株式会社小田島組(おだしまぐみ)は、岩手県北上市に拠点を置く建設会社です。1970年の創業以来、岩手県内の公共事業や土木・建築事業を担ってきました。若者・女性社員の採用への注力やITツールの積極的導入、首都圏に流れがちな人材の流出を防ぐために給料を首都圏と同じレベルに設定することなどを推進していった結果、生産性の向上や残業時間の削減に成功。業績も右肩上がりを続けています。こうした取り組みは近年、厚生労働省から働き方改革の事例として紹介されるなど、今各方面から注目を集めています。今回は、株式会社小田島組代表取締役の小田島直樹氏をお招きして、お話を伺いました。
若者の首都圏流出と女性の雇用機会喪失に危機感を覚えて
社長になった当時は社員が35人で売り上げが7億ぐらいの時。公共事業のみを手掛けていました。バブルの崩壊とともに、会社の経営が大変厳しくなってきて、新卒採用も2008年まで2~5人程度、全くできない年もありました。ところが2009年頃からありがたいことに新卒採用ができるようになり、今年度は約20人、来年度も23人を迎えることとなりました。現在、全社員約150人で、150人のうち30歳以上が50人、20代以下が100人。20代以下の社員は女性が半数を占めています。平均年齢33.8歳、中央値は26歳です。こういったことを実現できるのも、ITの導入を含めて、いろいろな改革を進めてきたことが実を結んだ結果だと自負しています。
やる気がある人は東京行くので、東京の大学に入ってしまうと、岩手県には働ける会社がほとんどないんですよ。それに地方だと女性は就職の時にやはり不利なんです。同じ成績だったら、女性ではなく男性を採用するのが現状です。やる気がある若者を岩手に残して、岩手で活躍できるようにしたい。そのためにも能力とやる気がある人が集える会社を作りたい。そして、女性が笑顔で働いて活躍できる世の中を目指しています。
新卒採用は業績拡大のために必要なこと
新卒採用に力を入れたのにはいくつか理由があります。もちろん業績を拡大したいからというのもありますが、やはり中途採用は読めない。新卒だとある程度マーケットがあるから計算できます。
業績を拡大するには社員の価値観を変えなければいけませんが、年を取ってある程度仕事に自信のある人の価値観はなかなか変わらない。新卒で入社した社員を教育していけば、自分と同じような価値観を持ってくれる。
そして普通の経営者は、何かあったときのためにお金を貯める。もちろんその考えも一理あるけど、私は会社が悪くならないためには、社員教育や社員の採用にお金を使うことが大事だと強く思っています。
会社の規模が今と同じでいいのであれば、辞めた分だけ雇えばいい。でも組織を拡大させようと思ったら、やはり新卒採用に注力するしかないと思います。
誰と働くか。人より「こと」を評価。小田島組の採用と評価
実は、採用の時に仕事内容を一切説明しません。人はやはり給料の高い会社、潰れない会社に入ろうと思います。自分の実力が低くても給料が高かったら、辞められない。辞めても世の中で通用しないから。給料が高いからではなく、高い給料をもらえる人に成長できる会社、転職しても通用できる人材にいかに育つかが大事なんです。
面接に来た学生によくこう言います。「仕事は内容で選んじゃいけない。仕事は何でもやるんだよ。だからその会社で何をやるかじゃなく、その会社がどういうコミュニケーションの取り方してるかを調べなきゃいけない。ウチは誰と仕事するかを大事にしてるんだよ」って。
とはいえ、人事評価では人ではなく「こと」で評価します。
基準が決まっているので、それに則っていなかったら出世できません。当然、社長である自分の好き嫌いは一切入らない。人ではなく、やった「こと」を、全て数値化して評価してます。
弊社は評価も、給料や賞与の金額もひと月ごとに全て公開していて、社員全員が全員の評価を見られます。もし文句ある場合は言ってもらい、話を聞いて、会社全体からみて正当なものであったら、その意見を採用する。1カ月以内に何も意見がなければ評価が確定するというルールを設けています。そういう意味ではすごく風通しがいい会社だと思います。
