インタビュー

ノーコードで「できない」を可能にし、社会課題解決へ オンラインサロンNoCodeCamp主宰・宮崎氏インタビュー

昨今、ITツールの中でも「ノーコードツール」に注目が集まっている。ノーコードツールとは、コードを書かずともアプリケーションを開発できるツールを指し、エンジニアでなくとも効率的に開発を手がけられる点が大きなメリットだ。

今回は、日本初のノーコード専門オンラインサロン「NoCodeCamp」を運営する宮崎 翼 氏にノーコードツールやNoCodeCampのコミュニティ運営について話を聞いた。

取材した人

宮崎 翼 氏
愛媛県出身、東京都在住/国立工業高専卒業(新居浜工業高等専門学校)/NoCode×カスタマーサクセスマネージャー/法人向けIT導入支援DMMで日本初のノーコード専門オンラインサロン「NoCodeCamp プログラミングを使わないIT開発 」を運営するほか、CoderDojo稲城(こどものためのプログラミングサークル)など、イベントやコミュニティでも活動する。

エンジニアではなく、営業畑からキャリアをスタート

2020年4月より、日本初のノーコード専門オンラインサロン「NoCodeCamp プログラミングを使わないIT開発」を主宰する宮崎氏。これまでどのようなキャリアを歩み、知見を築き上げて来たのだろうか。

「高専卒業後、まずは営業畑からのスタートで、エンジニアだったわけではありません。ITツールに興味を持ち始めたきっかけは、WordPressです。今から10年ほど前、mixiやFacebookなどSNSが流行り始めましたよね。そのようなプラットフォームを自分でも構築してみたいと思ったんです。偶然、書店でWordPressの書籍を読み、それで興味を抱いて個人ブログなどを作り始めたことがITツールの道への入り口でした。その後は、HTMLやCSS、PHP、PythonやRubyなども学んであれこれ取り組んだり…WordPressは現在も使っています」

ノーコードツールで、今まで自分ではできなかったことが可能になる

昨今、さまざまなITツールの中でも特にノーコードツールに高い注目が集まっている。ノーコードツールとはそもそも、どんなものと捉えたら良いのだろうか。

「端的に言えば、ITの進化の延長の話です。例えば電話なら、固定電話、ショルダーホン、スマホと進化の過程を辿ってきましたよね。今では、カメラ、ビデオ、動画視聴も手のひらの中で操作できるようになりました。この進化の過程を見ると、“多機能で小型化していった”というポイントがあります。ノーコードツールも同様で、小さな労力で多くの機能を使えるようになった、ということです。コンピューター言語で言えば最初は機械語(1,0)しか使えませんでした。それが、アルファベット(A,B)が使えるようになり、高級言語が使えるようになり、現在のノーコードツールではマウス操作によってオブジェクトを直感的にドラッグ&ドロップするだけでアプリケーションを作れるようになりました。この進化のプロセスを、誰かしらが言葉の定義として『ノーコード』と言い出し、プログラミング不要でより多くの人がITツール使えるようになったから、現在の流行に至っているという経緯だと思います」

ひと口に「ノーコードツール」といっても幅広いツールが存在する。これらは、エンジニアが自分たちの仕事を楽にするために使っているのだろうか。それとも、ノンエンジニアらによる「今まで、自分で出来なかったことが可能になる」という着眼点での使途が多いのだろうか?

「私のところに来る相談件数で言うと、起業家が多いですね。『新規事業立ち上げに、このツールは使えますか?』といったものです。『アイデアは持っているが、ノーコードツールで実現しますか?』という主旨です。起業家からすると、エンジニアが居なくても、資金が少なくても、思ったことをすぐに形にできるありがたい時代になったと思います。アプリベンダーに開発を依頼すれば、何百万も掛かりますからね」

そのノーコードツールのバリエーションも、従来はWordPressやWixなどWebサイトのフロント側向けプロダクトが多かったが、直近ではデータベース構築など、バックエンド向け製品も増えている。今後もその流れは拡大していくのだろうか。

「増えていくと思います。『NoCodeCamp』のデータベース管理も、ノーコードツールで行っています。ノーコードツールを使わない場合は、AWSでデータベースを構築してエンジニアを雇って…という手順が発生しますが、ノーコードツールを使えば1人ですべてできます」

