インタビュー

参加者の学びと成長を支えるコミュニティづくりの秘訣とは?TECH WOMAN KANSAI代表かほ(@kaho_eng)さんインタビュー

IT業界において、女性エンジニアの割合は21.9%とまだまだ少ない(参考:情報サービス情報協会「2021年版情報サービス産業 基本統計調査」)。人数にすれば4人に1人未満であり、グループに女性が1人しかいない、というケースもある。その中で、「同性のエンジニア仲間がほしい」「同じ女性エンジニアの話を聞いてみたい」「IT業界での女性のキャリアってどんな感じなのかな」といった思いを抱く女性は少なくないだろう。

「TECH WOMAN KANSAI」は関西在住の女性エンジニアを応援するコミュニティだ。もくもく会やスキルアップのためのイベントを開催している。今回は、そこで代表を務めるかほさんに、活動の様子やコミュニティを通じたエンジニアのスキルアップについて伺った。

「女性も参加しやすい勉強会があれば」の思いがきっかけに

TECH WOMAN KANSAIは、現代表のかほさん(@kaho_eng)が2022年の8月に立ち上げ、もうすぐ設立から2年を迎える。そもそも女性のエンジニアは数が少なく、自身も女性との接点が少ないと感じていたというかほさん。どのような経緯でコミュニティを立ち上げたのだろうか。

前職で初めてIT業界に入って、開発部署の所属になりました。その当時フルリモートで働いていたので人との接点がなく、自分の会社の外の世界も一切見えない状況だったんです。そのような状況から脱したいと思い、まずは外とのかかわりを持つために男女関係なく参加できるエンジニア向けの勉強会やイベントに足を運びました。

でも、どこへ行っても女性がほとんどいなくて。ある時、参加している女性が私1人だけの時がありました。知り合いの男性もいましたし、私としては普段通りに皆さんと技術について話をしていました。しかし、周りの男性の中には『女性に話しかけるなんて…』と、コミュニケーションに壁のある人もいたんです。

そんな経験から、IT業界はまだ女性が少ないために、女性がイベントや勉強会などの交流の場に足を運びづらい環境なのではないかと思うようになりました。

それである時、X(旧Twitter)でふと『女性限定の勉強会があったらいいのに』とつぶやいたんです。すると『やってみたら?』と言ってくれた方がいたんですね。それをきっかけにやってみようと思い、立ち上げたのがTECH WOMAN KANSAIです」

人が集まる理由は、学びや交流のための充実したコンテンツ

Xがコミュニティの原点であり、当時から現在までもXでの発信を積極的に行っている。かほさんのふとした思いから始まったコミュニティだが、これまでに100名以上の参加者を集めてきた。

「立ち上げ当初の参加者はすごく少なくて、5人集めるのがやっとなくらいでした。やっぱり”関西圏のIT業界の女性”ってすごくニッチなんだと感じましたね。

でも、継続的に取り組んでいるうちにSNSの力もあって少しずつ広まり、オンラインもくもく会には安定して毎回10人以上が参加してもらえるようになっていきました。そうして、オンラインやオフラインを合わせてこれまで100名以上が参加していただくくらいになりました。続けていくなかで、いろいろな人の居場所になってきているのかなと思います」

ターゲットがニッチな中でもこれだけの参加者を集めるようになるまでに、Xの影響は大きかったという。しかし、人の居場所となり、集まる人が増え続けているのは、コミュニティ自体の魅力があるからこそだ。

「私たちはイベントなどのコンテンツ作りにも力を入れていて、それが人を集めることにつながっているのではないかと自負しています。

提供しているコンテンツとしては、「キャリア系」「技術ハンズオン」「交流系」の大きく3つです。キャリア系ではIT業界で活躍している女性に講演をしに来ていただいたり、技術ハンズオンでは注目されている技術やツールなどについて講師の方に教えていただいたりしています。

最近はいろいろな団体さんとコラボもしていて、直近では3月20日にGoogle Developer Group 京都、Women Techmakers Kyotoと「International Women’s Day 2024 in Kyoto」というイベントを開催しました。このイベントでは、女性に向けたキャリアや技術のセッションとワークショップを行い、参加者同士の交流会も実施しました」

「交流系ではSlackで参加者同士が会話する場を用意したり、定期的にもくもく会を開催したりしています。

Slackでは技術に関する会話はもちろん、プライベートな会話ができるようなチャンネルも用意しています。もくもく会は毎月第2木曜日と第3土曜日の固定開催です。オンライン開催の割合が高いですが、オフラインでの開催もしています」

オンラインやオフラインを通じたさまざまな交流の場が用意されているTECH WOMAN KANSAI。参加するメンバーはどのような人たちなのだろうか。

「20代後半から40代の人が多く、学生さんも少しいます。スキルに関しては初級の人から上級の人まで、幅広いですね。IT業界に入ったばかりの人もいれば、20年以上の経験がある人もいます。

また、技術に関しても比較的偏りはなく、幅広いです。デザイナーやバックエンドの方もフロントエンドの方もいますし、ネットワークの方もいます。しいていえば、WEB系と業務システム系の方が多いかもしれません。」

