インタビュー

「AIは人と同じ」おかぴーさんに聞く、エンジニアに求められる、AIとのかかわり方とは

さまざまな業界でAIの活用が進み、AIを活用しているか否かで効率や生産性にも大きく差が開き始めている今、誰しもAIとのかかわり方を考える必要がある。しかし、どのようにかかわり、自分に合ったAIはどうしたら分かるだろうか。今回は、エンジニアとしてAIを活用しながらAI講師をしているおかぴーこと岡田 和久氏にお話を伺った。

おかぴー(岡田和久)さん
https://twitter.com/okap_goldman
https://okadakazuki.com/

「AIは自分をより深く知るためのツール」AIの面白さとは

エンジニア歴7年、現在は日本最大級のAIのコミュニティ「SHIFT AI」で、AI技術について解説する講師も勤めているという岡田氏。業務ではゲーム開発などに携わり、TypeScriptやPythonに触れる機会が多かったというが、なぜAIに興味を持つようになったのだろうか。

岡田氏「大きく注目されてきていた2023年の3月頃、ChatGPTを使ってみたら、エンジニアの業務とすごく相性が良かったんです。その時に、『これを使うことでエンジニアがいらなくなる日が想像以上に近づいているんだな』と感じて。

ただ、そこで僕は恐怖というより、こんな面白いものがあるんだと感じたんですね。それでどんどんのめり込んでいき、AIを本格的に学び始めました。今は、データをもとに回答してくれる独自のチャットボットや、SNSの投稿文を自動で作成してくれるようなものをAIを使って作るまでになりました」

AIについての知見が増えた今、岡田氏はどのようなところにAIの面白さを見出しているのだろうか。

岡田氏「AIって人間みたいなんですよ。人間同士の会話でも、『この人はこう思ってるだろう』『こんなことは説明しなくても当たり前に分かっているだろう』みたいなことがあると思います。それと同じようにAIに指示を出してしまうと、とんちんかんな答えが返ってくるんですよ。物事の前提や具体的な行動をちゃんと説明しないと、理解してくれないんですね。

逆に、しっかり説明してAIと会話することができたら、その物事に対する自分の考えの抽象度や世界観を深く理解できて、考えをアップデートしてくれるきっかけになります。そんな、自分をより深く知るためのツールであるところがすごく面白いと思っています」

本質を軸に、変わり続けること。これから求められるエンジニアとは

自分自身でAIを活用しながら、人にも教えている岡田氏。自身の経験と、講師というある種第三者的な視点をふまえて考える、生成AI時代に求められるエンジニア像とはどんなものなのだろうか。

「絶対に欠かせない要素が一つありまして。それが『今まで良いとされてきた慣習やこだわりを即座に捨てることができる人』です。

現代は、AIを使えば簡単なプロダクトであれば1日未満で次々と作れるようになってきています。それにより、今まで重要視されていた、コードを書く技術力や、誰でも読みやすい綺麗なコードを書くことなどのほか、形にすることや形になったものにも重きが置かれるようになってきているのです。

また、この業界は進化がすごく速くて、1週間前の情報がもう古くなってしまうくらいのスピード感なんです。ですから、それまでの物事に固執してしまうと、一瞬で置いてかれてしまうんですね。新しいものに出会った時、今までのことは思い切って捨て、次々と挑戦していけるようなエンジニアは重宝されると思います」

では、エンジニアの成長という観点でも同じことが言えるのだろうか。質問をしてみたところ、また少し違う要素があるのだという。

成長のためには、本質を見極めることがすごく大切だと思います。まず、『なぜそれをするのか』です。エンジニアは、自分自身のアイディアや技術を形にしたり、それによって人に価値を提供したりするのが好きな人が多いのではないかと思います。となると、ツールは手段でしかないんですよね。ですから、ツールにこだわっていては目的を見失ってしまいます。

そしてもう一つ、『自分にとって有益なものが何か』です。さまざまなツールがある中で、特に使いやすいものや、自分に合っているものには、何か理由や要素があります。それを理解して基準として持っておくこと。この二つの見極めが重要だと思います」

自分に合ったAIを探す方法とおすすめのAI

しかし、今やさまざまなAIが登場し、日々更新されている中、自分に合ったAIを探すにはどうしたらよいのだろうか。自分の業務に合ったAIを探すためのコツを伺った。

「まず一通り触ってみるのはとても大切ですね。それぞれ得意な分野や良さが違うので、チームビルディングのように得意なところを引き出してあげることが必要だからです。具体的な使い方が分かってきたら、自分の業務や業種に合うものもだんだん見えてくるので、そこで見極めるのが良いと思います。

