身が気負わず楽しむ、を追求。そのスタンスこそが、参加しやすく居心地の良いコミュニティ構築につながっているのだ。

ひとりで楽しむより、みんなで楽しむほうがいい

コミュニティ活動において「場だけ提供するから、みんなで遊ぼう」「最悪1人でも良いと思っているから、来てくれたら楽しいな」という気負わないスタンスを貫く木檜氏。その方針は、参加者が受け身にならず主体的に楽しめる場にする秘訣でもある。

「初心者向け電子工作教室をやったとき、参加者は初心者だからとコンテンツを作って配布&レクチャーしたんですが、人によって理解度も、興味の軸も、やりたいことも違っていました。通り一遍のコンテンツを用意しても、実はあまり喜ばれないことが1回のトライで分かったんです。自分も手間がかかるし、用意された人もあまり楽しくないので事前のコンテンツ準備はもうやらないと決めました。

それ以降は場所だけ用意して、興味を持ってもらえるテーマを決めて、というスタイルでやっています。

例えば、以前秋葉原にPepper(ロボット)の開発体験ができる場所があり、運営責任者のかたと親しかったのでそこを借りることができたんです。Pepperが約50台も並んでいて、1人1台Pepperが使えるという贅沢な環境です。すると、Pepperが見たい人や、ロボットになんとなく興味のある人がたくさん集まってきます。つまり、場所選びによって参加者を性格づける工夫をしているというわけです。

他にも『駅すぱあと』のサービスを作っているヴァル研究所さんのイベント会場をお借りしたこともありますよ。広報の方と親しく、場所を借りれたんです。『駅すぱあと』のAPIを使える、電車情報や時刻表情報を扱えると言うと、ソフトウェアに興味のある人や電車好きの人など、いろいろな人が集まってきて面白かったですね。普段なかなか入れないスポットですから、みんな撮影可能エリアで写真を撮りまくってTwitterに上げるんです。それを後日、私が取り纏めてレポートにすれば立派なコンテンツになります。

とにかく、『面白そうな場所』にこだわって開催します。普通の会議室などは、まず借りない。場所選びをコンテンツに含めてしまう、という考え方なんです」

その他、コミュニティ運営において木檜氏がどんな役割を担っているのかを聞いた。

「当日の現場では、ざっくりとしたタイムスケジュールを決めておき、終盤に『今日の成果を発表しよう』『見せびらかしたい物がある人は今ここで』という時間を設けます。

また、いろいろな人が参加されるので、人と人を繋げるお手伝いもします。合いそうな人を紹介して繋げるなどは、その場の雰囲気で臨機応変にやります。

趣味の延長線上で、ひとりで楽しむよりみんなで楽しんだほうがいい、という考え方を貫いて活動してきた中でメンバー同士が仲良くなり、結果的にビジネスにつながった人もたくさんいますよ。

ただ、最終的に仕事の受発注の関係になるにしても、まず両者が打算なしのフラットな状態で人間関係が出来てからやる、というのがいいと思っているんです。人間関係において、この人は信頼できるか、関心軸が合うか、でまずはつながる。『この人と一緒にいると得かな』という損得勘定ではなく、『この人と一緒にいると楽しいかな』という発想が大事です。ファンコミュニティで、メンバー同士が互いに名刺交換をして『普段の仕事は何してるの?』と聞く場面はあっても、いきなりビジネスライクにはなりません。『もともとどんなことに興味があって今の仕事に就いたの?』という、お金云々ではないところからコミュニケーションを取って人間関係を築いていくんです」