成長のために必要なのは、まず参加して楽しんでもらうこと

TECH WOMAN KANSAIに人が集まるのは、コンテンツの充実度だけではない。多くの人が参加しやすい環境づくりにも力を入れているのである。

その源となるのが、運営における3つの理念である『直接交流できること』『技術コミュニティに参加する心理的なハードルを下げること』『アウトプットできる環境を作ること』。この理念の背景にはどのような思いがあるのだろうか。

「運営においては、誰でも参加しやすい環境作りをすごく大切にしているんです。なので、内輪で盛り上がっているような雰囲気には絶対にならないようにしています。実際、なっていないからこそ『来やすい』と言ってくれる方が多いのではないかと思っています。

また、楽しくアウトプットできるような環境作りも目指しています。アウトプットって、それがどんな形であろうと学びや成長になり、ひいてはキャリアにつながると思うんです。それをしないのはもったいないので、楽しい雰囲気の中でアウトプットに挑戦できるようにしています。

その取り組みとして行っているのが、qiitaでの投稿です。コミュニティの参加者に『書いてみませんか?』と声をかけて、交代制で書いてもらっています。運営チームの担当者と壁打ちしたり、内容をチェックしてもらったりもできるので、初めてでも安心して挑戦できるような体制を整えています」

学びや交流への志が高くても、何かに参加したり取り組んだりしなければ何も始まらない。何かしたい人が、そのスタートを切ることができる環境づくりを大切にしているのである。

「他の女性コミュニティにも参加したことがある方から聞いた話ですが、何かしらの問題意識を抱えていて、それを解決するためじゃなければ入れないような団体が多いのだそうです。

私たちのコミュニティは、『一歩踏み出してみたい』『人と交流したい』『知見の共有をしてみたい』など、まず何かしてみたい人向けにも開かれています。ちょっと覗いてみたい、という人でも気軽に参加できるような環境づくりは大切にしていますね」

コミュニケーションを通じた気づきと自由な挑戦はコミュニティだからこそできること

コミュニティで開催されるイベントやもくもく会、日常的なコミュニケーションやqiitaの投稿を通じて参加者たちの学びの機会を生み出しているTECH WOMAN KANSAI。具体的にどのように参加者同士のコミュニケーションが生まれ、それがどのように成長やキャリアに影響しているのだろうか。

「例えばもくもく会では、作業が終わったら雑談する時間を毎回設けているんです。そこで『こういうことに興味があるんですけど、知見のある方はいますか?』『こんなことをしている人はいませんか?』といった話題がよく出るんですね。

そういう会話の中で技術に関して学ぶことはもちろん、自分の置かれている環境を客観的に見たり、それまで目にしてこなかった外の環境に触れる機会になったりするんです。

例えば他の会社の取り組みを知ったり、自分の会社で扱っている技術がレガシーなのか新しいのか、どんな違いがあるのかを知ったり…。お金や待遇に関しても、そこで初めてほかの会社がどうなのかを知ることができた人もいるようです。

それをきっかけに、自分のキャリアを見つめなおしたり、何か行動に移すことができた人がこれまでにいました。今まで見たことのない世界を見たり、新たな視点で物事を考えたりする機会は、コミュニティにいるからこそ得られるものだと思います」

勉強会やもくもく会では、個人のスキルアップに目が行きがちだ。しかし、そこで生まれるコミュニケーションや気づきは、コミュニティに参加しているからこそ得られる貴重なものなのである。

IT業界においては、サービスや事業領域、ビジネス戦略などによって用いる技術や言語が異なり、何を経験したかが今後のキャリアにも影響する。その中で、外のことを知り、自分の立ち位置を知ることはキャリアを考えるうえで非常に重要なことだ。

また、コミュニティならではの学びや成長はコミュニケーションによるものだけではないという。

「コミュニティは、参加者たちが仕事以外での新たな挑戦をする場にもなっています。

そもそもコミュニティは仕事ではないので、自由に行動しようと思ったらできるし、逆にそういう意思がなかったら何もないままの環境です。だから、自由に活動や挑戦できるような雰囲気作りも大切にしていて、実際、意見を出してそれが実現しやすい場になっていると思います。

例えば、仕事では使わないけど勉強してみたい技術があれば、運営チームと相談して勉強会を開催したり。『こんな人に話を聞いてみたい』という考えがあれば、コミュニティを通じて交渉をし、講演会をしてもらったり。やってみたい人がいれば、イベントの企画や運営にも参加してもらったり。会社ではできないことや、会社とは別のことにチャレンジして学べる機会があるのもコミュニティならではだと思います」

参加者が増え、イベントの幅も広がってきているTECH WOMAN KANSAI。これからの展望についてかほさんは、「これまでより、もう少し技術やキャリアにフォーカスしたイベントを展開したいと考えています。そうして有益なコンテンツをさらに充実させていくことで、参加者たちのスキルアップに寄与していきたいです」と語る。