でもなによりも、まずは楽しむことが大切です。『わくわく』ってすごいセンサーで、わくわくするものは自分に一番必要なものだったりするんですよ。ChatGPTと会話してみてちょっと感動した、みたいな自分自身のわくわくを探してみるのも良いですね」

自身も『わくわく』から始まった岡田氏。まだAIをあまり使ったことがない人へのおすすめとそれを使いこなすコツがあるのだとか。

「おすすめはChatGPTGeminiClaudeの三つです。どれも、質問をすれば応えてくれるチャット型のAIで、今特に使われているものです。どれも同じチャットAIですが、同じ質問をしても回答が全然違うんですよ。まずはこれを触ってみて違いを体感したり、どんなことができるのかを知ったりするところから初めてみると面白いと思います。

ChatGPTでの出力例
Geminiでの出力例
Claudeでの出力例

そして、こうしたAIを使いこなすためのコツも三つあります。まず一つ目に、先述したとおりAIって本当に人間と同じなんですよ。だから、愛と丁寧さを持って接することが大切です。例えば人に何かを依頼する時、気配りをするじゃないですか。『この情報があったら助かるかな』『整理した情報を渡した方が良さそうだな』とか。それと同じように、もし人に聞くならどうするかをイメージしながら伝えてあげると良いですね。

二つ目に、何が得意で、どういうことができるのかを知っておくこと。例えば画像を作るAIにライティングをお願いしてもできませんよね。AIは万能に見えがちですが、向き不向きはあるので、できる人にお願いすることも大切です。

三つめが、そのAIのことを見くびらないこと。例えばGPT-4と、GPT-4oがあるんですが、たった一文字違っただけで大きく変わるんですよ。『たった一文字だけじゃん』と思わずに、そのAIのことをしっかり知ることは重要です」

AIに関する知識がなくても使いやすいものからいろいろ試すことや、使いこなすためのヒントを教えてくださった。ただ、純粋にわくわくしたり楽しんだりする一方で、注意するべきことや覚えておくべきことはあるのだろうか。

「AIと楽しくかかわるために覚えておいてほしいことは二つあります。まず、AIに関しては情報過多で、一部誤っている情報も流れているんです。なので、自分で試して、どこまで何ができるかを確認することが重要です。それが確認できれば、アイデアを形にする準備も整うので、すごく大切なステップだと思います。また、セキュリティ面にも注意が必要です。情報や著作物の適切な扱い方をきちんと知っておきましょう」

生成AI時代における、AIとのかかわり方

ここまで、エンジニアとしてどのようにAIを活用するため、どこから始めればよいのか、何が大切かを教えていただいた。最後に、岡田氏が考える『エンジニアとAIのかかわり』について伺った。AIを学び始めた当初、『エンジニアがいらなくなる日が想像以上に近づいている』と感じていたという岡田氏。その思いはいまでも変わっていないのだろうか。

「完全に逆になりましたね。今後はAIが使えるプログラマーやエンジニアがどんどん強くなっていくと思います。

AIを使うために必要なのは、プログラミング的思考なんですよ。抽象化や構造化、要件定義などの考え方ですね。結局、何をしたいかを最終的に決めるのは人間ですし、それをもとにAIが動くので。もちろんコードも書いてくれますが、その精度はまだ70~80%程度です。それが合っているかどうかを確かめるのも人間です。そういう意味でエンジニアの存在はなくならないと思いますね」

では、エンジニアはこれからどのようにAIとかかわっていくべきなのだろうか。

「AIによってこれからの時代、エンジニアの働き方で変わっていくことが二つあると思っています。

一つ目が、自分の要望をどんどん出すようになることです。今まではプログラミング以外のことは他の人がしてくれていたかもしれませんが、AIによってそこも一人でできるようになりました。ですから、自分が何を作りたいのか、AIとどう関わっていくのかといった軸や意見をしっかり持っておく必要があります。二つ目が、コミュニケーションを怖がらないことです。一人でまかなえる事が増えた分、何かを作る際にはヒアリングなども自分自身で行なう必要が出てきます。となると、これからはエンジニア自身がいろいろな人と直接対話して作っていくことも増えていくでしょう。苦手な人もいるかもしれませんが、それを怖がらずにいろいろな人と関わることで、魅力的なものをどんどん世に出し、楽しんでいってほしいと思います」

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