給与アップには生産性の向上が不可欠
事業を拡大して、給与も上げたいという想いで、人事評価をもとに社員の給与を上げています。モデルケースでいうと、30代で500万、40代で570万、50代で589万。これは平均年収ベースだと大阪と東京には負けているんですが、岩手とか宮城には明らかに勝っています。さらに東京と大阪に年収で追いつくには、どうしても生産性を上げる必要がある。そのためにもIT化、徹底した業務の細分化を進めています。
仕事で使う書類を全てクラウドに集めて、iPhoneやiPadから、どこにいてもどんなときでもアクセスして仕事ができる環境を整備しました。そして、例えば1から10まで仕事を細分化し、2と7だったら若手でもできるのであれば、2と7だけを若手にやらせる。4と5はベテランにしかできないのであれば、4と5の仕事をITを使って集め、ベテランに任せています。具体的には、現場なら、朝礼やって現場パトロールやって書類を作って写真を撮って、測量してミーティングをする。このうちミーティングはさすがにリアルじゃないとできないですよね。丁張りかける測量も無理ですね。だけど写真を整理する、書類を作るのは別に現場じゃなくともできます。
10までの仕事をひとりで全部するよりは2と7、4と5だけに特化して社員がやった方が生産性が高まります。
さらに、面談や商談、朝7時~7時45分までの社長勉強会や全体での朝礼も、今ではオンラインでやっています。商談だと「こういうことはこうなった」と、今まではメールで結果を報告していましたが、録画した商談の様子を観てもらったほうが早いことに気づきました。
それから弊社は、通勤は、自家用車ではなく公共交通機関の利用を推奨しています。東京は、実際に電車の中で仕事をしている。でも地方に住んでいるから車通勤で、移動中何もしてないのでは、東京に勝てない。そこで「通勤革命」を進めています。公共交通機関での移動中は勤務時間とみなす。勤務時間が8時からだったらその少し前に家を出て8時から電車の中で仕事をして9時に会社に着く。帰りも午後の4時には会社を出て電車の中で仕事をしながら終業時間の5時に駅に着くという感じです。
移動中も仕事をするので、今まで自家用車での通勤に充てていた時間が浮きます。その時間をスキルアップや家族と一緒に過ごすなど、有効に使ってるんです。
同じ生産量を短い時間で行えば生産性が上がるし、給料にも反映できる。こういった考え方で生産性を上げることに努めています。
若い人たちへの想い、未来に残したいもの
今の若い人たちは、自分が若い時とは価値観が変わってきています。何かに社会的に貢献するとか、いい仲間と仕事をするとか、何かに没頭できるなどに喜びを感じているんですよね。そういった若い人たちの価値観の変化を受け入れられるようになったのは、TikTokやYouTube、SNSでの積極的な発信や、積極的に新卒採用を進めていく中で、若い人たちと会話をする機会が増えているからです。彼らには計り知れない可能性を強く感じていて、彼らが笑顔でいられる社会を作りたい。肉体は若い人より先に朽ちるけれど、この未来に対する夢とか希望は若い子よりあるつもりです。
会社を経営して、何が自分の目標かと考えたら、お金ではなく自分たちの理念や考え方、生き方といったものを社会に共感という形で残すということでした。それをブランディングと定義をしています。生産性と給料が高く、東京に負けない会社を作る。ワクワクドキドキがいっぱいの会社にする。私たちのやってきたことを通して、次の世代がそれをマネタイズしていく。そういったことを社会に残したいですね。
まとめ
小田島さんは最後に、「昨日より今日、今日より明日みたいな感じで会社は常に成長、脱皮をしていかないと」という言葉を残しました。
建設業界は総じてベテランの社員が多く、今後2025年を境に労働人口が徐々に減っていくという試算があります。小田島組が社を挙げて取り組んでいることは、一見すると難しそうに思えるかもしれません。しかし、会社の規模を問わず、現状を変えたいという熱い思いを抱いて、できることから少しずつ取り組んでいけば、建設業界も地方も発展を続けていくことでしょう。