自らノーコードツールを使って実際に手を動かしているうち、エンジニア依頼する場面でのディレクションスキルも向上するという。

「エンジニア目線で、複雑性を理解できるようになるんです。例えば『メルカリのようなサイト作れないかな?』と思い立った場合に、シンプルなUIの中に複雑なロジックがたくさん盛り込まれていることに気付けるようになります。ノーコードツールの範囲内で『これは、どうしてできないんだろう?』などとと考え始める、ということです。ここで重要なポイントは、起業家にとって難しいところを捨てられる、つまりビジネスコストの取捨選択につながる点です。自分が投資できる範囲で、社会課題・ビジネス課題を解決できそうなものをマッチングさせるということが、より取り組みやすくなりました。」

ノーコードツールに注目が集まる中では、「業務効率化」「お金を掛けずにトライ&エラーができる」といった側面が謳われることが多い。しかし起業家がノーコードツールを活用することで「自分は本来、何をすべきか」の理解にもつながる側面があるのだ。

「その理解が、もっと広がればいいなと思っています。起業時に仮説検証が甘い人が凄く多いように感じます。先程、『メルカリのようなサイトを作りたい』という例を挙げましたが、このような想いを実現させるためには、本来は何億円もの予算が必要です。簡単に実現できる部分、難しい部分を正確に洗い出し、現実に即した仮説検証を行う必要があります。何らか起業したくて、ベンチマークとする企業がある場合、ノーコードツールでそのページを再現してみると、どこが芯の強みなのか分かります。傍から見ていてシンプルなものでも、意外と複雑なアルゴリズムが走っていたりします。生活の中に当たり前のように存在しているものほど、高度であるということに気付けるんです」

オンラインサロン「NoCodeCamp」のはじまり

このように、ノーコードツールが秘める可能性を語る宮崎氏。オンラインサロン「NoCodeCamp」を立ち上げた理由とは、どのようなものだったのだろうか。

「1年半ほど前から、海外でノーコードという言葉の流行が始まりました。ノーコードツールを活用しようという際に一番難しいのは、ツール選定なんです。事業モデルがあって、そこにマッチングさせて、世に出ているSaaSの中から最適な製品を組み込んでいくことが重要なポイントです。しかし、自分でさまざまな製品を試して検証するにはお金も時間も掛かって大変です。そこで、知見を皆で共有し合う取り組みがワークするんじゃないか、と考えたことがサロンの始まりです」

IT開発に取り組む人を全力で応援するコミュニティ

オンラインサロン「NoCodeCamp」は、IT開発に取り組む人を全力で応援するコミュニティとして運営している。参加者皆でITツールを活用して、何かしらのアプリケーション開発に取り組もう、というものだ。サロンでは、毎日のイベント開催や、さまざまなツール・SaaSに関して質問できるフォーラムの設置、スキルアップを遂げたメンバーが賞金を狙えるコンテスト、そしてエンジニアとして独立して案件獲得など、出口までしっかりと設計されている。参加者のニーズに合わせてあれこれと試行錯誤を繰り返すうち、今のような運営形態になったという。そもそも参加者は、エンジニアよりも、ノンエンジニアのほうが多いのだろうか。

「ノンエンジニアのほうが多いのでは、と思います。さまざまなツールを少しかじったレベルで、本業ではない人が多いですね。ツールを操作したことはあるけど、実装を行った経験はない、というレベルです」

ノンエンジニアたちがサロンに参加し、実装過程で分からないことをフォーラムで聞く、といったコミュニケーションが展開されているという。

「例えば、『社内で在庫管理システムを作りたいけど、どんなツールがいい?』など、Web上のブログなどで調べても解決しないことを、集合知で解決していく感じです。分からないことを調べていて検索にヒットしたブログでも、情報が古かったり、参考にならないことも往々にしてあります。自分の環境とは違っていたり、技術力がないと応用が効かず、本質的な課題解決につながらない場面も多々ありますからね」

前提条件がどんなものであれ、疑問点を解決につなげていけることが、「NoCodeCamp」の存在ががありがたいと思われている要因の一つだろう。

「サロンでは、すべての疑問を受け止めています。ツールにもよらず、規模の大小にもよらず、全て回答しています。回答率は100%です。最初は私一人で対応していた時期もありますが、今はメンバー皆の助け合いによって支えられています」

そして、勉強会も毎日開催されている。ツールに関する勉強会、SEO、マーケ、税務、M&Aなどビジネス視点での勉強会、メンバー同士の純粋な交流会、対談、初心者向けイベントなど、そのラインナップも手厚い。起業家として、自分の作ったツールを「売る」「資金調達を行う」といった、先につながるようなリテラシーも育まれている。

サロンに興味を持ってアクセスした人なら誰でも閲覧できるよう、フォーラムに寄せられた質問のトピックタイトルやイベントタイトルは、非会員にも開示している。ノーコードで何かを作りたいという人に「寄り添う」を意識して環境を整えており、一度サロンを卒業しても、またその後に戻ってくる人も多いという。それは、「NoCodeCamp」でしか解決できないことが数多く存在することの現れではないだろうか。

