インタビュー

文系でも現場力×調整力で建設会社のDXにチャレンジ―株式会社後藤組 笹原尚貴さん―

本記事では、株式会社後藤組で経営管理部に所属し、経営管理の仕事をしつつkintoneをはじめとした多様なツールを使い、会社のデータドリブン経営推進の一翼を担っている笹原尚貴さんにお話を伺いました。現在のお仕事ややりがい、DX推進担当者に求められるスキルやマインド、今後の目標などを語っていただきました。

建設現場を理解しているDX担当者の誕生

2015年に入社して、営業や工事の裏方と呼ばれる積算、工事部などを経験してきて、現在は経営管理部という部署で課長をしています。経営管理の傍らDXを推進する、まさに二足のわらじを履いている感じです。DXに関しては、今は社員にアプリの作り方を教えているので私が作ることはなく、どちらかというとkintoneを使った業務のデジタル化やkintoneに集約されたデータの整理や分析が主な仕事です。こういうふうに自己紹介をすると「チーフデジタルオフィサー(CDO)っぽい」と捉えられがちなんですけど、あくまで仕事の軸足は経営管理に置いています。

弊社がDXに取り組むことになった当時は、エンジニアが在籍していなかったので、社員の誰かが職種をスライドするしかない感じでした。私自身、大学は経済学部という文系学部の出身でエンジニアの経験はなく、しかも実はパソコンがあまり得意ではなかったのですが、「得意そうだから」っていう感じで社長からDX担当を任されました。何から手をつければいいのか分からず、社内にプログラミングを教えてくれる人もいない中、本当に手探りでDXを始めました。

仕事のやりがいとしては、やっぱり自分発信でいろいろ変えていけるところですかね。会社で社員として働いていると、会社に大きい影響を与えることはあんまりないと思うんですけど、「デジタルは笹原に聞いとけ」みたいな感じで上の人たちからも信頼されてるので、デジタルを使った業務改善提案が通ったことは結構あります。

社員に伴走するDX担当者を目指して

DX担当になって最初に取り組んだのは、「kintone」の導入でした。偶然「kintone」の存在を知り、これならプログラミングができない自分でも使えると社長に直談判して、導入してもらったんです。その後はkintoneでできることを社内で小規模でプレゼンしながら、部署で困ってることをヒアリングし、アプリ化するという作業を行ってました。
しかし、1人で請け負っていたので、すぐにいろいろと限界が来まして。作ったアプリもあまり使ってもらえませんでしたし……。その様子を見ていた社長から「もうアプリは作るな。蓄積したデータの活用方法を考えて、設計から実装までを社員が自分たちでできるようになる環境整備が大切だよ」と言われてしまい、悩んだ末勉強会を始めることにしました。

勉強会の内容は、現在もそうですがプログラミングというよりkintoneの活用方法だったりデータ分析の方法だったりっていう感じですが、当初は誰も参加してくれず、参加してもそこで終わってしまうことがしばらく続きまして。「それをやるだけのメリットを与えるか、それをやらないと被るデメリットがないと社員は動かない」という社長からの言葉で、全社員が参加する「データドリブン大会」を思いつき、年1回kintoneやデータの活用方法をプレゼンする場所を作ったんですね。一方で、上の人が下の人にアプリ作成を依頼していることも分かったので、「社内資格制度」を設け、社内で資格を1度習得すると毎年資格手当が支給されるようにしました。kintoneアプリのスキル習得をしたことを会社として認めることで、頑張った人が報われるようにしたんです。

こういうふうに少しずつkintoneを社員が使うように環境を整備していったことで、これまであんまりDXに興味なかった人や積極的じゃなかった現場の社員が勉強会に顔を出してくれるようになったり、資格手当があるので新入社員たちは最初の1週間で猛勉強して取ろうとするようになったりと、社内にもいろんな変化が起きました。データドリブン大会の開催が社内にkintoneが根づくきっかけとしては結構大きかったなと思います。私のところにkintoneに関する相談が社員から来るようになったのもその頃からでした。

DXがここまで推進できたのはある程度規模が小さい会社だからこそですし、何より社長の猛烈な後押しがあったこと、本当にそれありきだったなと思いますね。それと、建設業界はいまだに紙文化ですし、FAXも使うほどアナログな部分が多く存在します。改善提案を出していくつか通ったこともあるんですけど、DX担当としてできることがまだまだたくさんあると実感しています。

DX担当に必要なのは、ITの専門知識よりも「調整力、構造化、チャレンジ精神」

DX推進には確かにある程度ITの知識は必要ですけれども、それよりも円滑に進めるためのスキルやチャレンジ精神の方がはるかに大事ですね。

まず、現場の人が問題に思ってることをきちんと吸い上げる力や、自部署の部下との関わり、幹部の人たちを動かすための根回しといったところでのコミュニケーション能力というか調整力は必要です。何かを始めるときに自分発信だと動いてくれないので、DXに理解のある偉い人たちから発信してもらうように働きかけます
DX推進にあたっては、正直嫌われてしまったら終わりだと思っています。それから、社員から相談が来たらホワイトボードに書いたり、オンラインの場合は画面共有したりして全体の問題を整理しながら「kintoneはそちらでお願いします。この部分はこういう機能をこちらで付けますので」と、私と社員、それぞれが担う仕事に落とし込んでいく作業が必要になってきます。

ITスキルに関しては、学習でいうとUdemyみたいな動画学習サービスを活用するとか、企業が実施してる勉強会に顔を出すとかいろいろあると思いますが、実務では1個の部分を極めるよりも目的に応じた言語を選択できるように広く言語を知っておくとか、ノーコード・ローコードツールを理解してる方が、中小企業がDXを進めていく上で求められるスキルだと思います。

あとはいろんなことに興味を持って、経験がないことこそ進んでトライする。参加すると情報が得られるし、社外の人とも繋がれるので、いろんな勉強会やセミナーに顔を出すことも重要だと思います。私の場合はDX担当になったことで、本当にさまざまな経験ができたし、会社全体の仕事のフローも把握できたことで現場単位でのDXを進めることができています。

今後取り組んでいきたいこと

入社当初は営業でしたが、いつの間にかDX担当者になり、サイボウズさんのコミュニティとかに入ったり、クラウド実践大賞やkintone AWARDで賞をいただいたりとかしているうちに、他の会社さんから「後藤組さんの使ってるツールください」ってよくお声がけをいただくようになりました。そういう声を受けて、これまで蓄積してきた自社内のDX推進の経験から、現場で実際に役立ったシステムをきちんとパッケージとして他の会社の方に提供することに挑戦したいと思ってます。新規事業っぽい感じですけど、自社で使っているものを会社ごとに最適化して提供すればいいんじゃないかと、構想ですけど考えているところです。