異なるバックグラウンドの人と接することで、コミュニケーションスキルが磨かれる

木檜氏は、ファンコミュニティをこれから主宰したい人への支援も行っている。そこでも、ビジネス目的でないコミュニティに限る、というスタンスは変わらない。

「コミュニティを自分で始めたい人は、結構いるんです。僕は長くやっていて楽しさを知っているし、参加するより主宰したほうが絶対面白いから、何から着手していいか分からない人の相談に乗って、背中を押すということをやっています。友達もたくさんできて純粋に楽しいので、コミュニティの醍醐味をぜひ知ってほしいと思っているんです。僕が考える楽しいコミュニティとは、社会人のサークル、部活動といったノリ。大人になるとそういう機会が減りますからね」

ビジネス目的のコミュニティでは同業者など、同質の人が集まりやすい。一方、ファンコミュニティはバックグラウンドがまったく違う人が集まることが、面白さの一つでもあるという。

「過去に複数のコミュニティを運営する中で、電子工作の人、ソフトウェアの人、音楽の人、イラストの人、ライティングの人…と全く軸が異なるメンバーが集まった事例もあり、面白かったです。ファンコミュニティに集まってくる人とは、関心軸が1つだけでは無いんですよ。自分が少しでも関心がある領域と、身近に接点を持てる良さがあると言えます」

例えて言うなれば、町のリアル書店へ実際に足を運べば目的の本以外にも偶然の出会いや発見が得られる、そんな状況にも似ているのだという。木檜氏は、自身のWebサイト「Life with IT」でも日頃から発信を行っているが、その中で「エンジニアもコミュニティに入ったほうが良い」と述べている。 

「エンジニアという職種を選ぶ時点で『人と接するのが苦手だから、黙々と作業できる仕事を選びたい』という人が多い。でも、それだけだとつまらないよ、ということを伝えたいんです。しかし、何も接点や共通の話題が無い人とつながろうとするのは辛いですよね。そこで、コミュニティを作れば、同じような興味を持った人が集まる箱ができるんです。興味のあるところに飛び込んでいく『場』ができますよね。入る前は抵抗があるかもしれませんが、主催者を知っているとか、中に知り合いが1人でもいれば、比較的入りやすいと思います。とにかくまずは入ってみることで、友達がたくさんできて楽しくなっていきます。そういう経験をしてほしいんです。

日頃からさまざまな人と接点を持っている人とそうでない人とでは、仕事の結果にもムラが出てくるものだ、と実感しています。例えば、コミュニケーション力が向上し、人の立場に立って話せるようになるとか、説明上手になっていくんです。日頃からさまざま人と接していれば、コミュニケーションスキルも磨かれていきますよ。また、普段はエンジニアとして『サービス提供者側』の立場の人が、コミュニティに参加することで今度は『利用者側』の立場にもなれます。エンジニアはどうしても視野が狭くなりがちなので、コミュニティを通して広げてあげられたらいいなと思っているんです。

私は、現在の勤務先もコミュニティ参加がきっかけですよ。入社時点で、社内の50人くらいは既に知っている人でした。周りにも、コミュニティベースで転職・起業・顧客獲得などの事例をよく聞きます。

キャリア観点でも、コミュニティがベースになっていると転職にも寄与するし、その際のミスマッチも減らせます。だから、コミュニティって良いと思っているんです」

コミュニティ活動は、ビジネスパーソンのセーフティネット

コミュニティ活動は、エンジニアに限らずとも、ビジネスパーソン全般にとってセーフティネットにもなり得るものだと木檜氏は語る。

「ファンコミュニティ活動とは、新たな楽しみを発見したり、友達が増えたりすることで、メンタル面でのセーフティネットにもなり得ます。

また、仕事・キャリア観点で見ると、人が集まるところには、新たなチャンスが舞い込んでくるものです。

日常業務の中で自社内の人とだけ接しているよりも、自分のキャリア形成においてどこが足りないのか、肌感で分かるようにもなっていきます。転職エージェントにアドバイスをもらうこととは、まったく違います。さまざまなバックグラウンドの人と日常的に直接、情報交換ができる。つまり、自分で一次情報を獲得できるようになる、ひいては自分の頭で考えられるようになる、ということなんです」

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