「特にフリーランスで、たった1人きりで活動している場合、ITの課題・疑問に直面した際に受け止めてくれる人が不在で行き詰まってしまいます。課題に対して、ここに来れば何かしら解決はできます、という場所として、居心地は良いのではないでしょうか」

昨今、在宅で1人で働いてる人も増えているが、「NoCodeCamp」はそのような人にとって温かな拠り所になっているようだ。

社会課題を解決する人を数多く輩出する、を目指して

2020年春から数えて、約1年半活動してきた「NoCodeCamp」。フォーラムに蓄積された知見をはじめ、サロン発のアプリケーションなど、さまざまなコンテンツが生み出されている。今後はどのような人にリーチして、展開を広げていきたいと考えているのだろうか。

「社会課題を解決する人を、どんどん輩出していきたいですね。1年強運営してきて、私たち自身も毎月何かしらのサービスをリリースしています。サロンのメンバーで開発したアプリケーションは、250を超えました。例えば、コワーキングスペース向けの無人店舗ソリューションや、動画配信向けの『ノーコードTV』というサブスクリプションプログラムなどがその一例です。このようにどんどん新たなサービスを、困っている人たちのために生み出すサロンでありたいですね。つまり、サロンで学んで終わりではない、ということです。社会課題解決のために、ノーコードツールを活用できる人を増やしていきたいと考えています。私自身も、『SNSを自分で構築してみたいから、WordPressを学ぶ』と、トライしたいことが明確にあったからこそ勉強しました。ツールの使い方自体を学ぶ、ではなく、方法論として身につける、ということです。すなわち、自分の想いを表現することが大事です。ただ、サービスを立ち上げるだけではなく、それを誰かに提供して、何かを実際に解決しないと意味がありません。そのためには、数をこなしたもの勝ちです。失敗して試行錯誤して学んでいくうちに、誰かの課題を解決できる人が育っていく。そういう人が増えたら、小さな課題がまた一つ解決して、社会がより良くなる、ということです」

「NoCodeCamp」で学んだ後、エンジニアとして独り立ちするという出口で、案件獲得などの仕組みは具体的にどのようになっているのだろうか。

「キャンプで出会った仲間たちと新規プロジェクトを立ち上げるなど、自分たちで獲得できるようになって欲しいと考えています。サロン内では、ジョブマッチングなどの手助けもしています。ノーコードに関する書籍もサロンのメンバーと一緒に2冊、作り上げて刊行に至りました。書籍の制作・刊行は、単にノーコードツールについて世間の認知度を上げたい、という狙いだけではなく、サロンメンバーのポートフォリオを充実させる狙いもあります。

また、キャンプ内で『誰々が新しいサービスを作りました』という機会には、プレスリリースもどんどん打っています。これらをネタに、サロンメンバーが自分で案件を獲得できるよう促しているわけです。要は、『NoCodeCamp』で育成したいのは、アプリケーションを開発する人、ということです。サロンに参加して、頑張って勉強すれば、インフラはこちらで整えます、という体制です。今のご時世、アプリケーションを1週間で1個開発できる人材なんて企業が放っておかないですよ」

例えて言うなれば、昨今、多数の動画クリエイターたちが在籍する「ユーチューバー事務所」に通じる側面もあるだろう。つまり、「タレント育成」のスキームである。しかし、「NoCodeCamp」の方針はただ一つ、「アプリケーションを創ろう」という点だけを求めている、ということだ。そんな「NoCodeCamp」レーベルで今後、アプリケーションをリリースする構想についても聞いた。

「今、打刻管理アプリを開発中で、直近でリリースするよう動いています。月1件を目標に、サービスリリースは行っていこうと思っています」

精力的に展開を続ける「NoCodeCamp」。そのサロンを主宰していることで、宮崎氏自身にとっても第一線で活躍し続けるための、良い学びの場になっているという。

「1年前より、ツールに関してまとまった知見の量も増えました。国内でまだ知られていないような海外製ツールに関しても、以前なら見つけたとしても『国内企業では導入ハードルが高いよ』といった反応でしたが、今ではむしろ、喜ばれるようになったと感じています。私よりも先に、サロンメンバーが新たなツールを知っていたり、既に使っている場面にも遭遇します。つまり、お互いに持っている知見を教え合うことができているんです。だからこそ、サロンとは良い場だと感じます。フリーランスで、たった1人でノウハウまとめコンテンツを作っているより、学習速度は格段に上がります。『NoCodeCamp』は、これからアプリケーション開発したい人にとっては最適な環境です」

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